女の子とウサとの哲学的会話「わたしのクローンって、わたしなの?」

〈登場人物〉
サヤカ……小学5年生の女の子。
ウサ……サヤカが3歳の誕生日にもらった人語を解するヌイグルミ。

サヤカ「クローンって、あるでしょ。わたしのクローン人間がいたら、それって、わたしなのかな?」
ウサ「体の組成とか、あと好き嫌いとかが、全く同じもう一人の人がいたら、それはわたしなのかってことだね。じゃあ、ちょっと考えてみよっか。もしも、サヤカちゃんのクローン人間が作られたとすると、見かけ上は全部サヤカちゃんにそっくりだよね。見かけだけじゃなくて、考え方も好みも全部そっくりで、他人からは、全然見分けがつかないとするの」
サヤカ「うん」
ウサ「そうして、そのクローン人間が、サヤカちゃんの目の前に来たとしたら、サヤカちゃんは、今の自分か、それともそのクローンサヤカちゃんか、どっちが自分なのかが分からなくなっちゃうと思う?」
サヤカ「……そんなことは無いと思うなあ。他人から見たら、全然見分けがつかなくても、わたしは、そのクローン人間の目から世界が見えるわけでもないし、そのクローン人間の体が動かせるわけでもないもん」
ウサ「そうだよね。じゃあ、仮にね、そのクローンサヤカちゃんが、サヤカちゃんを殺しちゃうとするでしょ」
サヤカ「えっ! わたし、殺されちゃうの!?」
ウサ「仮の話ね。それでね、この世界には、そのクローンサヤカちゃんしかいなくなっちゃうとするの。そうしたら、サヤカちゃんは生きているって言えるかな」
サヤカ「他人から見たら、それって何にも変わらないよね。そのクローンが生きていたら、このわたしがいなくても、この世界からは何もなくなっていないよね」
ウサ「でもね、この世界から何もなくならないって『言う』ことは、サヤカちゃんにはもうできないんだよ。だって、サヤカちゃんは、もう死んでるんだから」
サヤカ「あっ、そうか! クローンが生きている世界をわたしは見ることはできないんだ、死んでいるんだから……だとしたら、クローンが生きていても、わたしには関係ないね!」
ウサ「そう。だから、クローンを作り続ければ、生き続けることができるなんてことは、間違っていることになるね」
サヤカ「同じ体と同じ気持ちがあっても、わたしにならないんだ……記憶もそうなのかな?」
ウサ「記憶もそうだね。クローンがサヤカちゃんと同じ記憶を持っていても、それで、クローンが自分になるわけじゃないからね」

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