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女の子とウサとの哲学的会話「どうして、虫って気持ち悪いの?」

〈登場人物〉
サヤカ……小学5年生の女の子。
ウサ……サヤカが3歳の誕生日にもらった人語を解するヌイグルミ。

サヤカ「虫ってどうしてあんなに気持ち悪いんだろう。気持ち悪くて怖い。人間の方が体が大きいんだから、小さい虫を怖がるなんておかしいんだけど、どうしてか気持ち悪いよね」
ウサ「確かに、ハチみたいに危険な虫を除けば、それほど怖がる必要は無いようにも思えるよね」
サヤカ「なんでなんだろう?」
ウサ「こういう説があるよ。人類の祖先がね、昔その虫に危険な目に遭わされたせいで、今でも人類はその虫を本能的に怖がるんだって」
サヤカ「たとえば、クモが怖いのは、人類の祖先が、昔クモに危険な目に遭わされたっていうこと?」
ウサ「そういうことだねえ」
サヤカ「うーん……でもさ、わたし、クモって益虫だって聞いたことあるよ。益虫って人間にとっていい虫でしょ。それなのに怖いっておかしいよね。それとも、昔はクモは益虫じゃなかったってことなのかな」
ウサ「クモは昔も今も変わらないんじゃないかな」
サヤカ「だったら、やっぱりおかしいじゃん」
ウサ「うん、だから、こういう説もあるの。虫が気持ち悪いかどうかは、その虫を気持ち悪いと思う社会で生まれ育ったかどうかによるっていうね」
サヤカ「どういうこと?」
ウサ「虫を気持ち悪いって思う社会で生まれ育ったら虫が嫌いになって、虫を気持ち悪くないって思う社会で生まれ育ったら虫を嫌いにならないっていうことよ。現にね、全くクモを気持ち悪く思わない部族の人もいて、食用にさえしているらしいよ」
サヤカ「ええっ……クモ食べちゃうの? ……ねえ、ウサ、でもその説って、ちょっとおかしいと思う。だって、『虫を気持ち悪いって思う社会で生まれ育ったら』って言うけど、じゃあ、どうして、そもそもその社会は虫を気持ち悪く思うようになったの?」
ウサ「そういうことになるよねえ。だからね、どうして、人間が虫を嫌うのかっていうのは、よく分かっていないのよ」
サヤカ「ふーん……もっと小さい頃は平気だったんだけどなあ。それも不思議なんだ。昔は平気だったんだから、今も平気だったら良かったのにさ」
ウサ「なんでだか苦手になっちゃうのね」
サヤカ「まだ平気な虫もいるんだけど……でも、もう大体は苦手かなあ。これからまた平気になることはないと思う」
ウサ「しょうがないことだね。苦手なものを平気にすることはできると思うけど、でも、かなり難しいと思うし、そんなに無理することもないしね」
サヤカ「虫なんていなくなっちゃえばいいのになあって考えることもあるんだ」
ウサ「虫がいなくなったら大変よ。虫は、植物の受粉を受け持ってくれていたり、鳥類のエサになってくれていたり、人間が暮らす世界の中で、重要な役割を持っているんだから」
サヤカ「え、そ、そうなの?」
ウサ「うん。それに、未来の食糧としても期待されてるんだよ」
サヤカ「……じゃあ、虫って大切なんだ……大切だとしても好きにはなれないなあ」
ウサ「好きになれなくてもいいのよ。でも、その好きになれないものがそこにあることを認めることは大事なことよ。好きになれないから消えちゃえっていうのは、とてもつまらないことだからね」
サヤカ「つまらない?」
ウサ「うん。自分が好きになれないものがこの世界に存在するっていうことの不思議を消してしまうなんて、とってもつまらないことよ。どうして、そんなものが存在するんだろうって考えられる機会がなくなっちゃうんだからね」

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