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ミッション・インポッシブル・トートバッグ

朝の通勤ラッシュは乗り慣れていない。ちょっぴり贅沢だがグリーン車に乗ることにした。流石に混んでいる。出勤途中と思わしきお姉さんの隣に座った。女性の隣りが空いている時は極力そこへ座るようにしているのだ。良かった。足元ひろびろ快適である。なぜおじさんはあんなにお股を広げるのだろうかと熟考する。

しかし…
わたしが座って5分するかしないか「ちょっとすみませぇん♪」と可愛い声で言い、鞄とコートをそのままにして席を外した隣のオシャレなお姉さん。
ゴミを片手にしてたので、捨てたら戻るかと思いきやなかなか戻ってこない。


あれからいくつ駅が巡り来ただろう。
乗客がくる度に
「あの。そこ、いいですか」と、私は "荷物どかさない女" のような眼差しを向けられ、「ここいらっしゃるんです」と答える。座席上のランプ見てよ、使用中になってるじゃないのさ。


だんだんと、それはあまりに長いひとときに思えてきた。脳内にはミッション・インポッシブルなサウンドが流れ始める。
※BGM(ちゃっちゃっちゃっちゃー ちゃっちゃっちゃっちゃー ぴろりーぴろりーぴろりーだだん!)

もしや…
あの女性は戻って来ないのではないか?
もしそうだったらどうしよう。ここに何か危険なものが入っていたとしたら。女スパイかもしれない。だって彼女のウィルキンソンは赤ラベル(普通の炭酸水)なのに中身が黄色い。一体なにをドーピングしているんだ。コラーゲンなの?プロテインなの?恋なの?

めっちゃ口の開いてるでっかいトートバッグだ。あまりにも無防備じゃないか。だいたい友達でもないのに、何故わたしは彼女の鞄のおもりをしているんだ。帰ってきて「コレが無い!盗ったでしょ!」とか言うような地雷ちゃんじゃないよね? カバン、爆発、しないよね? 戻ってきてよね??


何人目かの「ここ、いらっしゃるんです」を答えたところで、「すみませぇん♡」とスッキリ顔のお姉さんが戻ってきた。おかえり♡と言いたくなる爽やかさである。そして鞄からダイナマイト…ではなく、メイク道具を取り出してお化粧を始めた。

うん、そうねそうね、かわいく出来てるよ。
勝手にお友だちモードで呟く。心の中で。
きっとそれが手口なのだ。
彼女はそうやって誰かの心に一気に飛び込むのだ。
トートバッグの中身が見え過ぎる彼女に、わたしは心も見せられている気分なのだから。
うっかりわたしも心を開いてしまいそうになる。
そう、品川までのたった45分の間で。

まぎれもなく爆発したのだ。
しかしそれは鞄ではない。
わたしの、彼女への興味だ。おそらくすでに虜と言っても良かった。
もしもわたしがトムクルーズだったら、口説いていたに違いない。たぶん。




……たぶん。


無事に目的地つきました( ・∇・)

#あんまり無防備だから気になっちゃうっていうハナシ


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