春になったから

とある大きな公園に愛犬と家人とで出かけた。

薄陽が射す穏やかな日。本日予定していた場所が渋滞のため、いつ現地に到着するか分からず、急遽場所を変更した。そのくらい緩い方がいい。日帰りの緩い遠出は、予定が予定でなくなるのも、また楽しいものだ。

何の事はない、実は私が新緑を欲しがっていた。マイナスイオンを浴びたいなどとは言わない。草や木、土の匂いがただ恋しかった。それを言わずして、「たまには愛犬に広い場所で走り回らせてあげるのはどうだろうか」そう家人に提案し、家人も何の気なしに了承した。緩い予定。ガチガチじゃないくらいが、ちょうどいい。

夕方前から雨になる。その前にちょっと行ってみようかと車のエンジンの前に、私たちの心にもエンジンがかかった。

結局、当初の予定する場所ではなかったが、初めて出かける場所というのはいつでも新鮮だ。

愛犬には、長いショッキングピンクの紐がつけられ、自由に振舞っていいと言い聞かせた。しかし結局、愛犬は私と家人の微妙な距離間をウロウロと彷徨うだけで、全くはしゃいでいる様子はない。

暖かい陽気に、家人が小川に足を突っ込むと、愛犬は恐る恐る小川に飛び込んで慌てて這い上がる。騙されたと言わんばかりに、愛犬は身震いした。三才程の子どもと出掛けているような気持ちになる。

疲れてくると、足にまとわりついて抱っこをせがむ。本物の子どもだったような?そんな気持ちにまでさせるから、犬が好きだ。目に入れられないが、目に入れたら痛くて泣くけど、まあ可愛い。

広々とした公園には、いくつもの朽ちた切り株があり、その切り株からパラパラと何かが飛んでいた。

目を凝らすと、切り株の穴から羽蟻が次々と出てきて、切り株の上を五列ほどに縦列行進しているではないか。切り株の端まで行くと、ピラピラとした頼りない羽を広げて、それらは空へ向かって翔び立ち、緩い風にのって旅立つ。新しい家族を探す旅なのだろう。飛び立つ羽蟻の旅立ちを邪魔しないよう、切り株の穴を覗き見ると、綺麗に行儀よく列を乱す事なく次々に羽蟻が奥から奥からどんどん出てくる。

一体、切り株の下ではどれほどの羽蟻がきちんと順番を待ちながら並んでいるのやら。その順番待ちを想像すると、なかなか目が離せない。こんな場面に出会えるなんて、なんとラッキーなお日和だろうか。

家人は顔をしかめ、そそくさと愛犬を連れて遠のいていく。ずっと見ていたい衝動を捨て去り、家人に追いつくと、「あれは気持ち悪い」と家人が一言。

それは知っている。分かっているが、あの規則正しい乱れのない本能は一体どこから来るのだろうか。不思議でならない。

さて、ここで一つ、カリンサキは犬を飼っていることが暴露された。かなり大きな手がかりだ。別にカリンサキがどんな人物かを探し出す話ではないが、カリンサキは犬を飼っている。





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