見出し画像

古金工(名号歌象嵌鐔)①

さて先日刀屋さんを訪れた時の事。

古金工鐔について勉強させて頂きたいと思い、何点か見せて頂く事に。
その中である鐔に目が留まる。
古金工極めの保存刀装具の鑑定書の付いた鐔である。
どうやら和歌らしきものが象嵌されている。櫃孔の形が山形で古い印象を受けるが形そのものは綺麗に開けられている。
桃山時代頃のものだろうかとのこと。

古金工といえば山銅地の鐔が多いですが、この鐔は素銅。
素銅に特段興味があるわけではない…と思いつつも以前「倣埋忠」の鐔を購入した時も素銅であったので心のどこかで気に入っている素材なのだろうか。

以前購入した素銅地の倣埋忠鐔


さて先の鐔に話を戻し、こちらは一見全て赤銅で象嵌されているように見えるが、以下のように赤丸で囲った文字は銀象嵌、水色で囲った部分は真鍮を象嵌したもののように見える。

水色部はもしかしたら赤銅象嵌が剥がれて下地の色が出ているだけかもしれないが、赤丸部の象嵌だけは明らかに違うものである。
しかし、例えば右側にある「の」の字だけ剥落してその前後の文字の象嵌が健体なのは違和感があるから、やはりこちらも種類の違うの象嵌のような気もする。

このように部分的に象嵌の色を変える手法は、埋忠に通じるような物がある印象を個人的に受ける。象嵌部を見ても非常に流暢に象嵌されている。

そして裏には「南無阿弥陀仏」の文字。
こちらも「南」の文字だけやはり異なる象嵌が施されているように見える。


・和歌の意味

さて気になるのは表に何の和歌が書かれているのかという事。
崩し字で書かれており、どうにも読めない。
そこで以前Twitterで話題になっていたアプリを思い出し頼る。
miwo」という崩し字を解読するアプリである。

これを使うと凄い。
全ての文字を読めたわけではないが、大体解読出来た。
間違っている部分もあるだろうが、探すにはかなり手掛かりになる。

これを基に調べると、どうやら一休宗純(一休さん)の「わけのほる」という和歌である事が分かった。

「わけのほる 麓の道はおほけれど おなじ高ねの 月をこそみれ」

以下でこの和歌について触れられている。

こちらのサイトを見ると、「山を登る時、麓の道はたくさんあるけれど、どんな道を通ったって同じ高い山に登る月は見えるんだよ。」という意味のようだ。
因みにこの歌は「一休骸骨」という書物に載っていることから、「人はどんな人生を歩もうが必ず死ぬ」ということを詠んだのかもしれないとも書かれている。

という事でついでに一休骸骨を調べてみた。
以下はそのページの該当箇所であるが右上に「わけのほる」の歌が書かれている。

(画像出典:一休骸骨

この書物にはこのように髑髏が葬儀を行う様子など世の中を皮肉った様子が描かれているようで。

(画像出典:一休骸骨

1つのエピソードとして、一休は切ることのできないツナギ(木の刀身)が入った朱塗りの大太刀鞘を腰に差して道を歩くなどを行っていたようですが、外見や虚飾に囚われた中身の無い禅宗の教えや武士の世界を批判したものと考えられているようです。
今でいうバンクシーのような人間でしょうか。

一休宗純


因みに「南無阿弥陀仏」の文字を鐔に刻んだ物は信家の鐔あたりから見られます。
このような文字を入れる事は室町から桃山あたりにかけて武士の中で一種のトレンドのようなものでもあったのかもしれません。
武士の気概が感じられる鐔だなとしみじみ感じていたところ、耳の部分に切り込み疵と思われるものが付いていました。
覚悟を決めて戦った当時の武士の刹那の一幕が感じられるようです。

実に面白く感じ家に持って帰りました。

すると更に驚く事に箱に落款があり、見覚えがあるなと思いガサゴソ…

なんと昔買った古刀匠鐔と同じ所有者の方の物でした。
鐔が鐔を呼んだ?
面白い事もあるものですね。


今回も読んで下さりありがとうございました!
面白かった方はいいねを押して頂けると嬉しいです^^
記事更新の励みになります。
それでは皆様良き御刀ライフを~!

続き↓

比較する事で分かる事も多く、鐔も刀同様とても面白い世界です。
よろしければ以下もご覧ください。

↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?