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ふるさと納税の【光と影】~担当者のホンネ ~

この記事は、2018〜2020年にかけてふるさと納税の担当をしていた時の記事です。かたじけない。

私は今、ふるさと納税の担当をしています。
この制度は、多くのメディアでも取り上げられているように、【光と影】が存在するため、賛否両論ある制度です。
そのため、担当者としても色々と考えさせられることがあります。

故郷やお世話になった地域に恩返しできたと心から喜んでくれる人や、単純に返礼品をもらえて嬉しいと思う人もいれば、
あんなのただのカタログショッピングじゃないかと思う人、寄附や税の制度を歪めていると思う人もいるでしょう。
そして、そんな仕事をしている担当者は、賛成派の人から見れば地元のために頑張ってくれていると感謝されるでしょう。
一方で、反対派の人から見れば、悪の片棒を担いでいるようにも見えるでしょう。

そんなことを考えていたら、ふと、他自治体の担当者も同じ思いをしているのでは?と思ったので、
エールを送る意味も込めて、備忘録として、私個人のホンネを書いておきます。
あくまでも個人の意見ですよ~、あしからず)


ふるさと納税とは

まずは、ふるさと納税制度のおさらいから。

地方税法上は「納税」ではなく、自治体への「寄附」
納税とは違い、使い道を寄附者が選択できる
寄附金額のうち2,000円を超える部分は寄附金税額控除を受けることができる(所得等に応じて一定の上限あり)
④確定申告をする場合は所得税と住民税から控除され、ワンストップ特例制度を利用する場合は住民税から控除される
本来払う予定だった所得税や住民税が、寄附先の自治体への寄附金に充てられるため、国の所得税収入や在住自治体の住民税収入は減収する
ワンストップ特例制度とは、確定申告の不要な給与所得者等が、申請書を寄附先の自治体に郵送するだけで寄附金控除を受けることができる仕組み
在住の自治体以外に寄附した場合は返礼品をもらえる(返礼品の無い自治体もある)
返礼品は地場産品で寄附金額の3割以内のもの

③~⑥の寄附金控除の仕組みや、確定申告とワンストップ特例の違いが分かりにくいと思うので少し解説します。

スライド1

元々は、寄附金控除を受けるためには確定申告をするしかなかったのですが、毎年確定申告をする訳ではないサラリーマン家庭にとっては「うわー、確定申告なんて超メンドクセーから、ふるさと納税すんのやーめた」となってしまいます。
そこで、確定申告をしなくても申請書を郵送するだけで控除を受けられるようにしたのが、ワンストップ特例制度です。
しかしながら、このワンストップ特例制度にも【光と影】が存在します。

ワンストップ特例制度の【光と影】

【光】
●確定申告をしなくても申請書を郵送するだけで控除を受けられる
(ただし、寄附先は5自治体まで。6自治体以上に寄附した場合は確定申告。)
【影】
●確定申告なら所得税からも控除を受けられるが、ワンストップ特例だと住民税からのみ
●寄附者の住む自治体にとっては、所得税から控除されるはずだった分まで住民税から控除されるので、税収が確定申告の場合より多く減る
●1~12月の1年分の大量の申請書を翌年の1月中に自治体職員が処理しなければならない(業務負担の増加

寄附金控除の【光と影】

寄附金控除の仕組みについても、少し解説します。
次の図は、ワンストップ特例制度を利用した場合を例にしていますので、所得税からの控除は無いものとします。

ふるさと納税の税控除イメージ

A市民(寄附金控除の上限額が10万円以上ある市民と仮定します)は、住んでいる(住民票のある)A市に住民税を納税しますが、B市にふるさと納税を10万円した場合(①)は、A市に納税する予定だった住民税の一部である9万8千円(自己負担額の2,000円を超えた部分)が、B市への寄附金に充てられるため、A市の住民税収入は9万8千円減収します。

通常、メディアでも多く取り上げられる話題は、A市民視点での「お得感」B市視点での「話題性のある返礼品や寄附金の使い道」などですが、A市視点での「税収が減る」という話題はあまり報道されません。
基本的に暗い、ネガティブな話題なので取り上げられないのも当然ですが、この仕組みを知らない人も多いのです。

次は、立場(視点)を変えて、ふるさと納税の光と影について見てみます。

寄附者(個人)の視点

【光】
●ふるさとやお世話になった地域を応援できる
●税の使われ方を考えるきっかけになる
●寄附金控除を受けられる(ただし所得に応じた上限あり)
●返礼品がもらえる
【影】
●高所得者ほどお得
●在住の自治体に寄附しても返礼品はもらえない
●住んでいる自治体の税収が減ることに気付いていない人が多い

私は、生まれてから大学入学前まで福島県会津若松市で育ちました。
年齢を重ねて、家庭を持つようになってからは、より一層ふるさとに恩返し(貢献)したいという想いが募るようになっていました。
しかし、東京で家庭を持ち仕事もしている身では、たまに帰省して地元のお土産を買う程度しかできませんでした。
そんな私にとって、ふるさと納税は微力ながら恩返しできる貴重な仕組みで、とてもありがたいと思っています。

一方で、今住んでいる自治体には子どもが保育園などでお世話になっていますし、これからも小・中学校に通うでしょうから、子どもにとっては、ここが故郷です。
私自身も大好きなまちなので、私がふるさと納税することで税収が減ってしまうのは良い気分ではありません。
しかしながら、寄附金控除の申請をしなければ家計にはダメージが残ってしまうので、「申し訳ないけど、これからも納税するので少しだけ故郷に貢献させてください」と思いながらふるさと納税しています。

もし、ふるさと納税をされている方で、今住んでいる自治体の税収が減るなんて絶対に許容できない!という方がいらっしゃるなら、確定申告やワンストップ特例で寄附金控除の申請をしないという選択肢もあります。
そうすれば、あなたの納税額は全額住んでいる自治体の歳入になりますし、寄附金も寄附先の自治体の歳入になります。
(寄附金額はすべて自己負担になりますが、それが本来の寄附の形でもあります)
特産品が欲しいだけであれば、ふるさと納税ではなく直接お店から購入することもできますし、それが事業者やそのまちを応援することになります。

ふるさと納税をきっかけに、故郷やお世話になった自治体、今住んでいる自治体やまちに想いを巡らせてみてください。

返礼品提供事業者の視点

【光】
●掲載料や手数料、送料等の費用負担なし(自治体が負担)
●最小ロット制限がないので少量でも掲載できる
●自治体と一緒にPRできる(信用度UP
●販路拡大や売上増加が期待できる
●地元の特産物などを使った商品開発につながる
【影】
●地場産品基準などルールがあいまい
●ふるさと納税の売上に頼ってしまうと危険

返礼品提供事業者にとっては、ほとんどデメリットはないと思います。
通常ECサイトに掲載するには、掲載料や手数料などがかかりますし、最小ロット制限(最低500個は在庫確保しておいてください等)があるため、売れないとロスが大きいというリスクがあります。
しかし、ふるさと納税サイトへの掲載であれば、手数料だけでなく送料まで自治体が負担してくれますし、在庫を抱える心配もありません。
つまり、万が一売れなくてもリスクがないのです。

そのため、私はふるさと納税はテストマーケティングに向いていると考えています。
商品を複数掲載して、どれが一番選ばれるかを見ることで消費者(寄附者)のニーズを測ることができます。
新商品をいくつか開発して、一番選ばれたものを商品化するという使い方もできます。

また、自治体の返礼品に選ばれることによって、自治体のお墨付きを得たという安心感や信頼感のアップにもつながると思われます。
自治体と一緒にPRすることで、地域貢献企業や地域密着型企業として認知され、単独でPRするよりも訴求力がアップするのではないでしょうか。

このように返礼品提供事業者にとっては、非常にメリットが多いのですが、嬉しいことに返礼品として大ヒットした場合に危険なのが、ふるさと納税での売上に依存してしまうことです。
前述した通り、ふるさと納税制度は賛否両論ある制度であるため、世論の変化や事件・事故の発生などで制度がなくなってしまう、あるいはルールが大きく変わってしまう可能性があることを忘れてはいけません。
2019年6月に地場産品基準や返礼割合3割以内などのルール設定がされたことで、返礼品として扱うことが出来なくなった商品が多数ありました。
事業者の中には、ふるさと納税でのヒットを受けて、工場を新設したり、大量に商品を仕入れたりしたために、大きな損失を被った、中には倒産した企業もあったようです。

ふるさと納税の返礼品にすることは、あくまでもテストマーケティングやPR、販路開拓などの一部であって、軸となる売上は自社で確立しておくことが大切です。
ふるさと納税は、そのための踏み台として利用してもらうのが一番良いと私は考えています。
個人的な目標としては、市内事業者同士のコラボレーションが生まれるように、事業者を繋ぐHUBとしての役割を担いたいなとも思っています。

自治体の視点

【光】
●自治体のPR(シティプロモーション)になる
●地域資源(特産物や地元事業者など)を活用することで地域経済の活性化につながる
●寄附金による歳入増加
【影】
●住民が他自治体に寄附すると住民税が減る(流出)
●制度に反対だとしても業務が無くなる訳ではない

自治体にとっては、諸刃の剣です。

ふるさと納税のメリットや魅力的な返礼品を紹介し、まちの魅力を全国にPRできる一方で、PRすればする程そのメリットを知った住民が他自治体にふるさと納税をしてしまうリスクもあります。
繰り返しですが、賛否両論ある制度なので、応援してくれる人ばかりではありません。
菅(すが)首相が総務大臣だった時に政治主導で導入されたという背景もあり、制度の欠点を政治的な指摘の材料にすることもしばしばですし、自治体職員の中にも当然反対派がいます
そういった反対派の人たちからすれば、自分たちの自治体がふるさと納税のPRに力を入れることは決して嬉しい話ではないでしょう。

しかし、どんなに納得いかなくても制度として既に存在する以上、何もしなくていいなんてことはありません
我が市役所も、かつては返礼品も無く、ふるさと納税サイトも利用せず、特にふるさと納税制度を活用することはしていませんでした。
しかし、それでも地方税法上、「個人からの現金による寄附」はふるさと納税としてカウントされますので、市民から善意でいただいた寄附金であってもふるさと納税による寄附金として総務省からの調査には回答します。
また、市民が他市にふるさと納税した分について、税務担当課は住民税控除の処理をしなくてはなりません。自分達の所属する市役所は、ふるさと納税制度を活用していないにもかかわらず、です。
ご興味のある方は、以下の総務省のポータルサイトにある「ふるさと納税に関する現況調査」という資料をご覧ください。

キツイ言い方をすれば「悪法も法なり」です。
制度が存在する以上、それを活用するもしないも各自治体の判断です。
そして、活用すると決めた以上、フル活用するのか適度に活用するのかは職員の覚悟と意欲次第なんだろうと思っています。(自戒も込めて

仮に制度が無くなったとしても、ふるさと納税を通じて地元の事業者や自分たちのまちを応援してくれた寄附者、あるいは庁内や他自治体の職員との間で生まれたつながりまでもが無くなる訳ではありません
そのつながりは、きっと今のVUCA(ブーカ)時代の課題解決のきっかけになり、財産になるだろうと信じています。

終わりに

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。かたじけない!
3,000字以内で終わるかなと思っていたのですが、約5,000字になってしまいました。まとめ力がまだまだ不足していますね(苦笑)

ふるさと納税は、年末(特に12月31日)にピークを迎えます。
すでにふるさと納税をしている方も、検討中の方も、反対派の方も、これをきっかけに故郷やお世話になった自治体、今住んでいる自治体やまちに想いを巡らせていただきたいです。
そして、全国のふるさと納税担当者の皆さん、年末年始は気が気じゃないでしょうが、体調を崩さぬようお気を付けください。
年明けからのワンストップ地獄を乗り越えましょう!(笑)

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