絡まる子

小説を読むのが好きです。読書は旅に似ているし、自由な旅人のよう。そんななかでいろんな書…

絡まる子

小説を読むのが好きです。読書は旅に似ているし、自由な旅人のよう。そんななかでいろんな書物と戯れ、絡み、絡まれ、吞み込まれながら転がり続けていきます。転がる石のように…でもなく絡まる石のように、コロコロ。古今東西の名著から、そうでないものまで縦横無尽に。読書感想が主です。

最近の記事

物語りの愉しみ~摩訶不思議な南洋の島で~

『マシアス・ギリの失脚』池澤夏樹 著:新潮社文庫  1994年に刊行された池澤夏樹ロングインタビュー『沖にむかって泳ぐ』(インタビュアー新井敏記)によると、この小説の構想は、外から見た日本を描くということと、それをファンタスティックに書きたかったところから始まっているのだそうだ。その方向への促しとしてあったのが、ラテン文学のガルシア=マルケスの『百年の孤独』。マコンドという原始的な村で奇想天外な出来事が起こりまくる、いわゆるマジック・リアリズムの世界である。あのマコンドのよ

    • 死を寿ぐ

      『シンクロと自由』 村瀬孝生 著:医学書院  著者である村瀬孝生さんは、老人ホーム「よりあいの森」の所長をされている方です。本書はその実体験を通した介護経験談なのですが、ただの介護エッセイではありません。テーマとなっているのは、”わたし”という自己と他者がどう同調、シンクロできるかということです。もしくは”わたし”の内面と外部との世界の同調の在り方など。  こうして書くと難解なのですが、ようするに認知症である老人と関わるときに、どう相手の気持ちを介護者が読むか、というときに

      • 海に生きる人びと

        『星の航海術をもとめて ホクレア号の33日』ウィル・クセルク(著):加藤晃生(訳)青土社  マガジンハウスの雑誌『Tarzan』の最新号はハワイ特集。なかでも目を引いたのが、航海カヌー、ホクレア号に関する記事だった。  ホクレアとは、言わずと知れたハワイ人のルーツであるポリネシア、タヒチまでの何千キロを、まったくエンジンもGPSも使わずに航海するカヌーのこと。ハワイの人々にとっては、自らの海洋民族としてのルーツや、アイデンティティを懸けたプロジェクトでもあるらしい。記事によ

        • ただ情欲だけでなく、生きていくために抱き合う

          『落下する夕方』江國香織 著*角川文庫  ちょうど一週間前。夕暮れ散歩していたら、ちょうど夕日が落ちようとしている瞬間に出くわした。光輝く空がとてもきれいでずっと見ていた。そのとき「落下する夕方」と思わず、呟いてしまった。落下する夕方、と何度も、なんども。  そんなわけで、ずいぶん昔に読んだ小説を思い出した。そういう心のちいさな衝動にはなるべく素直に従うようにしているのだ。なので書店へそのまま足を向けたのだった。  江國さんは小説のあとがきでこう言っている。  たぶん、

        物語りの愉しみ~摩訶不思議な南洋の島で~

          シーシュポスの苦難

          『WILDRNESS AND RISK~荒ぶる自然と人間をめぐる10のエピソード~』 ジョン・クラカワー著:井上大剛訳 山と渓谷社  青年がアラスカの荒野へひとり分け入り死ぬまでを追った、ベストセラー『荒野へ』のクラカワーが1990年代に雑誌に書き溜めた記事を編纂したエッセイ集。本書はタイトル通り10のエッセイを収録。   マーク・フ―、最後の波  ハワイのワイメアベイにもひけをとらないサンフランシスコのマーベリックスの大波。その波に挑むビッグウェーブサーファーたち。な

          シーシュポスの苦難

          夜の校舎の窓を叩け!

          『何が私をこうさせたか 獄中手記』金子文子 著:岩波文庫  おれは世代的に尾崎豊とか青春だったんだけど、「卒業」って歌あるよね。有名なやつ。尾崎はもちろん好きだったけど、この歌はどうもピンとこなかった。だって自由になるのに、なんで夜の校舎の窓ガラス壊してまわるのか、よくわからなかった。管理されたくないなら、学校なんてとっとと辞めて、外国へ旅に行っちゃうとか、働いて独り立ちとかすればいいのに。  まぁ、とにかくこの本は自由について書かれた本なんだけど、ある意味そんな類の自由で

          夜の校舎の窓を叩け!

          水溜まりを避けて歩く

          『遠い声 管野須賀子』瀬戸内寂聴著:岩波現代文庫  本書は、明治の社会運動家、管野須賀子の評伝小説。  明治44年、1月24日の冬の独房での夜明け前から、須賀子自らの独白として語られる31歳の一生。大逆事件の企てによる死刑の当日の朝を起点として、凝縮された濃密な時間を、回想という形で語っていく。  大まかに分けると、ふたりの男との思い出が軸に描かれる。 一人目は、共に処刑されたアナキスト、幸徳秋水。出会いから、愛し合い、思想を共にしていくまで。  もう一人が社会主義者、荒

          水溜まりを避けて歩く

          病気という災禍

          『みぞれふる空 脊髄小脳変性症と家族の2000日』米本浩二 著:文芸春秋  「苦海浄土」の石牟礼道子氏を研究する作家、米本浩二氏が2013年の新聞記者時代に書いたのが本書。四十半ばで、脊髄小脳変性症という神経難病を発症した米本氏の奥様、佐恵香さんと家族との6年近くの闘病記だ。    脊髄小脳変性症とは、小脳の萎縮で歩行困難や言語障害が出る難病。現在治療法がなく、辛うじてリハビリで現状を保つしか方法がないとのこと。  発症が2008年で、闘病の最中で東日本大震災が起こる。ご

          病気という災禍

          私たちの、大江健三郎

          池澤夏樹=個人編集 日本文学全集『大江健三郎』河出書房新社  先月のドイツの脱原発の実現のニュースから、私たちの国の原発回帰にいたるまでの流れ、先日には福島第一原発の原子炉土台の損傷をめぐる東電の危機意識の低さなど、原発に関するニュースはいまだ事欠かない。  そんなおり、大江健三郎が亡くなった。ロスジェネ世代の私たちにとって大江さんは主流ではないが、ショックというよりとにかく読まなきゃ、と、本棚の奥に仕舞われていた本書を取り出した。これは池澤夏樹が自身の独断で選んだ編纂本

          私たちの、大江健三郎

          ウディ・アレンは食品売り場の片隅で

          『カイロの紫のバラ』 THE PURPLE ROSE OF CAIRO 1985年 アメリカ 監督ウディ・アレン DVD20世紀フォックス  ウディ・アレンの映画『カイロの紫のバラ』をずいぶん久しぶりに観た。高校生の頃、深夜のテレビ映画の再放送で観た以来かな。映画は1985年に公開だった。  それは先日の週末、妻と近所のスーパーへ買い物に行ったときのこと。 食品売り場の入口で、大安売り!と書かれた映画のDVDが並んだワゴンを見つけたのだ。よくわからないアクション映画とか

          ウディ・アレンは食品売り場の片隅で

          書を捨てず町へ、自然へ出よう

          『余白の春』瀬戸内寂聴 著 岩波現代文庫 ブレイディみかこの『両手にトカレフ』を読んで、金子文子に興味を持ち、本書を手に取った。  さて、『両手にトカレフ』が、金子文子の幼少期から、自殺未遂を起こす少女期をメインに描いているのに対し、寂聴の『余白の春』では、文子の自伝以後の、朴烈との出会いから、栃木刑務所での自死まで。あくまで、大逆罪(正確には大逆予備罪)に問われ、取り調べから裁判までが描かれる。    伊藤野枝を書いた『美は乱調にあり』などと比べると、小説というより、

          書を捨てず町へ、自然へ出よう

          だからさ、死んじゃだめだよ。14歳の君たちへ

          『両手にトカレフ』ブレイディみかこ 著:ポプラ社  若い君たちへ  この本はね、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』のブレイディみかこさんの初の小説らしい。あらすじはこんな感じ。  イギリスに住むミアは、君たちとおんなじ14歳の中学生。薬物中毒の母親と弟のチャーリーと暮らしてる。父親はいなくて、母はジャンキーで仕事や家庭のことも出来ないから、すごく貧しい。代わって8歳のチャーリーの世話もミアがやってる。  そんなミアがある日、図書館で一冊の本に出合うんだ。それは

          だからさ、死んじゃだめだよ。14歳の君たちへ

          武田砂鉄に勇気を貰う

            『父ではありませんが 第三者として考える』  武田 砂鉄 著:集英社  個人的な話だが、私は数年前に結婚したのだが、自分も妻も四十を過ぎており、いわゆる晩婚というやつだ。子供はいない。子供を作る作らないについては、しっかり話し合ったというよりは、お互いそれほど若くはないのだし、というところで落ち着いている。  本当は、私も妻も共働きだし、自分たちの年収や、自分たちの仕事の休暇の取得もあまり取れない状況…などを考慮すると、やはり積極的にはなれないという側面も。(ある自民党

          武田砂鉄に勇気を貰う

          国が守りたい社会って?~フェミニズムを語るコトは政治を語るコト~

          『彼岸花が咲く島』李琴峰 著:文藝春秋  今月の1日、岸田首相は同性婚の法制化について「社会が変わってしまう」と否定的な答弁を行った。国際世界では、あらゆる差別を否定し、多様性の尊重が大きな潮流となっているのに。 そして、4日。今度は首相秘書官のLGBT、同性カップルへの差別的発言。 まぁ、首相がそうなのだからだから、その秘書官がそんな発言するのは不思議ではない。  呆れるというより、いつも思うのが、いったいこの国が意地でも守りたい社会ってなんだろう?  先日、社会学者、

          国が守りたい社会って?~フェミニズムを語るコトは政治を語るコト~

          日曜の「サザエさん」が終わる日

          『フェミニズムってなんですか?』清水晶子 著:文春新書  日曜日の夕方、妻はいつも決まってテレビで「サザエさん」を観ながら洗濯物を畳む。僕は大体台所にいて、ちょうど夕食を作っている。  結婚して一番変わったのは日曜の夕餉の過ごし方だ。だって、僕はサザエさんなんか観たのは子供の時以来。時代背景が昭和だからか、なんとなく懐かしくて、平和でほのぼのとしていて日曜の夕方って気がする。 サザエさんではよく一家団欒の場面が出てくる。卓袱台を囲んでの光景。波平が茶の間でお茶を啜りながら新

          日曜の「サザエさん」が終わる日

          『カラマーゾフの兄弟』と山上容疑者の父殺し

          『カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー著:亀山郁夫(訳)光文社古典新訳文庫  ようやくドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を読了した。先週の十四日のことだ。その日は奇しくも、安倍晋三元首相銃撃事件で、容疑者が殺人罪で起訴された日だった。  事件は昨年七月、奈良の私鉄駅前で衆議院選の応援演説中だった安倍氏を、山上徹也容疑者が手製のパイプ銃で殺害。 朝日新聞によると、十三日奈良地検は、殺人と銃刀法違反の罪で起訴。約五カ月半の鑑定留置を踏まえ、心神喪失の状態にはなく刑事責任を

          『カラマーゾフの兄弟』と山上容疑者の父殺し