壮大な未開の地、からすのえんどう
*読みもの
「壮大な空き地、からすのえんどう」
時は昭和後半。
その子の周りには
ささいなことなんて存在せず
世界は大げさな事件に満ちていた。
近所の空き地は
壮大な未開の地であり、
いくつかの子どもグループは
競って開拓と定住(秘密基地の設置)
を行った。
*
そののち、
数十年の時が経った。
すっかりおばさんになった私は
子どもと一緒に
公園に行く道のりの
もじゃもじゃした雑草のかたまりの中に
からすのえんどうが
赤むらさき色の花を咲かせ、
実をつけている現場を目撃した。
脳みそが
しばし固まって
それから息を吹き返した。
「嗚呼、そんなんあったわ。」と。
*
からすのえんどうは
小さなえんどうまめができる。
かつて私は
小さなえんどうまめのさやを
大切に手のひらにのせて眺め、
自分の扱っている世界との
縮尺の違いに
ときめいた。
からすにとっての「えんどう」は
ちょうどこんなサイズなんだろう。
いい名前。と。
子どもの頃の私は
今よりずっと地面の近くにいて、
そういう素敵なものをちゃんと見つけた。
大人になってしまった私は
様々な出来事に対する解像度が
本当に上がっていると言えるのだろうか。
*
これからは無邪気なおばさんとして生きよう。
そして
暮らしの中に確かにある楽しいことを
静かに見つめていこう。
からすのえんどう通信社です。
どうぞよろしく。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?