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まちづくりは幻想なのか ~木下斉氏の「まちづくり幻想」を読んで~

昨日、木下斉氏の新著「まちづくり幻想」が届いたのでさっそく読んだ。

大まかにまとめると、「まちづくりという活動において、こうすればいいと思っていることがすべて裏目に出る、あるいはその思っていたことは全く現実に即していないが、その検証ができぬままに取り組んでかえって地域の衰退を加速させる。そうならないようにするためには、思考の土台を変える必要がある。すなわち、地域が必要なのは「ヒトモノカネ」ではなく、他人の成功事例をまねようとする思考、インバウンドで外貨を稼ごうとする目的、「みんな」の意見をまとめようとする意識、よそ者に頼るという態度、役所は役所・民間は民間という悪い縦割り意識や連携のなさという状態を変えていくということこそ必要だ、と読み解いた。

まちづくりとか地方創生で仕事をしているものの端くれとして、木下斉氏の「まちづくり幻想」で述べられていることに関してはおおむね同意している。例えば「コロナ禍で訪れる地方の時代」というのは、まったくもって幻想であり、ワ―ケーションなどはごくごく一部の企業のごくごく一部の人間しかできない(またそれを推し進めようという企業はごくごくわずかである)。来週はとある首長とワ―ケーション取り組みの会議があるが、不毛なものだ。ただ、それを暗に理解させて、限られた予算の中でどのような取り組みをしたほうがいいのかを気が付かせるのもコンサルタントの役割であったりする。これがひも付き予算で動いていないコンサルタントの強みでもあるが。儲からないけど。


コンサルタントの使い方、人材育成

ちなみに私のやるコンサルタント手法は、何度も地域に行き、何度も首長や現場の人と話し合い、本当に必要な手法を構築し、その手法に最適な補助金をもってその事業に取り組むことである。かけた時間と手間と膨大な企画書の割には全く儲かりませんが。補助金に合わせて地域が本当に必要な取り組みを捻じ曲げてしまうと、何の成果も得られないと知っているから。この手法で5年間やってきてようやく昨年から収入が得られているが、このやり方によって得られた知識や人脈が今後に生きると思っているのでやっております。こうした地道な営業活動をコツコツ重ねているコンサル会社もじつは結構あるのですが。

木下氏が指摘する「ハイエナコンサルタント」は、補助金が出ると、その補助金を獲得するための「手法」を教えに地方にて暗躍する人のことだが、これは東京のコンサルだけでなく地方のコンサルタントでも一緒のことである。どのみち、地方自治体も地方企業も、知恵とお金は外部(東京)からもらうしかない(それが、自分が勉強して取り組むよりコストも安く最短であったりする。なにせその補助金からコンサル費用を賄えばいいのだから)。そういう意味では地方創生の補助金がらみで収入を得る人は須らくハイエナである。私もそうだ。ただ、私の場合自分で狩り(長い時間をかけて営業と提案)をしていくように取り組んでいるけど、お金の出どころは結局交付金である。自分の給料は国のお金、という意識を持てるかどうかでただのハイエナかハゲタカか、まだましなハイエナか決まりそうだが。

さて、「自分ところで人材育成するより外の人使ったほうがまし」という考えの自治体は多い。ただ、この状況を変えるために「自らの自治体組織の中にしっかりした人材育成」をするには時間も足りないし、人事制度の変革も必要である。自治体の中身はかなり面倒なことになっていることも多いので定期的な刷新も必要であるが癒着を残さざるを得ない部門などもある(今日は三重県津市相生町の自治会長のニュースが話題になっているようだが)。

そのあたりの柵をしっかり解きほぐして少しでも若くていい人材を首長が目の届きやすい部署に置いておいて、裏で英才教育をしていくことと、現在の人材(年寄上席職員)をうまく生かすことを考えなければならない。それがいない限り自分が動かなくてはならないが、限界がある。そして、それはしっかりと庁内を把握してから以降でないとできないことが多い。となると、任期の4年では足りないのである。このあたりのジレンマを赤裸々に言う首長や議員がいる。そうなると、まちづくりに関しては結局人気取りとして補助金事業をさっさと取り組んでアリバイ作り的な箱ものやイベントをやるだけ、ということになりがちである。

仕組みとしては国の補助金を使う以上5か年計画の作成や補助事業による効果の報告を数年以上行うのだが、これが甘いと思っている。また、首長が変わったから以前までの取組を否定してコロコロ変えることなどがある。悪しき取り組みなら赤字垂れ流しが続くまでにバッサリ切ることと、気に入らないからという理由だけで前任者の取り組みを変える事ちゃんと区別し、続けること、辞めることのメリットデメリットを明らかにしたうえで、自治体に判断させず国が判断してもいいのかもしれない。そもそも計画時点でのチェックが甘すぎる問題もあるのだが。計画は国が判断(実態は〇〇経済研究所などの機関に丸投げ)せず、複数の会計監査企業などに判断させる必要があると思うが。なお、地域の金融機関に判断させると、基準が甘くなるのでダメです。

そういう全体をわかって、最適な指針を示せる人が自治体に必要だと思うのです。それが軍師(参与)だと思う。そういう取り組みしている自治体も増えてきている(四条畷市とか)。そこに予算つけて、しっかりと参与に仕事をさせていくことが必要だと思うのです。名ばかり参与ではなく。兵庫県参与の石原氏などのように、素晴らしい経験と知見と人脈持っている人がいる。地元選出国会議員にも尊敬されている人がいる。そういう人をちゃんと自治体は抱えて、そういう人と計画を考え、また自治体内の人材育成に取り組むことが必要だと思われる。地域活性化の人材を、地域おこし協力隊のような制度で集めようというのは安直すぎる。企業版の地域おこし協力隊(地域おこし企業人)で、外の知恵をうまく使う方がまだいい。


地方移住はなぜ進まないのか

都会からの地方移住に関して言うと、子供の成長などを鑑み地方移住する人は多いが、そういう人は結構いい企業だったりいい大学出ている人が多く、おそらく子供さんは高校生、大学生になったら東京に行ってしまう。木下氏は女性が流出する理由を注目せよと説くが、さらに言えば若者が都会に出て行ってしまうことも地方にとっては大きな課題である。地方に面白い大学も企業もないからだ。大学では最近しっかりした取り組みがちょいちょいあるが、まだ少数派である。それは割愛。

その解決方法として地域の企業自身が生まれ変わることに関しては完全同意である。DXなどどこの国の言葉か、というくらい地方企業のIT化は遅れているばかりか、そもそも業務が本当に無駄なものばかりだ。やりとりがファックス中心という会社もかなりいる(しかも大手の子会社とか系列企業の広島本社とかでこのレベルだったりする)。ファックスが届いた・届いてないでわざわざ電話確認するのを何とかしてほしい。

私の仕事の場合扱っているのがサツマイモという生鮮品なのである程度きっちりとしたことが出荷元(農業者、卸会社)出荷先(スーパーマーケット)でできないということは理解しているが。それにしてもシステム化が遅れている。本来ならここにこそITコンサルタントを東京からぶち込んで、ここに地方創生の予算突っ込めば改善する企業は多いはずである。

(ただし、そのスキームは検証する必要がある。国(あるいは何かの組織や金融機関)が株主となって大ナタ振るい、付加価値上がったらその会社に株を買い戻させる、他の会社に売る、とか。
ちなみにVCがこれやろうとしても、だいたいVCが送り込む会社や人材に「中小企業や田舎企業の業務効率化」を得意とする人が少なく、たいがいマーケティング戦略とか言うてしまって広告代理店にお金が流れるだけの仕組みになったりする。国や何かの機関が株主になったとしても、6次産業化の初期の海外進出などのように大失敗することも多々ある。)

とはいえ、こういう業務非効率があるということはその改善という仕事があるということでもある。大ナタを振るう人、その人の指示で細かな事務作業などを整理整頓していく人などには都会の人の仕事以上の面白さもあり、若手の人が就職することでやりがいのある仕事になると思う。それに加えて、マーケティングや営業の仕事もある。日南市の事例などを木下氏は挙げているが、先に上げた四条畷市や民間企業で言うと千葉県香取市(だったと思う)の某酒屋さんの取り組み、NPO法人ETICが行っている「GYOSOMON プロジェクト」をその意味で注目しています。

「GYOSOMON」に関しては、報酬が少なすぎるのがネックですが。現在、私も某県に対して「都会の人が副業で地域課題に取り組める仕組み」を提案しています。逆参勤と違うのは、地方が都会の人に対して「地域メインで仕事をしてもらう」ではなく、あくまで地方には自発的に、自分の空いた時間で取り組んでいただけることである(有償です)。

京丹後市が最近では逆参勤の職員を募集して話題になっているが、あのスキーム(地方で週3日、都会で週2日)でできる人はそんなにいません。都会で週5日、地方のために5時間、という形のほうが優秀で若い人材が集まるはずです。


地方創生は自主的に進むのか

木下氏は、よそ者頼みをやめよう、自分たちでしっかりやっていこうと説く。その点はとても賛成する。コンサルタントがいろいろ親身になって自治体や地方の企業などにアドバイスしても、そのアドバイスは結局その組織の中で蓄積されないことが多い。企業の一部などは「所詮よそ者の意見」としてはなから取り上げなかったりする。ミラサポとか6次産業化とかで無料の相談ができる制度は、コンサルにとっては食い扶持であるが企業にとっては余計なお世話だったりする(いま、某企業からめちゃそういう視線を浴びながら仕事をしている。しかし、このままならこの企業は間もなく死ぬ)。金を払って雇ったコンサルの意見であれば自分も真剣になって考え、そこからアクションをとろうと思うことは多くなる。無料相談というのは、そういう意味で諸刃の刃である。これは、木下氏が指摘する「地方が、安くてたくさん(提供する)という考え方にとらわれすぎている」ということに似ていると思う。

では、やはりよそ者に頼らずに自分でするべきなのか。しかし、多分このやり方で活性化できる自治体はほとんどない。
「ガンダム 逆襲のシャア」において、シャア・アズナブルが「ならば、今すぐ愚民どもにその叡智を授けてみせろ」とアムロにいったのに似ている状況だと思う。市民が、そしてそこで選ばれた首長と市役所の職員、市民がすべて「自らがやる気をもって」取り組むことが無ければこういう取り組みまでできない。しかし、現実問題としてそこまで日々のまちづくりの課題や解決に意識が高い人はごくわずかであるし、小さな一歩、その成功から町の人々の意識が変わって波及して、、、というドラマのような話も、相当の時間と努力が必要である。高知県馬路村の取り組みなどは25年くらいかかったと聞く。小さな成功を生むにも数年、それが市民の意識を高めていくにも数年かかる。その間に地域自体が消滅するだろう。

木下氏が挙げた事例のいくつかにおいても、裏ではどす黒い利権や思惑のもとにできているものであったりする(詳しく言うと消されるので言わない)。また、拙著「小さな空間から都市をプランニングする」で挙げたような事例も、木下氏が取り上げた事例のいくつかも、都市の中で小さな小さな効果が生まれているだけで、「まちをごっそりかえる」ような効果を生むまでに至っていないものが多い。

果たして、まちづくりとは何か。地方創生とは何か。そもそも、地方創生という言葉は「東京で生まれた言葉」である。関係人口も、逆参勤交代も。東京の目線で地方の政策立案がすすみ、予算が組まれて、東京の会社がそれを受託している。しかし、それも当たり前の流れだと思う。そもそも「地方において地方活性化を取り組める人材がいないし、育てる気もない(育てていなかった)」からである。たまたま意識・能力が高い人がIターンUターンなどで帰った人材が活躍している事例ばかりなのはその証左といえる。

もう一つ大切なのはお金の流れ、稼ぎ方だ。地方創生において「東京や外国から外資を稼ぐ」ことは最重要課題である。ただ、その手法としてどこもかしこもリゾート開発や工場誘致だ成功事例の模倣だというのは間違いである。その地域にはその地域なりの手法があるし、10年後20年後を見据えた目線や、リゾートや特産品の国内競合という目線も抜けている。木下氏が指摘するように外貨を稼ぐ前に地域からお金が流出してしまうことを止めることが先決である(その点、面白法人カヤックのまちのコインや、静岡県西伊豆町が取り組む地域内経済循環などは大切な視点である。西伊豆町の取り組み最初に静岡駅近くの飲み屋で指南したのは一応静岡県立大の先生と私である。気が付いたら取り組んでて二人でびっくりしたけど)

私が思うまちづくりとは、外部のお金と人材をいかにうまく使い、地域内の経済循環を作り直し(=再生ではない!昔のようには戻らない)、そのノウハウを地域自身がためていけるかということを考えることだと思っている。思考の土台を崩すことは必要だが、地方の人であればあるほどその土台を崩せない。今までやってきたことや考えていたことを否定するのもパワーがいる。それを、外部の力(人材)を使って真正面から砲撃で崩すか、少しずつ(でもなるべく早く)データに基づいてくりぬいていくか。私はそのハイブリッドが必要だと思う。野球でいえば故星野監督と故野村監督のハイブリッド。性格悪い&怖そうだけど。星野監督野村監督が率いて日本一になった阪神タイガースもヤクルトスワローズも、外の人をうまく使うことで成功した(コアな野球ファンからの反論来るかもしれないが、これはこれでスルーしてほしい)。

そのために外部の人をどう見抜いてどう使うかが必要である。国も、本気で地方創生を進めるのであれば、地方創生計画が、お金が有効に使われていく計画であり、その実現ができる体制であり、本当にその地域の血肉になったかをチェックする機能も必要である(いわば検証委員会 6次産業化のエグゼクティブ制度にはこの仕組みがあり、結構厳しくチェックされる。コンサルとして今年3件関わった私も再来週報告会があり、検証会の先生方に対して正直子ウサギのようにびくびくしている)。
また、取り組み計画が杜撰で明らかに大きな損害が出た場合は、地域と関わったコンサル会社や事業者にペナルティを課すべきである。行政だけでなく、チェックすべき議会もヌルイのが実情だから、両方に課すといい。それが厳しいからと地方活性化の補助金申請を自治体が取りやめるならそこまでの話だ。自分のお金で何とかさせた方がいい案になるだろう。

木下氏はじめ、そういう検証委員会的立場に立っていただく人が増えたらな(栃木県の紅茶好きなO先生とか)、と思うことがしばしばある。全方位から嫌われる役割になるので嫌でしょうけど。


私は来月から丹波篠山で小さな商社(兼DMC)をまちの人と立ち上げる(初期費用などは私が投資)のですが、いつかこういった方々からも「しっかりとした成功事例」として認めていただけるように先ずは頑張ろうと思います。

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