【連載小説】「 氷のプロンプト 」第6話
(本文・第6話)
今宵も咲きみだれる夜の華たち。その妖艶な輝きは幻想的な空間をつくりだしていた。
ライトアシストの一同は、打ち上げ後の二次会として、慎之輔の行きつけであるキャバクラに居た。当然、ほとんどの女性社員たちは打ち上げまでだった。
一人を除いては ……
「もう、びっくりしたよ。滝本さんまで付いてくるんだもの」
「きょろきょろして色んな所を見ているしー」
「いやー、もうある意味、社会見学のようなものだよね」
「ていうか、実際来てみてどう?」
何故、滝本までここに?と言いたげな男性社員一同。
「えー、だって興味が湧いてきたんですもん。それに女としては、こうでもしないとなかなか機会がないしー」
「男まさ ……じゃなかった、好奇心旺盛なんだよね滝本さんは」
「ちょっと、今なにか言いかけませんでした?」
口をとがらせる滝本に大笑いする社員一同たち。
「それに、費用は会社持ちですしー」
カルーアミルクを一気に飲み干す滝本。きらびやかな異空間に、すっかり浮かれ上機嫌だ。何より、彼女からすれば男性社員たちにお酌をしなくても良い。
おつまみの定番であるミックスナッツの他、熱々のソーセージ、生ハムやチーズがなどがテーブルには並べられている。もっとも大抵が冷凍食品で、居酒屋と違い手料理が出てくるような店ばかりではない。とは言え、キラキラと輝いている場所で女の子たちに囲まれアルコールが入ると、何でも美味しく感じるものだ。
(こんなことなら、打ち上げのとき食べすぎなきゃよかった)
滝本がピザを頬張りながら思っていると、フルーツの盛り合わせが運ばれてきた。
盛り合わせ方はいつも以上に手が込んでおり、バナナ、マンゴー、キウイ、メロン、リンゴのスライスが鮮やかに敷かれ、そして中央にはパイナップルが高々とタワー状に積み上げられている。女性客が混じっているということもあり、気を利かせたのだろう。
色とりどりな盛り合わせに、滝本の目は輝いている。女性にとって甘いスイーツは別腹である。
それにしても、さっきから慎之輔の真横にべったりと張り付いているこの女。ぱっちりとした大きな目、にこにこと愛嬌のある笑顔、小柄ながらにも整ったスタイルはまるで小動物を思わせるようだ。そして、ウェーブがかかったゴージャス巻き髪。そのセット前の長さは相当なものだろう。
「どうです、お楽しみいただけてますか?」
じっとした視線に気づいた音夢が話しかけてきた。
「あの、こう言う場所って女性一人ででも来れるのですか?」
「はい、もちろんです。いつでも大歓迎ですよー」
じっと相手の目を見つめながら、うんうんと頷きながらのボディータッチ。話の絶妙なタイミングで寄りかかりながら腕を絡ませる。毎日ニュースもチェックしているのであろう、時事ネタにも軽快にこたえていく。
この見事なまでの「あざとさ」は是非とも伝授して貰いたいところだが、今は如何せん男性社員たちの前だ。今度は一人で来てみようと密かに決心したのであった。
そんな談笑の様子を利成が眺めていた。
「おっ、珍しい。あのグループ、女性客が混じっているねえ」
「職場の飲み会から付いてきたんじゃない?たまにいるわよ、そういうお客さまたち」
となりには、悦香なだれかかっている。その首もとには、大きなルビーのネックレスをつけていた。
非日常的な刺激のある場所には、今夜もさまざまな客たちが立ち寄っていた。
「いいよな〜、キャバクラの女の子は。ただ座って飲んでくっちゃべってれば高い給料貰えるんでしょ」
「そうだぞ、若いうちから楽なことに逃げてると、ロクな大人にならんぞぉー」
「いや〜、さっすが部長!若いころに買ってでも苦労したからこその出世ですよね。勉強になります!」
余程、仕事のストレスが溜まっているのであろう。得意げな表情で、場違いな説教しているサラリーマンたち。そして、部長らしき男をよいしょする若手社員。
「もうお店には来ないで欲しいな〜」
「えっ、どうして?僕、何か嫌われてしまうような事しちゃったかな」
「ううん違うの。あなたとは出来れば外で会いたいの」
そこには気の弱そうな男に、もたれかかる妖しげな女の姿が。男ごころを知り尽くし、他の客たちにも、こうして何度も店に誘いこみ、さらに高価なプレゼントまでさせている。
「いつもお元気ですね、なにか、健康の秘訣のようなものってあるんですか?」
孫のように懐く声で質問する嬢。
「まあ、好き嫌いせず食べることかな。よく噛むんじゃぞ」
「あとは、こうして君みたいに若い人と喋ることかのう。そうすると気分が若返るんじゃ」
高齢の客は、そう言うと、日本酒をくいっと飲み干した。
「『亀の甲より年の功』ですね、こうしてお話を聞くだけでも勉強になりますぅー」
学校のような感じだが、はいはいと聞いていれば良いので楽ではある。
こうして、夜の時間は過ぎていった。
(つづく)
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