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人生にはコーヒーとシナモンロール、クレソンを添えて


こんばんは。しのちかです

10月1日はコーヒーの日ですね

国際協定によって、コーヒーの新年度が始まるのが10月で、この日がコーヒーの年度始めとなります。さらに、日本では、秋冬期にコーヒーの需要が高くなることか ら、1983年に、全日本コーヒー協会によって、10月1日が「コーヒーの日」と定められ、2015年から国際コーヒー機関(ICO)により「国際コーヒーの日」とすることとされました。

全日本コーヒー協会様協会概要より引用https://coffee.ajca.or.jp/about/day/


カフェオレが主食、の勢いで
コーヒーを飲んでる私ですが
母になるずっと前は、カフェ巡りが趣味

美味しいコーヒーがある!と噂を聞けば
あちこちへと向かうくらい…


数え切れないほどのお店でコーヒーをいただいてきましたが
ひとつだけ、忘れられない喫茶店があります
今回はそのお話です☕︎


当時、私は北海道の太平洋沿いで
ホテルスタッフとして働いていました

旅行と接客が大好きなので、
全国各地からいらっしゃるお客様とお話する時間は
とても楽しくやりがいがあったものです

仕事が休みの日は散策に出て
地域の特産、観光名所を学び
後日、ホテルにいらっしゃったお客様との会話の中で
そういえばこんなお店があるんですが…と
話を膨らませるきっかけ作りに勤しんでいました

せっかく遠くから来てくれたのなら手ぶらで返すわけにはいかない!
それがホスピタリティと信じ、
自分の感性を大事に寄り添う接客を心がけていました

次第に名前を覚えてくれるお客様も増え、業務にも馴染んだ頃…


適応障害と診断され退職を決めます


簡潔に言えば、上層部からのパワハラが原因

社内で行われたとある企画で、
こんなのはいかがでしょう?と提案したことが
思いの外 人気になってしまい
それを疎ましく思われたのです

そりゃあそう。
ポッと現れた人間が、長年勤めたスタッフより
急に持て囃され話題になったら
立場やプライドに傷が付く

当時の私は周りのことなんかお構いなしに
自分のやりたいことを優先する人間だったので
年功序列や役職など気に掛けていなかったのです


その企画は存在自体が無かったことにされ、
スタッフとの関係もギクシャクし始めます

誰が私のことを悪く言っているんだろう、
今までにこやかに話しかけていたスタッフたちとも
無意識に距離を取るようになり疑心暗鬼になり始め、

ついには、繁忙期にも関わらず
私"だけ"インカム(無線で会話できる小型マイク)を渡されなくなりました

グループならまだしも1人の持ち場でインカムなくして勤務をするのは地獄。
流石にここで 嫌がらせにも程がある、と絶望をしたのを覚えてます
スタッフ間の連絡ができず、ひとり館内を走り回ってひーひーはーはー言ってると

「忙しいんだからちゃんとしてよ、役立たない人」

と上層部に嫌味を吐かれ
裏で笑ってる顔を見た時に


今まで頑張ってきたのはなんだったんだろう、

と、心が急に空っぽになってしまったのです


あんなに楽しくてやりがいがあった仕事がどんどん重荷になり、
出勤すると声が出なくなったり震えたり、
朝起きることすらできず お酒の量も増え始めたため
心療内科に駆け込み
結果、適応障害と診断を受けることになりました

この頃描いてた絵は だいたい泣いてる


診断を受けたあと、
眠れないからと処方してもらった睡眠導入剤を片手に

私は家に帰るでもなく車を走らせていました

見渡す限りの大自然
窓を開ければ刈り取った草の匂い
左手には青く、ときどき白波を立てる太平洋

実は私は、14歳から鬱を患っていました
(過去形なのは今は服薬なし・環境を整え寛解しました!)
複雑な家庭環境により
自分というものの扱い方がわからず
幾度と人とぶつかり、傷つけ、独りになり
新しい土地で始めた暮らし、何度目か覚えてない転職

うまくいく、と思った矢先
またしてもままならない人生に
若い私は心を蝕まれていきます


ふと、

そういえばこの山の先に
喫茶店があったよな…

と、細い農道を曲がり
ナビを頼りに畑の間を走ること数分…

蔦に覆われた平家作りの喫茶店に出会います

なんせ外観が、蔦と花壇の植物たちで豪快に覆われているのだから
営業してるのか…?と疑いつつ、
農機具にぶつからないよう恐る恐る駐車場に車を停め
店内へと向かう…

砂利を踏み締め、聳える木々の間を抜け
小さな白い木のドアを叩き中に入ると
ほわっとコーヒーのいい香り!

土足厳禁とのことで、スリッパに履き替えてお邪魔すると
品のいい老夫婦が出迎えてくれました

店内はカントリー風で、ところどころにパッチワークの小物が飾ってあったのを覚えています

初めて来たのでおすすめを教えてください、と訊くと

焙煎したてのケニヤがありますよ、とハンチング帽が似合う店主が言うのでお任せしました

庭が見える席につき、店内を見渡すと
小さなショーケースの中にシナモンロールが。

真っ白なアイシングのかかったシナモンロールは私の大好物、ジッと見つめていたのに気付いたのか
奥様が コーヒーに合いますよ、と恭しくショーケースを開けました

私の手作りなの、と微笑まれたら 頼まないわけにはいかない…っ!

しゅんしゅんしゅん…とぽとぽ…ぽちゃ、ぴちょ、
いろんな音に耳を澄ませていると、ふんわりと
背中から香ばしい香りが漂ってきて
奥様が ケニヤとシナモンロールをトレイに乗せて現れました

ミントでおめかしされたシナモンロールちゃん

ごゆっくりどうぞ、と奥様は次に来られたお客様のもとへ行ってしまったので
小さく いただきますと手を合わせカップに口をつける

酸味が少なくあっさりと飲みやすい…
なのに鼻を抜けるフルーティな香りは、自家焙煎ならでは…?

体が温まってきたとこでシナモンロールを一口頬張ると、先ほどまでの鬱蒼とした気分が晴れるようでした

美味しいものは世界を救う。
いや、世界までは救えないかもしれないけど
確実に私の心は救ったぞ
なんせ私は、パワハラで気を病み今から退職する女
自信を失って打ちひしがれたまま…の予定が
美味しい一杯に出会ってその先にも希望が持てたんだから…

さてハローワークにでも行こうかな、と
頬杖をつきながら窓の外を眺めていた時

穏やかだった店主が小さく「あっ」と叫び
「お嬢さん、」と私に向かって声をかけました

何事かと振り返ると、慌てた店主が
湯気の浮かぶカップを持って席までやってきて


「さっきのケニヤ、味薄かったよね」

「ごめんね、淹れるの失敗しちゃったかもと思って…」

と、並々と注がれたコーヒーを目の前に置いて行ったのです

ケニヤを一口飲んで知ったふうな事を並べた数分前の自分が急に恥ずかしくなり、
ええーっとか、わーっとか こちらも慌てていたら

「今度はモカを淹れてみたから飲んでね」

こっちのお客さんに淹れた分の余りで悪いけど、と
カウンターに座るお客さんに目配せしながら店主が笑うので
気を使わせないよう添えてくれた言葉に感謝して
ありがたく頂戴することにしました

またこのモカが、コクが深くまったりとした後味で美味しいのなんの…

ひとくち、ふたくち、カップを傾けてると
横から にゅっと奥様の手が伸びてきて

「これ、いかが?さっきのお客さんがねクレソン持ってきてくれたの」

採れたてのクレソン、ゴーフル添え


クレソンは、綺麗な水辺で育つ香草
春が旬の ピリッとした爽やかな味が特徴的で、亡くなった祖母がよく おひたしにしてくれていた懐かしい味…

若い子は苦手かしら、と奥様の不安そうな表情が
じわぁと滲む
大好きです、クレソン。そう答えてひとくちかじると
鼻の奥がツンとしたのは辛味のせいだけではなかったと思う
堪え切れなかったいろんな想いで小刻みに震える肩を
静かに静かに、コーヒーの香りとジャズの音楽が包み込んでくれていました


1時間ほど居たでしょうか、
初めて訪れたのに「ただいま」と言ってしまいそうな雰囲気に
後ろ髪をひかれながらお店を後にしました

帰り道、行きと同じ道を走っているのに
なんだかアクセルペダルが軽く感じます

コーヒー屋さんなのに、コーヒー淹れ間違えるってあるんだ
なんでだろう、豆が少なかったのかな?

と今更おかしくなってひとり、ふふふと笑う

でも、そのあとのコーヒーも美味しかったな

私も、間違えても大丈夫かもしれない
また頑張れば。


そう教えてもらったような、コーヒーの思い出なのでした



おまけ。私の好きなコーヒー屋さん

▼はしもと珈琲館(白老)

白老牛バーガーとサイフォンで淹れる深煎りなコーヒーが合う

▼河井珈琲(札幌)

ビーカーで飲むの、夢だった。
全メニュー、スペシャリティコーヒー豆使用。
2階はゲストハウス⌂

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