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【短編小説】悪魔のたまご

一匹の雛鳥がとても温かい巣の中で産まれました。親鳥たちは雛鳥が卵の中から出てきたことに気づくと大層喜び雛鳥を可愛がりました。
「おはよう、私達のかわいい雛鳥。無事に産まれてきてくれて嬉しいよ。卵の中は暑くなかったかい?寒くなかったかい?狭くなかったかい?広すぎやしなかったかい?ああ、なんてかわいい我が子だ。本当に産まれてきてくれてありがとう。」
「はじめまして、私達のかわいい雛鳥。お前が兄弟で一番乗りだ。外が楽しみだったのかい?私達に会いたかったのかい?お腹が空いたのかい?歌いたいのかい?弟達はまだ卵の中で眠っているよ。一緒に待ってあげるとしよう。ああ、なんてかわいい我が子だ。」

雛鳥は後に産まれてくる弟達を親鳥と共に待つことにしました。その間、親鳥達はつきっきりで雛鳥のことを愛してくれました。その時間は雛鳥にとってとても幸せな時間でした。このままずっと、この時間が続けばいいのにと考えてしまうほどに。
「このまま、弟達が卵のままでいてくれたならいいのに。そうすれば、パパとママは僕のためだけにご飯を持ってきてくれるし、僕の歌だけを聞いてくれる。弟達が産まれてこなければパパとママはずぅーっとずっと、僕だけのものなのに。」

そんなある日のことでした。雛鳥は一匹でお留守番をしていると巣の前に一匹のカッコウが訪れました。カッコウは親鳥達が餌をとりに出かけていることを確認すると雛鳥にこう話しかけました。
「やあ、いきなりで悪いのだけれどこの卵を預かってくれないかな。」
雛鳥は困惑しました。
「大丈夫、この卵は君を守ってくれる卵だ。それに、君の願いを叶えてくれる卵でもある。君がこの卵を預かっていてくれれば、いずれこの卵は君の願いを叶えてくれる。だから、よろしく頼むよ。決してパパやママに見つからないようにね。」
カッコウはそう言って一個の大きな卵を巣の中に転がし、何処かに飛んでいってしまいました。

やがて大きな卵から1匹のカッコウが産まれました。
雛鳥はがっかりしました。
「なんだ、結局嘘だったじゃないか。君は産まれてしまった。僕の願いは叶わなかった。」
するとカッコウはゆっくりと起き上がり、巣の中の卵を全て地面に落としました。卵は真っ逆さまに落ちていき、ペシャッという音をたてて潰れてしまいました。そうしてカッコウは雛鳥のほうをゆっくりと向いてニッコリ笑ってこう言いました。


「よかったね、願いが叶って。」


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