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天才との格闘

家庭教師という仕事をやっているといろいろな生徒さんにめぐり逢います。
時には、中3の夏までテスト勉強したことないという生徒さんや、大手塾に6年間通ったけれど5段階の成績で一つも2以上取れなかったという生徒さんや、受験直前の夏休み一度も勉強してない生徒さんなど、比較的切羽詰まった生徒さんをみさせていただく事が多いのですが、稀に天才が現れます。一つの例を書き記しておきます。
当時この天才中3が始まったばかり、質問は初日からこうです。
・オール5取るにはどうしたらいいですか?
・難しい問題しかやりたくないです。
終始こんな感じで、初日の指導終了間際、
「一つ解らない問題があります。」
というので聞いてみるとこの記事のヘッダーに一部載せておいた図形で問題を簡単に説明しますと
・正方形の中に5つの同じ大きさの円があります。
・その円は正方形の3辺とそれぞれ1点で交わり、正方形の残りの1辺とは2点で交わります。
・分かっているのは一つの円の半径がrcmということだけ
・そこから、この正方形の1辺の長さを求めよ。
というものでした。
この図形問題は、当時の中3の裏表紙に単に載っていたもので、中3でやる範囲ではありません。
直感でこれは、試されているなと感じたと同時に、こんなのすぐ何とかなるだろうと説明しながら眼の前で解き始めました。
すると私はしばらくして中3の範囲を逸脱していることと、そう簡単な問題ではないことに感づきました。
分からないとは口が裂けても言えない仕事柄、途中で指導をやめ、次の日も来ることになっていたため、途中式が長くなって遅くなってしまうので、明日この問題を完成させて説明できるようにして持ってくる旨を伝えて、その日は指導を終え帰宅しました。

帰宅して、ご飯を食べながら風呂に入りながら、この問題に対するアプローチを頭の中で整理して、いざ、晩酌をしながら取り掛かってみると、一筋縄ではいきません。
当時はまだ、専門が完全に文系だった私が(今はどちらかというと経験を踏まえ理系よりの発想をするようにもなりましたが)帰宅後夜11時過ぎから、明日の指導に万全の解答を仕上げる。
結果、早朝4時までかかりA4用紙の表裏2枚半びっしりと途中式を書き込み、そこには人類の神秘黄金比なども交え、完成させて次の日の指導に臨みました。

次の日の指導時間の冒頭、この解答のあらましを話し、一つ一つ丁寧に途中式について解説していきました。すると、その天才は感心して興味深そうに聞き入ってくれ、その式の1行1行についてもしっかりと凝視して、最後とても満足そうに微笑んでいました。あの時の彼の表情は今も私の脳裏に残っています。
この一瞬でこの天才からの私に対する信頼を勝ち取ることができたことを肌で感じたものでした。

その後、この生徒さん用にもっと探求させてやろうという気持ちもあって、日本でおそらく1番難しい中3向けの数学のテキストを東京で手に入れ指導に使いました。
「さあ、今日はどれをやる?」
私の問いかけに対して、にっこり笑って、
「じゃあ、これお願いします。」
天才は、じっと問題を凝視して、
「いま、降りてきました!」
天才は解答に類することが、天から自分の頭に降りてくるそうです。
結局、この天才はオール5の成績で中学を卒業し、東海地区でトップの高校に進学し、日本でトップ5に入る偏差値の大学へと進み、医学の道へ入っていきました。
今振り返れば、この出会いは、私にとってのターニングポイントだったのかもしれません。プロとして生徒を前に指導する事に対し、一歩も引かない、引いてはならないことを肌で感じられたことは、財産になりました。
指導する立場として、私の眼前に突如出現した天才を納得させる指導力を手に入れたこと、容易ではありませんでしたが、とても意義のある時間でした。


私自身、学生時代はどちらかというと数学は義務としてやっていただけだったのですが、この頃から、数学の奥深さ、面白さに気づいて、普段何気ないときにも問題が解きたくなったりしたもので、学生時代にこんな心境に何故なれなかったのかと、思い起こす日々が、中年期以降遅ればせながら、数学の腕を上げていきました。


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