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とける勇気

袖無かさね



寒いさむい、雪の国がありました。雪の国のお城には、お姫様が住んでいました。



お姫様には、大好きな人がいたんです。それは、子供の頃、いつも一緒に遊んでいた隣の国の王子様。でも、ある時から、なにかが忙しくなって、なぜだか会うことがなくなってしまったんです。



お姫様はしょんぼり。あの方と一緒の時間、私はいつも幸せだった。でも、ずっと会えないでいるから、あの幸せな気持ちは、もう、雪で凍ってしまったの。



そうしたら、ある日、大好きな王子様が、突然お姫様のお城にやってきたんです。そして、姫様、どうぞ僕と結婚してください、と言いました。



お姫様は幸せで、幸せすぎて、幸せな気持ちになっていいのか分からなくなりました。だって、幸せになってしまったら、いつかその気持ちがまた凍ってしまうかもしれない。それで、つい、こんなことを言ったんです。

「私は、月にも行ける方とでなければ、結婚はできないの。」



次の日の夜、また、王子様がお城にやってきました。

「湖に映った月に、ボートで寄り道をしてから参りました。」



お姫様は、幸せな気持ちになりそうになって、それで、思わず、こんなことを言ったんです。

「私は、空を飛べる方とでなければ、結婚はできないの。」



次の日の朝、お姫様が窓を開けると、雪の中を一羽のハトが王子様の手紙を運んできました。

「約束通り、空を飛んできましたよ。」



お姫様は、幸せな気持ちになりそうになって、それで、慌てて、こんなお返事を書いたんです。

「私は、春にならないと、結婚はできないの。」



次の日、王子様は、大きな花束を抱えてお城にやってきました。

「姫様、春ですよ。」



お姫様は、幸せな気持ちになりそうになって、ためらって、花束を落としそうになりました。でも、その花束は、雪の国の寒さで凍ってしまっていたんです。



私が落としてしまったら、この花束はガラスみたいに割れてしまう。



そうして、お姫様は勇気を出して、王子様から花束を受け取ると、ぎゅっと抱えました。



すると、凍っていた花束はお姫様の腕の中でとけました。とけた花束の香りが、お姫様の鼻をくすぐりました。



 

おしまい

photo by chin.gensai_yamamoto


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