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【“越境”の裏側】テレビ報道キャスターが、日本最大の教育NPOに参画するまで

訪問いただきありがとうございます、教育探求家・ビデオグラファーの加藤聡です(元・日本テレビアナウンサー/報道キャスター)。

前回のnote初投稿では、自分の問題意識(=問い)の変遷を、ファーストキャリアである日テレ時代にフォーカスして記しました。

【前回のおさらい】
「テレビが変われば、社会は良くなるのではないか?」という問いから出発し、いろいろな立場でテレに報道に携わる中で、テレビ「だけ」では動かし難いことを痛感。テレビから“越境”した活動に取り組んでいくことに。

今回は、テレビから越境して参画することになった、NPOカタリバとの出会いや実績について、記していきます。


NPOカタリバ=日本最大の教育NPO

カタリバは、「どんな環境に生まれ育っても、未来をつくりだす力を育める社会」を目指して、「意欲と創造性をすべての10代へ」をコンセプトに活動している認定NPO法人です。

設立は2001年。高校生と大学生が対話するワークショップ「出張授業カタリ場」プログラムに取り組んできました。
そして、2011年の東日本大震災をきっかけに、被災地の子どもたちの居場所を立ち上げ。それ以降、不登校支援、ユースセンター、探究学習、校則の見直し、外国ルーツ、ヤングケアラー・・・さまざまなテーマでプロジェクトを立ち上げ、教育の分野では、今や日本最大規模の認定NPO法人です。

現場で子どもたちと向き合い実行(アクト)しながら、あるべき姿を研究するシンクタンク機能も有する自らを「アクトタンク」と表現。
仮説・実行・検証・改善の高速PDCAサイクルで変容し続けている、スタートアップのような団体です。

大学生時代に出会ったカタリバ

そんなカタリバとの出会いは、大学生時代でした。
中学受験で第一志望校に合格できなかった自分にとって、大学受験の大きなモチベーションは、中学受験での挫折を「リベンジ」すること。

大学で何を学び、どんな日々を送り、その先の自分の歩みをどう描いていくのか。中高生時代にキャリアについて考える機会は、さほどなかったように思います。

大学入学式の日に、父と

「自分は人生をかけて何に取り組みたいのか」
大学2年生で迎えた20歳の誕生日、自分の中で急浮上した“問い”に、自信をもって答えることができませんでした。

実は、アンパンマンが問いかけてくれてたことなんですけどね・・・

キャリアに関する講演でよく紹介する歌詞

「中高生の時に、少し年上の先輩から、学部ごとの違いや大学生活、サークル活動や進路などについて話を聞ける機会があったら、もっと有意義な時間の過ごし方や判断ができるじゃないだろうか」

そんな問題意識で集まった同世代の仲間と一緒に、中高生むけに、大学生が受験勉強ではない文脈で語る機会を提供する活動を始めました。

すると、すでに取り組んでいる団体があったのです。それがカタリバとの出会いでした。勝手に“ライバル視”しつつも、都内の中学校で合同でプログラムを実施したことも。

当時のことは、カタリバ代表・今村さんとの対談動画でも話しています。

カタリバとの“再会”は「マイプロジェクトアワード」司会

そんな大学時代を経て、新卒でアナウンサーとして日テレに入社した私。
カタリバと再び活動するきっかけは、カタリバが始めた「マイプロジェクト」でした。

マイプロジェクトは、身の回りの課題や関心をテーマにプロジェクトを立ち上げ、実行することを通して学ぶ、 探究型学習プログラムです。
大切にしているのは、小さくても実際に起こす「アクション」と、プロジェクトに対する「主体性」です。
不確かな時代だからこそ、高校時代に正解のない問題に向き合い探究することで、 未来への創造力が育まれます。
未来の学びを日本全国の高校生に届けるというコンセプトのもと、マイプロジェクトを広げる活動を行っています。

カタリバWEBサイトより引用

「探究」が2023年度から高校の必修科目となったように、今となっては、その重要性は広く社会で認識されるようになりました。

その10年前から、カタリバは「マイプロジェクト」という名前で取り組み、全国の高校生たちが、互いの実践をシェアし学び合う機会(アワード:プレゼンテーション大会のようなイベントです)を設けてきました。

この「マイプロジェクトアワード」の司会を任せてもらったのが、カタリバとの“再会”だったのです。

過去の出場者と一緒に毎年MCを担当(撮影:2016年)

MCという立場で、「マイプロジェクト」や「探究」の輪が毎年大きくなっていく“うねり”を感じてきた10年でした。

撮影:2018年(リアル会場の演出がリッチ)
2022年度で10周年(出演者以外は顔加工)

偏差値という物差しよりも、興味・関心をもとに一人一人が主体的に行動して学んでいく取り組みこそが大事なのではないか?
こうした“問い”が広く共有され、教育プログラムとして市民権を得ていく10年間でした。

カタリバへの参画の転機「ルールメイキング」動画教材

マイプロに続き、カタリバとの結びつきを強めた大きな転機となったのが「みんなのルールメイキング」です。

既存の校則やルールに対して生徒が主体となり、先生・保護者などの関係者との対話を重ね、納得解をつくることを通して、課題発⾒・合意形成・意思決定をする⼒を高めていくことを目指し、全国の中学・高等学校や自治体とともに活動に取り組んでいます。

カタリバWEBサイトより引用

このプロジェクトが、経産省の運営するWEBサイト「STEAMライブラリー」に掲載する動画コンテンツを制作することに。動画制作のディレクションという役割でオファーをもらいました。

動画コンテンツのディレクションとなると、内容の把握、企画の吟味、構成、撮影、編集、チェック・・など多くのプロセスが必要です。日テレで働きながらプライベートな時間で完結できる仕事量ではありません。

そこで、カタリバから私個人ではなく日テレに発注してもらい、私は日テレの事業担当者という立場で、「日テレの仕事として」取り組むことにとなりました。

11本制作した動画の1本目(全体の紹介ムービー)はこちら↓

MCは、カタリバの事業担当者・古野香織さん。鈴木福さんをゲストに招き、哲学者・教育学者の苫野一徳さんに解説いただきながら全体を進行しました。

ルールメイキングに取り組む現場や先生・生徒へのインタビューなども交えながら、教育者の工藤勇一さん、オリンピック元日本代表の為末大さんとの特別対談、宇宙スタートアップ企業「株式会社ALE」代表の岡島礼奈さん、レゲエグループ「湘南乃風」の若旦那さんといった方々も登場。
多様な立場・視点から「ルールメイキング」について考える動画シリーズとなっています。

校則という身近なルールを題材に“対話を通じた合意形成”を経験することで、民主主義の本質を理解し、その素養を育むことができるのではないか?

私がこのプロジェクトに向き合う上で抱いた“問い”です。
下着の色指定や髪の黒染め強要など「ブラック校則」が社会的な関心となる中で、こうした問題意識は多くの人々と共有するところとなり、具体的な取り組みが当たり前のように進むようになりました。

日テレを休職してカタリバ広報に参画

マイプロジェクト(探究学習)や、ルールメイキング(高速の見直し)に、時には司会として、時には動画教材ディレクションの役割で参画する中で、自分がテレビ報道で培ったスキルや知見でカタリバの事業推進に貢献できるイメージを深めていきました。

そこで、日テレの仕事を休み(休職制度を活用)、動画を活用した情報発信という役割でカタリバに参画することを、代表の今村久美さんに提案。カタリバ広報チームへの参画が決まりました。

オフィス入り口にて

取り組みの中から、具体例をいくつかご紹介します。
例えば、カタリバの取り組みをコンパクトに紹介する事業紹介ムービー。

【学校横断型探究プロジェクト】
小規模な高校同士がオンラインで繋がり、探究を進めていきます。

【カタリバオンライン for Teens】
地域や学校の枠組みを超えて高校生が学び合える、探究の加速を支援する機会を提供しています。

【room-K】
オンラインを活用した不登校支援プログラムです。「メタバース登校」という言葉で注目され、多くのマスコミに取り上げられました。

【おんせんキャンパス】
島根県・雲南市の教育支援センターを、カタリバが運営しています。

こうした事業紹介ムービーは、知ってもらうきっかけとしてコンパクトな数分間のバージョンを基本としつつも、「もっと深く知りたい」関係者むけに、ロング版を制作したものも。

また、リアルとオンラインを組み合わせた、いわゆる「ハイブリッド型イベント」のライブ配信オペレーションも担当しました。

例えば、グーグルさんとの連携企画。グーグル社員と高校生が、対面やオンラインで集まり、教育について一緒に考えました。

動画やライブ配信には、時間や空間を超えて、現場の様子や当事者の思いを解像度高く共有することができる、大きな力があります。

動画を活用したコミュニケーションが社会のあらゆる場面で進んでいくことを願い、私自身が得た知見を今後シェアしていきたいと思っています。

撮影・編集は「Vookスクール」でリスキリング

ちなみにですが、日テレでは、撮影や編集をディレクション(判断・指示)することはあっても、自らオペレーションすることはありませんでした。

見よう見まねでできないわけではないけれど、しっかり身につけたい。
そこで、カタリバ参画にあたり、渋谷にある映像クリエイターの学校「Vookスクール」に通い、撮影・編集を学びました。

カメラ、マイク、照明などの機材がそろった環境で、体系的なカリキュラムを進め、経験豊富なメンターから学ぶことができる。とても充実した学びの機会でした。

テレビ局、特にキー局の現場では分業体制のため、動画制作を自己完結できる人は、実は少ないと思います(地方局の方がオールマイティーな制作者が多いでしょう)。
撮影や編集といったスキルを身につければ、企画から撮影、編集まで一気通貫でカバーできる「ビデオグラファー」になれます。
動画の活用ニーズは増していく一方で、テレビ局の仕事は縮小が不可避。
テレビ制作者の皆さん、ビデオグラファーになりましょう!

今回は、カタリバとの出会いと参画についてフォーカスしました。

日テレやカタリバでの仕事に加えて、個人としては「メディアリテラシー」講師や、探究×キャリアの講演、インドネシアの学校視察などに取り組んできました。

次回の“問いストーリー”では、こうした個人としての活動を振り返りたいと思います。

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