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【詩】問い

わたしが子どもだったころ
森の木は、みな、年上だった
空の高みから見下ろして
鳥の声に、揺れていた
若木の枝が、まぶしく跳ねて
見えない向こうへ、手招きしていた
背丈を競う、高い木が
誇らしそうに、そびやかし
もろ手をひろげて、笑っていた

いつからか
まわりはみな、年下ばかり
木々は、ことごとく入れかわり
森の息吹きは、あたらしい
わたしは、ひとり、取り残されて
枝の手招きを、見おろしている

学校をでて、おとなになって
仕事に追われて、時間をなくし
暮らしに疲れ、こどもにもどって
声をさがしに、帰ってきた

 夏の午後、夢中で駆けて
 樹のかたわらで、不意にさわった
 気配の正体すがたを、見つけただろうか?

 林のほとりで、虫を追いかけ
 草の熅れに、感じていた
 痛みの理由わけを、知っただろうか?

大きな樹が、立っている
動くことのない、孤高の巨人だ
おなじ場所で、見上げるわたしの
生まれるまえの歴史をながめ
生きる時代の変化をみつめ
いない未来を見とどける
途方もない、時を見守る番人よ

 何処に答えを、求めたものか?
 掴みきれない「わたし」の存在いみ

©2024  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。