見出し画像

今は刀をより身近なものとして再認識してもらえる可能性のある時代

元は自身の愛刀を自宅で美術館で見るように楽しめたら…という一心から始めた刀の展示ケース作りですが、製作を続けている内に目標というのも少しづつ変わってきて、今は愛刀家の方が楽しんでいる内に、気づいたらその周りの人も刀に興味を持っている、というような状況を作り出す事が目標となっています。
家にもし刀が美術館のような状態で飾ってあったとして、ゲームを遊びに来た息子や娘の友達がいたとします。
この子供は友達とゲームを遊びに来たつもりが、唐突に現れた刀を見てなにやら凄そうなものだと感動するかもしれません。
そうした偶然的な感動というのは結構心に残ると思いますし(私も小学生の頃偶然デパートで刀の即売会がやっており村正の短刀を見せて頂いた時に子供ながらにその綺麗さに感動した記憶が残っています)、そうした場が増えれば10,20年後の愛刀家にも繋がると考えています。

しかしこの時にヤ〇ザ事務所の様に刀が展示されていると直感的に「怖い」という印象が根付いてしまうので、そう見せない工夫が何より必要であると常々感じています。
その為には見た人が直感的に美しい、と思ってくれるような見せ方、展示の仕方というのはクリアしなければならない重要な課題になってくるはずです。


・この30年で変わった特筆すべき変化

さて昔から愛刀家だけ刀に興味を持って、愛刀家の身近な人(親族)は無関心という話はよく聞きます。
私の祖父も正にそうでしたが、祖父以外に刀を好きな人が身近にいませんでした。
祖父の子である叔父は「父が大事にしていた物だから捨てるわけにもいかないし、売るにしてもどこに相談して良いかも分からない。どうせ大した額で売れないだろうが早く手放したい…と思いながら1年に1度面倒ながらも油を引き直して30年ほど経過し今に至ると言っていました。
叔母はもっと刀を毛嫌いしており、「そんな人斬り包丁はやく捨てろ」ともよく言っていたそうです。

祖父の刀は叔父が1年に1度手入れしてくれていたので、錆などは諸所にあったものの、30年間刀に興味が無い人が管理していたと思えばかなり状態が良く、ただただ運がよかったと思っています。
ずっと放置されて刀身全体が錆てしまっているお宅も沢山ある事でしょう。

叔父から引き取った祖父の刀の中の1振。刀身に付いた薄錆と思われるもの。
切先にもっとも近い部分は疵部から錆ているようにも見える


なぜここまで愛刀家の身近な人が刀を毛嫌いしているのかという状況について以前不思議に思ったので、祖父が刀を手入れしている様子などについて叔父に聞いた事がありました。
するとどうやら「1人部屋で黙々とやっていたけど俺は殆ど見ていない」との事でした。
この時にもし祖父が刀の見方などを叔父に教えていたら、叔父の刀に対する印象は結構変わっていたと思うのです。
勿論祖父が生きていた時代は戦争があり、軍刀などで人を斬っていた時代なので、「人斬り包丁」のように刀が武器であるという事実が目に見えていたので圧倒的に印象が悪い事も頷けます。

しかし近年は刀剣乱舞などの影響もあり、美術館で刀の展示が注目を集めるようになったり、テレビでも刀の美の部分にフォーカスした番組が増えたりなど、日本刀の武器以外の一面がむしろ多くの人に好印象として根付いてきたように思えます。
この人々の刀に対する根っこの部分の印象が「人斬り包丁→綺麗な物」に変わってきた事というのはとても大きく大事な変化だと思っています。


・今は刀をより身近なものとして再認識してもらえる時代

私が製作している刀の展示ケースは、部屋に刀身を飾るという物ですが、祖父の時代に作っていては絶対に見向きもされていなかったでしょうし、受け入れられなかったと思います。

この流れが現在少なからず受け入れられてきたというのは、刀をより身近なものとして再認識してもらえるチャンスとも捉えています。
しかし刀を玩具の様に展示したりキャラクターを投影して扱ったりするのは私は反対で、やはり敬意を払い扱うべき物と考えています。
刀がどういう物かを伝えるのは愛刀家本人が周囲の人に伝えていく他ありませんが、刀を展示した事であまりに刀を身近にしすぎて周囲が適当な扱いをするような事を助長するような展示方法は返って逆効果になってしまいそうで私としても慎重になっています。
一方で刀の魅力を一定の富裕層中心に広がりを持たせようとした場合、アートとしての一面を強く出した展示というのも必要になると思っています。
これはまだ出来ていないのですが。

綺麗だけどどこか近寄り難い、簡単に触れてはいけないオーラがある、そうした微妙なバランスの物を作っていく必要があると感じています。
そして、敬意を払いながら部屋に展示するもの、それにアートみを持たせてどう広げていくか…という部分で今非常に悩んでおり、今現在いくつかのパターンを検討しています。
こちらもまた完成してからにはなると思いますが、新しい展示ケースの形をいずれ公開させて頂こうと考えています。


今回も読んで下さりありがとうございました。
面白かった方はいいねを押して頂けると嬉しいです。
記事更新の励みになります。
それでは皆様良き御刀ライフを~!

↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?