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性質の進化論:密度と構造と性質の変化の循環構造

物質と影響は、それぞれ密度と構造と性質を持っています。

物質の密度は、その物質が及ぼす影響の密度に反映されます。同様に、物質の構造は影響の構造に、物質の性質や影響の性質に、それぞれ反映されます。

そして、影響の密度、構造、性質は、その影響を受ける物質の密度や構造や性質のいずれか変化させる場合があります。

特に、物質の性質が変化することで、それまでになかった性質が誕生する場合があります。これが物質と影響のシステムに新しい次元の変化をもたらし、また新しい影響の連鎖が起き始めます。その中で、再び新しい性質が誕生することが繰り返され、次々に次元が発展していきます。

■密度の変化が及ぼす性質の変化

空間に均一に同質の物質が分布している時、それらが互いに影響を与え合っているとしても、性質的にも密度的にも変化はありません。

同質の物質が、空間に分布していながら、揺らぎや偏りがあると、その状況が変わります。物質の密度の違いは、与え合っている影響の密度の違いを生みます。影響の密度の違いは、影響の密度が場所によって異なるという状況を意味します。

特に、物質が集まった場所では、影響の密度が増えます。増えた影響の密度が、臨界を超えると、それまでになかった変化を生みます。それは性質の変化と言えます。

■構造の変化が及ぼす性質の変化

また、周囲に与える影響の密度だけではありません。物質が集まった時に、その位置や距離の関係が、影響の与え方にも違いを生みます。物質の位置や距離の関係は構造と呼ばれます。そして物質の構造に従って、影響も構造を持ちます。

影響の構造的な変化も、影響を与える対象の性質を変化させる可能性があります。

例えば、量子の集まりが原子だとすれば、集まった量子の数によって原子が周囲に与える様々な影響の密度が異なり、集まった量子の構造によって影響構造も違ってきます。この影響の密度や構造の差異は、原子の性質の差異となって現れます。

このように、均質な物質であっても、集まることで、影響の密度や構造が変化し、それによって影響を受ける側の構造や性質を変化させることがあります。

■性質の変化が及ぼす性質の変化

こうして性質の違う物質が登場し、それが集まることで、さらに影響が多様化します。

性質の異なる原子が集まって、様々な分子を作ります。20種類のアミノ酸は、集まって連結してポリマーを形成すると、非常に多様な効果を生み出します。

このような形で、異なる性質を持つ物質が、連鎖的に生み出されていきます。

■構造の多様性

一方で、同様にポリマーであるDNAは、自己複製はするものの、それ自体が効果を与えることもほぼありません。アミノ酸のポリマーとは異なり、長さや組み合わせが複雑化しても、新しい効果が生まれるわけではありません。

これはDNAが規則的な構造を持つヌクレオチドの配列であるのに対して、アミノ酸はそれぞれ形や長さが異なる構造になっていることが大きな違いでしょう。

単に性質が多様であるだけでなく、集まった時の構造が多様になることも、新しい影響の生まれやすさを左右するということです。

■収斂と分散

揺らぎや偏りにより物質が集まる時、継続的な法則により集まるという事自体が自己強化されるなら、そこへ物質が集合あるいは収斂されていきます。一方で、自己強化や自己組織化のような法則が働かなければ、物質は分散していきます。

これは空間的に同じ場所に物質が集まったり分散するという側面と、物質の性質が同質のものに収斂される場合と異質なものに分散するという側面があります。

収斂された物質は同質性を高めながら数を増やしていきます。これによりランダムに数を減らすような外乱に対しては冗長化されてロバストになります。しかし、特定の環境下ではその性質が弱点になる場合に、どんなに数が多くても破壊されてしまします。

分散される物質は、その分散により多様な構造や組み合わせが実現されるようになります。個々の構造や組み合わせは、数が限られているためランダムな外乱で容易に失われてしまいます。しかし、性質が多様になるため、弱点があっても一部の構造や組合せのみが、その影響範囲となります。

■集合と構造の固定化

集合や構造は流動的であっても、その集合や構造が維持されている間は、その性質の影響を受けます。

一方で、集合や構造が固定化されれば、継続的に影響を与えることができます。

化学物質であれば、エネルギーの山を超えると、その先に谷があるケースがあります。あるいは山がなくいきなり谷になっていることもあります。こうした谷の中に収まれば、抜け出すためには大きなエネルギーが必要になりますので、その谷の中に留まり続けます。

こうしたエネルギーの谷が、物質を固定的に接続する仕組みとなります。これにより、物質同士の集合や構造の固定化を可能にします。

■触媒の作用

触媒は、このエネルギーの山や谷を変化させる影響を与える物質と言えます。触媒の作用により、物質の固定的な接続が形成されやすくなったり、反対に接続が崩れやすくなったりします。

構造の多様性を持つアミノ酸のポリマーは、アミノ酸の組合せにより多様な影響を持ちますが、その中には様々な種類の触媒の作用もあります。

■3つの環境

物質が影響を与える周囲の環境には、3つの種類があります。

1つは対等な関係にある他の物質群です。この種類の環境では、ここの物質との関係において、個別に影響を与え合う事になります。他の物質との対等な相互作用です。例えば周囲の物質に引力を及ぼせば、対象の物質を移動させることになります。

2つ目はミクロな物質で構成されている周辺環境への影響です。この場合、そのミクロな物質へ広範に影響を及ぼします。例えば、物質が発熱した際、周囲に水や空気があれば、その温度を上昇させます。

3つ目は、マクロな周辺環境です。この場合、影響を与える物質がミクロレベルであり、それがマクロな物質に影響を与えることになります。通常、ミクロレベルの単独の物質だけでマクロレベルの物質への影響を与えることは困難ですが、ミクロレベルの物質の影響が集まる事で、マクロレベルにも作用することになります。これは、水や空気の温度が、物質の温度を上昇させることを例に挙げることができます。

■性質の側面からの抽象化

物質の性質の変化は、周囲に与える影響の変化と言えます。

周囲に与える影響は、周囲の物質の生成確率や存続時間への作用という観点で抽象化することができます。言い方を変えると、この観点で抽象化した場合、生成確率や存続時間に作用する以外の影響は、全てそぎ落としてしまうという事です。

なお、影響が、物質の性質を変えることがあります。これは、新しい性質を持った物質が生成されたと捉えることで、上記の抽象化の枠組みの範疇に収まります。

例えば触媒は、接続の形成や崩壊を促進するため、まさに、ある性質を持った物質の生成確率や存続時間に作用するという影響を及ぼします。このため、新しい触媒作用を持つアミノ酸ポリマーが形成されることは、新しい性質が発現したと言えます。

この抽象化の観点を、性質中心モデルと呼ぶことにします。更に、このモデルに現れる物質と影響は、性質的存在と性質的影響と呼ぶことにします。

■性質中心モデルの意味

このように、物質の持つ性質を、周囲の物質の性質の生成確率や存続時間に与える影響という形で、性質中心モデルとして抽象化することで、存在や影響という多面的で多義的なものを、整理しやすい1つの側面から捉えることができます。

このタイプの抽象化は、3次元の建物を平面図にすることで理解や記述を容易にすることと似ています。それだけで全ての側面をカバーするものではありませんが、複雑な対象を一つの観点から整理して理解しやすくします。

性質中心のモデルでは、性質的存在が性質的影響を相互に与え合う事で、相互に生成確率や存続時間を変化させる様子を捉えることに適しています。

生成確率が上昇したり存続時間が長くなることで性質的存在の密度が変化し、それが別の性質的存在の生成確率を0から引き上げることで、新しい性質的存在を誕生させます。新しい性質的存在が与える性質的影響は、さらに性質的存在の誕生に寄与することがあります。

このように、性質中心のモデルは、新しい性質的存在と性質的影響が連鎖的に生み出される様子を整理することにも適しており、生物の進化や、生物登場以前の生命の起源における化学進化の一面をモデル化する際に役立つ可能性が高いと考えています。

■性質の種類

性質的存在は、性質的影響の集合体です。性質的影響は、ミクロレベルの環境への作用を利用して周囲の全ての性質的存在に作用するブロードキャスト型の影響、接続を持った性質的存在に作用するユニキャスト型の影響、そして、周囲の性質的存在の持つ性質的影響を組み合わせて、マクロレベルの環境へ作用して別のマクロ的な性質的存在へ影響を及ぼす集合型の影響に分類することができます。

新しい性質の中には、芯としての構造と枠としての構造をもつ性質的存在を作り出すものもあります。芯は周囲に別の性質的存在を所属させることができます。枠は内部に別の性質的存在をカプセル化することができます。

また、新しい性質の中には、性質的存在を移動させるキャリアのような物理的な作用を及ぼすものもあります。

新しい性質は、このように、ブロードキャスト型影響、ユニキャスト型影響、集合型影響、芯の形成、枠の形成、移動キャリアのような種類を持ちます。そして、この新しい性質と従来の性質から、また新しい性質が生まれます。

■枠の中の性質の世界

ある枠の中の環境で、性質的存在は相互に性質的影響を及ぼし合います。それは新しい性質的存在を生み出したり、既存の性質的存在を失わせたりします。

性質的存在の生成確率や生存時間は、環境内の性質的影響の相互作用によって決定します。生成確率が高く生存時間が長い性質的存在は、その数を環境中で増加させます。存在の数が増加すれば、やがて存在を増やすための資源が欠乏することで飽和し、一定の数に落ち着きます。生成確率が低く生存時間が短ければ数が減少し、それにより生成確率や生存時間が改善すれば一定の数に落ち着きますし、改善しなければ消滅します。

こうして、枠の中の環境はやがて一定のバランスを保つ形で、性質的存在の誕生や消滅、数の変動が落ち着くことになります。

そこに密度の揺らぎが生じたり外部からの環境変化により、変動が生じることもあります。それにより新しい性質が生まれる場合もあるでしょう。しかし、揺らぎや外部からの環境変化が周期的であったり単調であれば、その変化は限定的です。

■循環型の性質の世界

より大きな変化を生み出すのは、複数の枠の間で性質的存在が移動する場合です。そして、この移動が枠の間で循環的になっていると、変動が循環します。変動の循環は、変化を重畳させていきます。それが上手く作用すると、その循環に含まれているそれぞれの枠の中の環境は、変化の中で次々に新しい性質的存在を生み出します。

この枠の環境と、その間の循環を生み出すためには、枠の存在と、枠と枠をつなぐ移動経路となる芯やミクロ環境があり、その間を性質的存在を移動させる性質も必要です。

■ミクロ化する循環型の性質の世界

先ほど挙げたように、新しい性質的存在の中には、枠や芯、移動キャリアを形成する作用を持つ物もあります。

これらが登場すると、元の循環構造の内側に、ミクロのレベルの循環構造が生まれます。それにより、枠の数が飛躍的に上昇し、よりコンパクトで短時間の循環が実現します。これは変化の重畳の並列数と速度を桁違いに増加させ、新しい性質的存在の形成を加速させます。

こうして、循環し、新しい枠や芯の構造、移動キャリアが形成されるような性質の世界は、加速度的な発展が可能になります。

■さいごに:生命の起源と人工知能

私は、生命の起源についてシステム工学の観点から個人研究を進めています。

循環型の性質の世界は、生物の登場以前の地球環境が当てはまります。

陸地にある無数の池や湖が天然の枠です。その中に性質的存在であるいくつかの基礎的な化学物質が漂っていたはずです。ここの水の中で、太陽や地熱のエネルギーを受けて、性質的存在である化学物質同士が性質的影響を与え合って、新しい性質的存在である化学物質を形成することがあったでしょう。

地球の昼と夜、季節の周期的な変化や、不規則な天気の変化も、この池の中の環境を変動させ、新しい性質を持つ化学物質を生み出した可能性もあります。

そして、水の循環を天然の移動キャリアとして利用することができました。上流の池から下流の池へ性質的存在である化学物質は移動します。この河川が天然の芯です。そして、海から蒸発する水蒸気による上昇気流に乗って、上空にも移動します。そして、雲に乗って風に流され、雨となって陸上に降る事で、上流の池に移動します。

こうして、性質的存在は、循環構造の中を移動し、変化が重畳していき、次々に新しい性質を持つ新しい化学物質を生み出すことができたはずです。

その中で、繊維状の化学物質が芯として他の化学的物質をつなぎとめたり、脂質の膜が形成されてミクロの枠を生み出したりしたはずです。そして、その芯の上や枠の内外に化学物質を移動させる移動キャリアも登場したと考えられます。

こうして、天然の芯、枠、移動キャリアを利用したマクロな循環構造の中に、化学物質による芯、枠、移動キャリアによるミクロな循環構造が生み出されます。これにより、化学物質という性質的存在の循環構造による変化の重畳は、加速度的に発展できたと考える事が出来るでしょう。

また、この性質的存在の循環構造による新しい性質的存在の発展は、人工知能のニューラルネットワークにも見られます。ニューラルネットワークは河川と同じように芯と枠を持ち、繰り返し学習を行うことで情報を循環させることもできます。

特に大規模言語モデルのようなニューラルネットワークは、単に読み込ませた文章を覚えているだけでなく、自ら新しい文章を生成するという能力を獲得しています。これは、無生物から生物が生まれたように、ある種の自立した生成の性質を発現したシステムとなっています。循環構造を持つ性質的存在のシステムという点で、太古の地球とニューラルネットワークには、こうした類似点が見られるのです。

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