見出し画像

刀や鐔の黒錆を愛でる日本人

刀の茎や鉄鐔など、そこにしっとりと付いた黒錆の風合いを愛でたり、錆に詫び寂びを感じるのは日本人の特徴らしい。
海外でも鉄を愛でる方はいるらしいが、まだまだ多くは鉄鐔よりは金工物など手の込んだ分かり易い芸術性のある鐔や刀装具などの方がどちらかと言えば好まれる傾向があるらしい。

刀で言えば唯一素手で触れる部分が「茎」であり、この部分だけは当時のまま残っている物も多い。故に時代を経た錆が付いている。

摺り上げられたものや、銘を潰して錆を付けなおしたものなど500年が経っているからとはいえ、全てが同じ錆びの付き方ではない。
以下は摺上げ。

しかし、この茎部分を例えば昔の武将なりが触っていた可能性があると考えると何ともいえない気持ちになる。
もしかしたら歴史の教科書に載っているような人が触れていたのかもしれないのだ。実にロマンがある。

①時代を経て錆は育つ

故にこの黒錆を取り除く事はご法度とされている。
文化財の破壊に繋がってしまうので十分に注意されますよう…。
刀の茎の錆は以下のように長い年月を経て徐々に付くものであり、時代を感じる為の重要な見所となっています。
ピカピカにしたい気持ちも何となく分かりますが、それは我慢して下さい。

↑製作直後の茎
↑150年位経った茎(画像転載元:刀の蔵 月山雲龍子貞一造 明治二己年仲夏
↑400年位経った錆
↑800年近く経った錆

このように段々と艶のあるような錆になっていきます。
しかし鎌倉時代の鉄と今の鉄の成分は恐らく違うので、同じ年月が経ったからといって同じような錆びになるかは分かりません。
しかしこれは確かめる術はないので答えは出ません。

②古刀匠鐔と鎌倉期の茎の錆を比較してみた

話は変わりますが、古刀匠鐔と呼ばれる鉄鐔の中でも室町以前の作とされる比較的古いとされる鐔と、鎌倉期の短刀の茎錆びを比較してみました。

光の当て方によっても上記のようにだいぶ見え方は変わるのですが、何となく似ているようにも思えます。
刀匠鐔はもともと刀匠が一振りの刀を作るついでに作っていたものとされる物らしく、刀と材質が同じであっても不思議ではありません。
すると錆の付き方というのもある程度同じになりそうな気も。

③意図的に行われた錆付けもある

ただ意図的な錆付けというのも相当行われており、茎の錆が長い歴史の中で育ったものなのか、それとも短期間で意図的に付けられたものなのか、これを見極められる事も大事らしい。
無理に付けた錆は全部が全部ではないとは思いますが薬品独特の匂いが付いている事もあるらしいので、嗅覚も大事になってくるのだとか。
後は舐めてみて分かる事もあるらしい(真意は不明)。
錆付もかなり巧妙らしく、分からない物は本当に分かりづらいのだとか。
因みに私は全く当てられる自信がありません。
「これは錆付けされた刀です」なんて状態で刀屋さんに並んでいるわけはないので知らないで買う事も多そう。
取りあえず錆付けされていない物をじっくり見て質感を頭に入れ込むしかないのかもしれない。


④終わりに

このように鉄は物により全く異なり、それが顕著なのは鉄鐔かもしれない。
鉄鐔の王者は信家と言われているように、鉄味を突き詰めるとその鐔工に行くらしい。
黒いしっとりした風合いの錆は触っていてとても気持ち良いが、一方でカサカサと乾燥したような錆は個人的にはあまり好きではない。

理想で言えば平安末期位のトロトロの錆が付いた鉄鐔なんてあれば最高なのですが、、、本など見ているとありそうなものの実物はまだあまり見た事がありません。
そもそも古刀匠鐔などは高貴な人用ではなく、身分の低い者が使用する物だったらしく、それが故に物自体を大切に残そう(管理しよう)というものではなく、消耗品であまり残っていないのかもしれない。

錆が好きになると茎をずっと触っていたくなりますが、刀身をよそ見しながら触るのは危ないので、そういった時に鉄鐔は机に置いてイジイジ出来るのでとても良い。(因みに以下は現代の作)
錆に触りながら歴史を感じるのもまた一興。


今回も読んで下さりありがとうございました!
面白かった方はハートマークを押して頂けると嬉しいです^^
記事更新の励みになります。
それでは皆様良き御刀ライフを~!

よろしければ以下の記事もご覧ください。

↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?