笠井康平

死んだら戒名がマトン

笠井康平

死んだら戒名がマトン

最近の記事

「遅々として進まない原稿」問題はどこで起きるのか(書けない理由)

はじめに書けない理由は、人それぞれ。 特効薬はなさそうです。 追い込まれて、心ふさがれると、 「なぜ、つらいのか」にさえ迷うのに。 知りたいことせめて、どこで「転んだ」のか知りたい。 工夫したり、省いたり、立ち向かえるから。 どうしても「苦手」なら、あきらめもつきそう。 考え方思いつきが「かたち」になって、 新しく生まれるまでには、長い流れがあります。 分けてみると、14工程もありました。 ひとまず、前半を「書く仕事」だとします。 (後半でも、なんやかんや書きますけどね

    • 【感想】山本浩貴「死の投影者(projector)による国家と死――〈主観性〉による劇空間ならびに〈信〉の故障をめぐる実験場としてのホラーについて」について

      はじめに掲題作を読んだので、感想をまとめようと思いましたが、僕が分かったことを僕の言葉づかいで書いても話をややこしくするだけでしょう。代わりに本文中の主な単語について、用語集的な整理を試みることにします。 誤解を避けるために述べると、この投稿は「試み」の域を出ません。僕は怖いものがすごく苦手だからです。 より詳しくいえば、僕はホラー映画をはじめとする恐怖体験のためのフィクションを冷静に面白がれないので、この論考で扱われた作品をたくさん視聴することには極度の抵抗と困難を伴い

      • 「文芸の未来」について話す時に立ち止まって考えたいこと

        (承前) 1.1-1. 江永さんの問いかけは、文章芸術が「コンテンポラリー・アート」に近づく流れが生じ(てい)るかもしれない、ということでした。 ボリス・グロイス(1947-)は東ドイツ出身の美術批評家で、旧ソ連でインディーの批評活動を行うなかで、「アートの終わり」をめぐって共産主義体制下の官製芸術市場を論じ、「社会主義リアリズムがむしろロシア・アヴァンギャルドの精神を継承したものであるというきわめて斬新かつ衝撃的なテーゼを提唱」(出所:URL)した人物……だと、さっき

        • 【報告】「SFマガジン2月号 特集:未来の文芸」にエッセイが掲載されました。

          SFマガジン2月号「未来の文芸」〈エッセイ・評論〉に小澤みゆき・笠井康平「往復書簡:じぶんの「つづき」を書こう。(1)」が掲載されました。 「創作だけでなく、編集、流通、批評、ファンダム、パラダイムシフトを迎えつつあるそれぞれの現場からの熱い声が集まっています。」(出所:「SFマガジン2月号」編集後記より) 拙稿の参考文献はこちらに。 掲載図ウェブ版はGoogle Data Studioからご覧いただけます。 表立って感想を言いづらい作風なのか、私信や対面で褒めてくれ

        「遅々として進まない原稿」問題はどこで起きるのか(書けない理由)

        • 【感想】山本浩貴「死の投影者(projector)による国家と死――〈主観性〉による劇空間ならびに〈信〉の故障をめぐる実験場としてのホラーについて」について

        • 「文芸の未来」について話す時に立ち止まって考えたいこと

        • 【報告】「SFマガジン2月号 特集:未来の文芸」にエッセイが掲載されました。

          2021年の一般公表作品リスト

          発表順リスト2021/02/14 「終わりなき謎の者たちの対話劇:『闇の自己啓発』書評」(個人note) 2021/04/18 「「作家の手帖(特集:原稿料)」企画書ワーキングドラフト」「リーガルページ」他(Github Pages) 2021/06/30 「Don’t disturb me, and Okinawa?(別打擾我和沖繩?)ーー265日間の「上演」がこの「写真集/戯曲」を生み出すまでの記録・考察・見解」(三野新『クバへ/クバから』所収) 2021/08/0

          2021年の一般公表作品リスト

          『異常論文』所収「場所(Spaces)」制作秘話ーー笠井康平の視点で

          ※プロモーションを含みます。 早川書房から刊行される文庫『異常論文』に、樋口恭介さんとの共著「場所(Spaces)」が収録されます。これほど話題になるとは思っても見ませんでした。ありがたいことです。 企画の成り立ちや発売前の反響はすでにあちこちで語られていますので、ここには僕の視点からみた制作秘話を書いておきます。フリーハンドで書きます。何を話そうかな。 まだご存知ない方に向けて書くと、笠井康平は東京都在住の会社員です(参照)。いぬのせなか座から刊行された『私的なものへ

          『異常論文』所収「場所(Spaces)」制作秘話ーー笠井康平の視点で

          『ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論』感想

          「座談会を経てからの書き方の変化」を8000文字前後で執筆してください。(星海社編集部) 『ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論』という新書から何を感じたのか書きたい。本書の193ページにある(注2)には拙著『私的なものへの配慮No.3』が「勇気をもらうことができる」と書かれてあって、この一文に僕は勇気づけられたから。その気持ちを記録することにはなるだろう。 1.ラジオみたいに書く1939年に生まれたラヂオ新書が「音声放送の書き起こしをまとめ直した本」だったよう

          『ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論』感想

          ・「可処分時間という名のコモンズをめぐって」的な内容で1本(水原さん) ・「作家の手帖」勉強会の衣装のお礼で1本(棒さん) ・プライバシーのおすすめ本(鈴木さん)

          ・「可処分時間という名のコモンズをめぐって」的な内容で1本(水原さん) ・「作家の手帖」勉強会の衣装のお礼で1本(棒さん) ・プライバシーのおすすめ本(鈴木さん)

          終わりなき謎の者たちの対話劇:『闇の自己啓発』書評

          「私」は、何もかもわかるような光の下にいるのが耐えられなかった。生で始まり死で終わるような配役「私」の台本が、どうもしっくりこなかった。だから闇を求めた。それが魔の手でもよかった。「この世界から外へと取り去ってくれるあの異様な手」(ひでシス、note公式による本書リリース記事に寄せたコメントより)。それに半ば身を委ねてでも「外」を求めた。けれど「私」は全き闇にも耐えられないのかもしれない。――闇は「私」と相容れないのか?(これは逆転させてもよい。光は「私」と相容れないのか?)

          終わりなき謎の者たちの対話劇:『闇の自己啓発』書評

          文化と経済をめぐる200冊の本

          「早稲田文学2020年冬号」の「【特集】価値の由来、表現を支えるもの──経済、教育、出版、労働……」に「選書:文化と経済をめぐるブックリスト」が掲載されました。 このnote投稿では、雑誌掲載作の執筆に用いた200冊の候補作を紹介します。文化と経済をめぐる200冊の本(目録)(Googleスプレッドシートに飛びます)からご覧いただけます。 次の3シートを収録しています。 分類:4分類28区分の一覧表です。 個票:全200冊の一覧表です。 集計:「個票」をもとに、「分類」

          文化と経済をめぐる200冊の本

          2020年の24作品と600枚

          はじめに小澤みゆきさん(@miyayuki777)が作成した「文芸 Advent Calendar 2020」に参加しました。ぼくの前出番は或人/らっこさんで、後出番は結果オーライさんです。 12月8日担当のこの記事は、なんだか最近いつもだれかを責めて止まない世間の声から、ほんの少しだけ無縁でいることの試みです。生まれて初めての挑戦です。2020年12月はもう二度と訪れませんからね。きっと明日は東京で雪が降るでしょう。それが何年後かはさておき。 前半でぼくが「2020年に

          2020年の24作品と600枚

          カルチャー批評には手を出すな? ~日本全国の「まだ、ヒカキンになれていない若者たち」のために~

          (※2019年初頭に書かれ、お蔵入りになったテキストです。固有名詞の取扱いに粗さは残るのですが、当時の問題意識を世に残しておく価値はあるだろうと思って、細部を少しだけ手直しして公表することにしました。) 1.愛すべき「新商品」の敬虔な伝道師たち (画像出典:Republic of Korea, Jeon Han) 今年で「平成」も終わるというのに、うちの近所にあるスーパーマーケットやコンビニには、何人かの「まだ、ヒカキンになれていない若者たち」が働いている。日本全国にも

          カルチャー批評には手を出すな? ~日本全国の「まだ、ヒカキンになれていない若者たち」のために~

          その日までじぶんが何を「知らなかったか」思い出す――親しいだれかに「悪さ」をうつさないように(vol.1)

          はじめに14日間の行動記録をつけておくと、もしもじぶんが発症したときに、「だれに移したかもしれないか」を突き止めやすいと教わった。 だけど、いちいち覚えていられない。じぶんの生活をどこまで記録していたか。その記録は私生活をどこまで辿れるか。このテキストはその問いに答える試みのひとつであり、何よりじぶんのために、僕自身のパーソナルデータを分析してまとめたものだ。 この話は12月9日から始まり、早ければ5月6日に終わる。 SNS投稿、検索履歴、紙の領収書、交通ICカード残高

          その日までじぶんが何を「知らなかったか」思い出す――親しいだれかに「悪さ」をうつさないように(vol.1)

          演劇にとってあなたはどのような観客か

          はじめに気楽な「感想」を書くつもりだった。ここ数年でじぶんが観劇した作品リストをまとめて、ちょっとしたメモでも残しておこうかなって。 なのにいつもの心配性で、書き手である「じぶんは演劇にとっていかなる観客なのか」をまず打ち明けるべきだ、それがこの時代にものを書くものの公正な態度だと思えてきて、じぶんの観劇履歴をちまちまとふり返るうちに、「どうやらかなり偏った消費類型だ、ところで他のひとは年に何回くらい劇場に行くんだろう」と、関連統計を調べ始めたのが事のはじまり。 肝心の「

          演劇にとってあなたはどのような観客か

          つづかない組織はどうすれば歌えるのか

          (2020/02/10 15:00 追記) このテキストで取り上げた著書の電子版が出ました。印刷版より20%お値打ちみたいです。 すぐ売れた言語、出世しないおじさんpython(1991-)は僕より年下なのに、世界中から大人気だ。シンプルで使いやすい高水準言語で、標準ライブラリも多く、データ分析と機械学習によく使われる。2020年には日本でも資格試験や教科書に取り上げられた。 『新古今和歌集』が(1201年に発注、1216年に納品され、名実ともに)完成したとき、藤原定家(

          つづかない組織はどうすれば歌えるのか

          「不安に共感できる」のが不安

          「現状維持では後退するばかりである。」とはえぎわは宣言する。はえぎわとは、頭髪とおでこの境い目であり、とある雑誌のタイトルでもある。その宣言は、薄毛のリスクを語りつつ、ささやかな将来への配慮を呼びかけてもいて、1.ひとりの人の心身に起きること、2.組織・集団が体験すること、3.社会と呼ばれる大きくて重たいものの共同体が直面することといった、それぞれに大きさの異なる問題を、同じ言葉で考えさせてくれる。 どうすれば後退を防げるのか。マクロ経済学はその方法を「成長」と呼ぶ。老いて

          「不安に共感できる」のが不安