見出し画像

超絶技巧系展覧会で鑑賞がはかどる5つの視点とは?【鑑賞力向上のヒント⑤】

ここ10年ほど、絵画や工芸の展覧会を中心として「超絶技巧系」という新たなジャンルが盛り上がっています。

ちょうど2023年も、現代の工芸作家を中心に、超絶技巧系の工芸作品を幅広く集めた「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」が開催中。僕も三井記念美術館で開催された東京展を見に行ったのですが、年々レベルアップするその内容に舌を巻きました。

こうした「超絶技巧系」展覧会では、恐るべき緻密さで制作された作品、写実を極めたリアルな表現力が見事な作品、意外すぎる素材で表現されている作品など、見た人をあっと驚かせるような作品が並んでいますよね。

これらは、造形的にはわかりやすい作品が多いので、アートに詳しくない人でも楽しめます。老若男女誰が見ても「凄い」と思えるのも、人気化している理由のひとつなのでしょう。

さて、今回はそんな「超絶技巧系」の展覧会で、より深く鑑賞を楽しむためのポイントを5つにしぼってご提案します。今回は有料記事なので、最初の3つまで無料公開させてもらいますね。


鑑賞のポイント1:どんな素材を使っているのかチェックする

超絶技巧系の作品が感動を呼ぶのは、本物そっくりに再現されたリアルな造形表現や、極限まで作り込まれた手仕事が、私たちアートファンが考えられないようなレベルで実現されているからです。

なので、鑑賞の第一歩は、これらがどのようにして作られているのか、丹念に見ていくことから始まります。

その切り口として、まず絶対見ておきたいのが、その作品がどのような素材からつくられているのか?ということです。

例えば、どう見ても木彫作品にしか見えないのに、実はすべて「金属」でできていた、写真にしか見えないのに、実はすべて鉛筆や水墨で描かれていた…といったように、超絶技巧型の作品では、一見それとはわからないような意外な素材で表現されていることがあります。

こうした事実を知れば、さらに驚きや感動は倍増しますよね。
すると、そこから今度は「一体どんなワザを使ってこのような驚きの表現を実現しているのだろうか?」と次の疑問湧いてくるわけです。それが、2つ目の鑑賞の切り口になります。

鑑賞のポイント2:作品がどのようにつくられたのか知る

「どうやったらこんな作品がつくれるのだろう?」と見る者に強い視覚的なインパクトを残す超絶技巧系の作品ですが、大抵の場合、その制作プロセスも非常にユニークです。私たちアートファンが想像できないような独創的なアイデアや、技術的なブレークスルーを積み重ねた結果、唯一無二の表現を実現できているわけですね。

どのようなプロセスで作られたのかを知ることで、驚きや感動は倍増します。途方もない時間をかけて制作技術を習得してきたエピソードや、3次元CADや3Dプリンタ等のデジタル機器を駆使して正確無比な造形を実現していた…といった、制作の舞台裏を垣間見ることで、より作品への思い入れは増していくことでしょう。

意外なことに、こうした制作プロセスは完全に企業秘密にされることなく、ある程度まで公開されています。作品の構造や制作技術をオープンにしても、まず真似することはできないし、真似しても意味がないからですね。

こうした情報は、作品横に置かれた作品解説にある程度書かれていますが、もしそれでも飽き足らない場合は、展覧会場の入り口・出口付近に設置された映像コーナーをチェックしてみて下さい。現代作家の展覧会であれば、各作家のインタビュー動画や制作風景がダイジェストでまとめられた10~20分程度の映像がエンドレスで放映されていることが多いでしょう。これを見て、もう一度展示会場に戻るのもいいですね。

また、各出展作家の個人SNSをチェックするのも面白いです。特に見ておきたいのがInstagramです。アトリエでの作業風景や、展示作品の制作中の画像、広報用画像よりも迫力ある作品画像なども、作家自らのコメント入りで紹介されていることも多いです。

あるいは、単純にYouTubeで作家名で検索してみるのも良いでしょう。過去に撮影された様々な動画で、アトリエ内での制作風景や、本人へのインタビューも見ることができるでしょう。

金銭的に余裕があるなら、展覧会公式図録や音声ガイドもあわせてチェックしてみましょう。公式図録の場合、各展覧会によってクオリティにばらつきがあるので、盲目的に購入するのではなく、必ず会場やグッズ売り場でサンプルを試し読みしてから、情報量が充実しているかどうかで買うかどうか決めるとよいでしょう。

『ポケモン×工芸展』の公式図録。出品作家一人ひとりについて、制作の舞台裏が非常に丁寧に取材した非常に優れた図録でした。書店やネット書店などで現在も購入可能。
引用:https://www.tokyo-bijutsu.co.jp/np/isbn/9784808712686/

鑑賞のポイント3:気になる作家はメモして覚えておく

さて、展示会場を見ていくと、いくつも気になる作品が見つかったとします。その際は、ぜひ、作家名を覚えておいてください。次につながります。

なぜなら、超絶技巧系の展覧会で、一度展覧会に呼ばれた作家は人気が加速し、またすぐ別の工芸展(超絶技巧系であるかどうかを問わず)で引っ張りだこになるからです。

美術館で作品が展示された、という実績は、単にギャラリーや百貨店で個展を開催できる作家である、というレベルを超えて、全国区の人気作家としてステップアップを果たした一つの到達点としてみなせるでしょう。

たとえば、最近では自在置物の満田晴穂さんや大竹亮峯さん、サイバーパンク螺鈿の池田晃将さん、元プロボクサーの彫刻家・前原冬樹さんなどは、「超絶技巧系」展覧会の常連となり、常に全国のどこかで作品の展示が行われています。

一度覚えておくと、現役作家の場合は作風の変遷や進化も楽しむことができます。まだ30代、40代の若手も多いので、見るたびに作家性を深め、芸術家として深みを増していく作家も多いです。「うわっ、こんな作品つくったのか…!凄い!」と、彼らの成長に驚かされることもしばしばです。

ここから先は

1,824字 / 2画像
ヴェルデさん、かるびさんなど美術ライターも参加していただきました。それぞれの切り口のいろいろな読み物がが楽しめます。

アートな読み物

¥100 / 月 初月無料

いろいろとアートのまつわる読み物を不定期で投稿していきます!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?