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オリジナル小説 ふたりぼっち #おしまい

夏が訪れました。伊織は無職でした。以前勤めていた会社の、契約期間が満了したからです。
 冷房の効いた仄暗い部屋で、二人は力なく横たわっていました。
「ねぇ、灰村。私たち、このままどうなってしまうのかしら。だぁれも知らない場所に行き着けるのかしら」
 灰村は、薄く眼を開きました。
「行けるよ。確実に。誰も僕らを必要としていないし、僕ら自身も誰も必要としていないから」
「そうだね。私たちは、最初から最後まで私たちのことしか見てなかったね」
「だから同時に幸せにもなれたんだよ」
 窓から西日が射しました。
「ねぇ灰村。あなたにはあの赤い和傘が見えている? 窓辺で、くるくる回ってるの」
「あぁ、見えてる。昨日よりも数が多いな」
 伊織は灰村の瞼に触れ、灰村は目を閉じました。
「私たちは、この先もずぅっとおんなじ会話を交わすことができるね」。


終章:心中、孤独死。でも二人はしあわせでした。
二人は、雑木林の中にある、今は使われていない廃工場に行きました。
「これでおしまいだね」
 その言葉に答えるように、伊織は灰村の長い髪を灰村の耳にかけました。
「おしまいじゃない。これから始まるんだよ、私たちのストーリーは」
 灰村は微笑みました。それは、とてもとても、優しい笑みでした。

 数ヶ月後。二人は、白骨化した状態で発見されました。白骨化してもなお、手と手を取り合い、仲睦まじさを表しているかのようでした。二人は、しあわせでした。それは今の私にも十分に伝わりました。葉三品伊織の実妹(じつまい)である、この私にも。

おしまい。

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