ダメになる会話「知ったかぶり」

熊さん「よお、難しい顔してどうした?」

八五郎「いやね、最近いろいろとわからない言葉が多くてなあ。」

熊さん「ほう、例えばどんなんだい?」

八五郎「ちょっと前に耳にしたのが、『すてま』てのなんだが。」

熊さん「あー、はいはい、『すてま』ね。ありゃあタチが悪いね。」

八五郎「お? おまえさん、そういうの詳しいのかい?」

熊さん「当たり前だよ。こう見えて俺ってやつはあれだ、時流に乗り遅れないようにアンテナをはってるからね。」

八五郎「その言い回しがもう時流に乗れてねぇって気がするが、まあいいや、『すてま』ってのはなんなんだい?」

熊さん「『すてま』の『すて』は捨てる、『ま』 は、魔物の魔だ。つまり『捨て魔』だな。」

八五郎「『捨て魔』?なんだいそりゃ?」

熊さん「ある日突然、家にあるものをなんでもかんでも捨てたくなる時ってないかい?」

八五郎「まあ…足の踏み場もないくらい部屋が散らかってると、バーっと捨てちまって、スッキリしたくなる時はあるねえ。」

熊さん「それだよ、そういう時はな、妖怪『捨て魔』に取り憑かれてるのさ。」

八五郎「ほほぅ~、妖怪のことだったのか。」

熊さん「だから『捨て魔』が離れると、あー、あれは捨てずに置いとけば良かった~、なんだか随分部屋が殺風景だなぁ、なんてことになる訳だ。」

八五郎「ああ、そういう事はあるかもしれねぇなぁ。」

熊さん「そうするってえと、またぞろAmazonあたりで大量に買い物しちまって元のもくあみってわけよ。」

八五郎「ふーむ、なるほど!おまえさん、言うだけあって詳しいじゃねぇか。じゃあさ、これはどうだい?『クラウドサービス』。これもなんの事やらさっぱりだ。」

熊さん「クラウドと言えば雲の事だ。つまり、雲みたいなサービスって事だな。」

八五郎「雲みたいなサービスゥ? …いや、さっぱりわからねえ。」

熊さん「雲ってのはさ、ここから見りゃあ、はっきりとあそこに浮いてるのが見えるだろ?」

八五郎「ああ、見えるな。」

熊さん「だがな、触ろうと思って近くにいくとスーッ見えなくなって、さわったり、つかんだりなんて事なんかできやしないんだ。」

八五郎「うーん、まだわからない。いったい何の話だい?」

熊さん「だからな、これはキャバ嬢がたいして大事にしてない客に対してやるサービスの事だよ。」

八五郎「キャバ嬢?なんでキャバ嬢が出てくるんだい?」

熊さん「たいして金持ちってわけでも無いが、自分目当てに通ってくる常連がいれば、嬢はそれなりに気があるようなフリをして気を引き続けるわけだ。 だがちょっとでも体に触ろうとすると、のらりくらりと理由をつけて逃げちまう。お客はの方はいつかはさわれる、もう少しあと少し、と思って通い続けちまうのさ。」

八五郎「そんな事になるのかい? 怖いねぇ。」

熊さん「そんな風に、二人の間にいかにも特別な関係があるように思わせといて、実はなーんにもありませんでした、っていうやり口の事を雲みたいなサービス、つまり『クラウドサービス』ってぇわけだ。」

八五郎「ヘェ~、なんともやるせない話だねぇどうも。しかし、おめえさん、ほんとに物知りだなぁ。」

熊さん「まぁ、こんなの俺にとっては『常識の班長』ってところだからな。」

八五郎「『はんちゅう』って言いたかったのか?まあいいや。じゃあさ、最後にこれ教えてくれ。『ゆーちゅうばあ』ってんだ。最近流行ってるらしいんだが、いったいこりゃなんの事だい?」

熊さん「『ゆーちゅうばあ』 …『ゆーちゅうばあ』ね …えーと、ちょっと待てよ。」

八五郎「さすがのおまえさんでも、こいつはわからねえかい?」

熊さん「そんな事ねぇよ!まちなよ今考えるから。」

八五郎「え?今考えるって言った?」

熊さん「違うよ!どうやったらおまえさんにわかりやすく説明できるか考えるって言ってるんだよ。」

八五郎「ああ、そういう事か。」

熊さん「まず、『ゆー』ってのは、英語だ。YOU、つまりおまえって事だ。」

八五郎「ふむ。」

熊さん「『ちゅう』はそのままだな。キスの事だ。接吻だな。」

八五郎「いまどきセップンなんて言うやついねえよ。んで、お前のチュー、ときて、最後の『ばぁ』はなんだい?」

熊さん「『ばぁ』と言えばあれだろ。いないいないばあ~、ベロバロバア~、の『バァ』。」

八五郎「の『バァ』って言われてもなぁ。お前のチュウ~でバァ、じゃさっぱりが意味がわからない。」

熊さん「つまりだな、お前みたいなお調子者が、そのへんを歩いてる女性にいきなりチュウ~っとやって、そのあとバァ~っとおどけて見せたら、相手がどんな反応をするかってのを見て楽しむって寸法よ。」

八五郎「なんだいそりゃあ?ただの悪ふざけじゃねえか。動画サイトにでもアップしたら再生数が伸びそうな話だけれども。」

熊さん「そうそう、そんな動画を面白半分でYouTubeにアップするような連中の事を『ユーチュウ~バァ~』って呼ぶわけだ。」

八五郎「なるほどねえ~…って、そんなワケねえだろ!」

熊さん「お後がよろしいようで。」

-END-

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