見出し画像

壮大な未開の地、からすのえんどう


*読みもの
「壮大な空き地、からすのえんどう」


時は昭和後半。

その子の周りには
ささいなことなんて存在せず
世界は大げさな事件に満ちていた。

近所の空き地は
壮大な未開の地であり、

いくつかの子どもグループは
競って開拓と定住(秘密基地の設置)
を行った。



そののち、
数十年の時が経った。

すっかりおばさんになった私は
子どもと一緒に
公園に行く道のりの
もじゃもじゃした雑草のかたまりの中に

からすのえんどうが
赤むらさき色の花を咲かせ、
実をつけている現場を目撃した。

脳みそが
しばし固まって
それから息を吹き返した。

「嗚呼、そんなんあったわ。」と。

からすのえんどうは
小さなえんどうまめができる。

かつて私は
小さなえんどうまめのさやを
大切に手のひらにのせて眺め、

自分の扱っている世界との
縮尺の違いに
ときめいた。

からすにとっての「えんどう」は
ちょうどこんなサイズなんだろう。
いい名前。と。

子どもの頃の私は
今よりずっと地面の近くにいて、
そういう素敵なものをちゃんと見つけた。

大人になってしまった私は
様々な出来事に対する解像度が
本当に上がっていると言えるのだろうか。

これからは無邪気なおばさんとして生きよう。

そして
暮らしの中に確かにある楽しいことを
静かに見つめていこう。


からすのえんどう通信社です。
どうぞよろしく。





この記事が参加している募集

子どもに教えられたこと

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?