見出し画像

【詩】海へ

海は、いつに変わらぬ静けさで
鷹揚にひろがり、夥しくかがやいている
青く、深々と、落ち着き払い
覆い被さる空の果てから
真一文字の水平線が、浮き沈み、
波立ち、うねりとなって
力にまかせて、押し寄せてくる

あてもなく、寄せる波は
どこから、やってくるのだろう
風に運ばれてくるのだろうか
山のすそ野に撒き上げる
乾きに引かれてくるのだろうか
岸にとどき、打ち返すたび
諦めたように口を噤み、黙りこむ
これほど大勢で、隙間なく肩を寄せて
遠い岸辺に辿り着く、長い長い旅の果て
何を思い、砕け散ってゆくのだろう

浜は、波に洗われている
休みなく寄せ打つ鼓動を受け止めて
躊躇いなく退く、潮の痛みに耐えている
渇きを忘れた砂地に染み込み
置き忘れられた藻屑を濡らして

渚に寄せる水の襞
名残りを惜しむ瀬頭の声
岩場を叩く怒涛の響き
日差しに舞い散る鳥の影

海原は、憂いに満ちている
高まり鎮まり、確かな呼吸を繰り返す
浜辺は、あまねく砂にまみれて
昨日は今日に、今日は明日に埋づもれる

沖を目指す船人は、舵を導く眼差しに
潮の行く方を、手探りする
飛沫に烟る水平線の、彼方をみつめて

©2023  Hiroshi Kasumi


お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。