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【詩】トリエステの風

冬、アルプスを越え
半島の東に吹き下ろす
北北東の風、ボーラ
その強烈な風が吹きすさぶ
トリエステは、坂ばかりの町である
山脈の南端の断崖が、逆落としに
地中海に、ころがり落ちる
人波も、車列も
傾斜に足を踏ん張っている

坂道の下、浜にひらけた平ら
海辺に開けた、大きな広場
イタリア統一広場と称す
悠々と、海原を見渡し
残る三方を、壮麗な建物が囲む
人は、露天の大広間で、大空を仰いで
ちっぽけな自分をみつめながら
遠い海の、見果てぬ世界へ
心を馳せている

海辺を巨大なロゴで誇示している
海運、保険、倉庫、商社、銀行
人は、なぜ欲得に身をゆだねるのか?

トリエステの歴史は
奪い合いの繰り返しであった
侵略され、割譲され
後背の領土は、国境に分断された
だが、この美しい港に
不穏の影は残されていない
あたりまえに、日の光につつまれ
静かな佇まいをたたえている

ボーラはすべてを奪い去らんと
容赦なく、吹きつける
人は、耐えて過ごすだけだ
手に手をとりあって


©2022  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。