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公務員にもマーケティングは必要ですか?(11) ~顧客心理術の活用~

前回、前々回と4Pや4Cを伝えるための顧客心理に応じた購買行動のプロセスモデル(AIDMA、AISASSIPS)をご紹介しました。
とはいえ、人間はモデル通りに動いてくれない、なぜか合理的ではない行動を取る傾向がある。
そして、そこにはいくつかの法則がある、という顧客心理術や行動経済学が公務員の仕事にも活用できるのではないかと感じたので、いくつか考えてみたいと思います。

ゴルディロックス効果

松竹梅の法則、中心化傾向などとも呼ばれる。
上過ぎず下過ぎず、高過ぎず安過ぎず、ちょうど良い真ん中を選んでしまう傾向のこと

例えば、レストランなどでコースを選ぶ時、3千円のコースと5千円のコースと1万円のコースがあったとすると、多くの人は5千円のコースを選ぶ傾向にあります。

この傾向は、アンケート調査など選択形式の問いかけの時に利用または逆利用できます。
例えば、住民満足度を知りたいときに選択肢を、

満足・やや満足・普通・やや不満・不満

という5択にしてしまいがちですが、こうすると真ん中の「普通」がちょうど中間になってしまい、ここに回答が集まりやすくなりますので、満足でも不満でもないモヤモヤした結果に終わりがちです。

したがって、4択にして中間を無くすことによって満足か不満かを知ることができます。
担当者として、この事業は「普通」ではダメで「満足」してもらわなければいけないと思っているのであれば、

満足・やや満足・普通・不満

とすることで、「普通」と「不満」は不満グループとしてカウントできます。
逆に、この事業は「普通」と感じてもらえれば十分成果が出ていると思っているのであれば、

満足・普通・やや不満・不満

とすることで、「満足」と「普通」を満足グループとしてカウントできるようになります。
こうすることで、アンケートを取ったけど結局よく分からなかった、というモヤモヤを少しは解消できるのではないでしょうか。

文脈効果

話の流れや前後の情報、周囲の状況などから対象とする物の認識が変わったり、誘導されたりする現象のこと

例えば、サバンナの動物の写真を見せた後に、「スピードの速いものは何ですか?」と聞くと、「チーター」と答えてしまいがちですが、「スピードの速いもの」と聞いただけなので、動物以外の「車」や「新幹線」と答えてもいいのですが、話の流れから勝手に頭の中で「スピードの速い動物は?」という問いかけに変換してしまっているのです。

他にも、冷凍食品を高級そうなお皿に盛りつけるとレストランの料理のように見えたり、プチ贅沢系の商品パッケージが金色や黒色など高級っぽいデザインになっているのもそうです。
あるいは、同じおにぎりなのに山の上で食べる方がおいしく感じるなども文脈効果と言えます。

これは、住民参加型のイベントやワークショップ、あるいは研修や勉強会などの第一印象や雰囲気づくりに活用できます。

テーブルがグループ毎に配置されていたり、目の前に模造紙が置いてあったりなど、明らかにこれから何かさせられると分かっている場合、大抵の人は身構えて緊張します。
それが知らない人同士、初対面同士だったのなら尚更です。
この最初の緊張を緩和できるかどうかで、その後の進捗がスムーズにいくかどうかが決まるので、第一印象や雰囲気作りは大切です。

スタッフはスーツではなく私服にするとか、窓のある会場ならカーテンを開けて外を見える様にしておくとか、お菓子や飲み物などを出しておくとか、ちょっとしたことで十分効果はあります。

その一つが、BGMをかけておくことです。
エレベーターの中や試験会場などを思い出していただければ分かると思いますが、知らない人の中での無音空間というのは、リラックスとは程遠い空間です。
しかし、意外と無音空間にして放置しているケースは多いです。
そして時間になると「えー、それでは、定刻になりましたので・・・」といって始まる場面を何度も経験してきました。
ここに音楽があれば少しは緊張を和らげることができたはずですし、始まるときにボリュームを下げていくことで、「お、始まるな」と心の準備をしてもらう時間も与えられます。

余談ですが、私の経験上、BGMにする音楽はあまりジャンルは関係なく、どちらかというとボリュームがカギでした。
大きすぎると会話や進行の邪魔になってしまいますし、小さすぎてもBGMの意味をなさなくなります。
歌よりはインストゥルメンタルの方がいいかなと思っていたのですが、私が実験した時は会話が始まってしまえば、あまり関係ありませんでした。
無言の時はBGMが聞こえるけど、隣の人と会話をしている時は気にならない程度のボリュームにすることがカギだと思います。

プロスペクト理論

損失回避の法則、損失回避バイアスとも呼ばれる。
得をするという感情よりも損をしたくないという感情が優先する傾向

行動経済学では有名な理論です。

①コインを投げずに1万円もらう
②コインを投げて表が出たら2万円もらえる、裏が出たら0円
この場合、0円になるかもしれないという損失を回避するために、多くの人は①を選びます

一方で、

①コインを投げずに1万円支払う
②コインを投げて表が出たら支払わない、裏が出たら2万円支払う
この場合、支払うという損失を回避するために、支払わない可能性のある②を多くの人は選びます。

このことから、得をする場面では、損失を回避して確実性の高い方を選び、損をする場面では、リスクを負ってでも損失を回避しようとする傾向があります。

ただし、これは詐欺師の常套手段としても使われており、「あなたの○○は間違っている。このままでは大変なことになる。でもコレを使えば大丈夫。」などという脅迫商法で消費者を不安にさせる手段にもなっていますので、活用する場合は住民に誤解を与えないように注意が必要です。

このプロスペクト理論を活用した事例が、2017年に東京都八王子市が発送した大腸がん検診の案内はがきです。

上記の2種類のハガキを対象者へランダムに送ったところ、左側(得する表現)の方は受診率22.7%だったのに対し、右側(損する表現)の方は29.9%だったそうです。

他にも、交通ルールの遵守を訴える時に、スタントマンが交通事故の再現をしてみせる取り組みも、広い意味ではプロスペクト理論の活用と言えます。
このように、損をしたくないという感情に訴えかけるのも時には有効です。

ツァイガルニク効果

中断効果とも呼ばれる。
中途半端に終わってしまうと、続きが気になる現象のこと

ドラマなど、盛り上がってきたところでCMが入ったり、「次週につづく」となったりすると、続きが気になってしまいより強く印象に残りますよね。
あるいは、CMや電車の広告などでも「答えはWEBで」というのをよく見かけると思います。

カクテルパーティー効果、カラーバス効果

自分が興味ある情報に反応する現象
カクテルパーティー効果は、周囲の雑音がうるさい中でも自分が興味のある言葉に反応するなど、聴覚で情報を捉える。
カラーバス効果は、自分が今、興味関心があることがやたらと目につくなど、視覚で情報を捉える。

パーティー会場などガヤガヤとうるさい場所でも、自分の名前が呼ばれたり、気になっている情報を話している人がいると、その声だけよく聞こえるという経験は多くの人があると思います。
また、「赤色のものはいくつありますか?」と聞かれると、急に赤色のものが目につくようになると思います。

これらのツァイガルニク効果やカクテルパーティー効果、カラーバス効果は、前回、前々回に紹介した購買行動のプロセスモデル(AIDMA、AISAS、SIPS)との相性が良いので、ホームページへ誘導したり、ターゲットの興味関心を引く手段としてチラシやポスターなどで活用できます。

この他にも、たくさんの理論や法則がありますので、私ももっと顧客心理術や行動経済学を勉強して、活用してみたいと思っています。

つづく
(次回は、まとめ的な記事にする予定です)

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