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企業が「生成AIを使わない理由」の考察

自分はどちらかといえばテクノロジー寄りの人間になると思うので、
ニュースツールはテック系のニュースを常に追える状態にしていますが、
生成AIの話題を見なかった日は無いと言って良いと思う昨今です。

それにも関わらず、使用を明言する企業は限定的であり、
孫さんが「日本よ目覚めよ」と呼びかけるくらい、
現実とニュースの温度感には乖離があります。

これはどういうことなのでしょうか?
自分自身、企業勤めをしている人間としての肌感として、
先に結論を書いてみると、その理由はシンプルだと考えています。

得られるメリットが、リスク・コスト感に見合わない

「え? あんなに便利だと騒がれているのに?」
と思われるかもしれませんので、
生成AIのメリットについて、改めて考察していきたいと思います。

ちなみに自分は「旧来のAI」には肯定的ですし、
組織の中では比較的、技術の新陳代謝を促進する方だとは思います。
ここでは、自分が生成AIに対しては懐疑的になる過程でどう感じたのかを、
今後の思考の叩き台として書いていきたいと思っています。


メリットを考えてみる

1・検索よりも簡単に答えが得られる
2・画像や音楽を、専門家抜きで早く安く生成出来る
3・議事録や資料作成が簡単になる
4・経営者は人員を絞って人件費を削減できる
5・あらゆる分野で未来的な解決に繋がるかも?

短期的な企業論理としては、非常に魅力的なメリット群だと思います。
しかし、これらメリットは、本当に企業にとってのメリットになるのでしょうか?
メリットの番号それぞれに対応する問題を、挙げていってみようと思います。

1・検索よりも簡単に答えが得られる

まず、与えられた答えが虚偽である可能性があります。
もっともらしく虚偽の情報を混ぜ込むため、
真偽の確認に結局、検索同等の時間をかける必要があります。

また、時間の問題を別にして精神衛生的な部分も考えると、
文章にしてもコードにしても、
一度自分で考えた内容ならエラーを探す勘所は押さえられますが、
自分で書いていないものから問題部分を探す事のストレスは凄いでしょう。

他人の書いたコードの引き継ぎをしたことがある人や、
他人の書いた文章の校閲をした事がある人は想像しやすいかもしれません。
(勿論ベテランなら参考程度に使いつつ効率化する事が出来ると思うので、
「コードなしでアプリ作れる!」とか考えているレベルの人の問題ですが)

また、社外秘の内容を入力した場合は社外に漏れる可能性があります。
もちろん、入力された情報に揮発性を持たせるなど、
一部のサービスでは対策が始まってはいる事は知ってはいるものの、
そのサービスの安全性も運用が始まったばかりなので、まだ実績はありません。

更新ですら、Windowsのバージョンが上がるたびに、
多くのセキュリティパッチでセキュリティホールを塞ぐ必要があるように、
安定化には多くの検証と時間が必要なものです。
新しくて注目を浴びている技術は、それだけでより多くの危険にさらされます。

新しい技術の初動には付き物なことではありますが、
社会に責任ある企業の態度として、
「新しいものを使いたいから漏洩は仕方ない」では済まされません

企業の視点で考えると「もしも」の時の破壊力が、
普段の利便性という軽度のメリットなど軽く吹き消すリスクを持っている、
ということになるでしょう。
まだ触るべきではない、と考えるのは自然なことだと思えます。

2・画像や音楽を、専門家抜きで早く安く生成出来る

企業の場合、これがどのような場面になるかを想像してみましょう。
キャラクターを描くのが得意な人が背景も簡単に出せるなら、
時間効率は大きく上がるとも考えられるでしょう。

しかし今までは無かったのですから、誰かがそれを担当していたのです。
つまり今まで背景を丁寧に描いてくれていた人は、
企業の場合、隣に座っている人かもしれません。
いつもよくしてくれる、密にやり取りしていた外注先の方々かもしれません。
歴史のある部署ほど、安易に手を出せるものではないでしょう。

また、権利侵害の画像などを生成をする可能性があります。
今までは専門家に依頼して、その目を通していたので、
ディレクションか作業者に真似をする意図が無ければ起こりにくかったことが、
専門家を雇わなくても生成AIは利用できるため、
それと知らずに既存の著作物に非常に類似した出力をする可能性が生まれました。

Adobeやマイクロソフトは訴訟費用を受け持つと宣言しましたが、
訴訟になる時点でイメージの毀損に繋がる事の方が、
企業としては大きな問題です。

また、提供側は商用利用可能なクリーンな生成AIであると謳っていますが、
今回は深く掘りませんが、無許諾に収集された画像の中には、
倫理的に問題のある画像も多数含まれていることが判明しているため、
今後、何かのキッカケで学習リソースが世間に広く認知されることになれば、
その時に、それを利用していたことは、
企業イメージの低下に繋がる恐れもあります。

そもそもソースの問題が認知されなかったとしても、
現実として画像生成はディープフェイクを簡単に作成し、
詐欺や嘘で世の中に、新たな混乱ももたらしている状態です。
その事実に目を瞑って画像生成の旨みだけを先行利用している企業、
ということになると、
新しいものを取り入れる革新的なイメージが付くというよりは、
倫理観がないというイメージの方が大きくなるのは避けられないでしょう。

3・議事録や資料作成が簡単になる

既に仕事用にテンプレートやマクロを用意している身としては、
毎回フォーマットが崩れる方が面倒だと思いますし、
議事録も話しながらメモくらい取れば十分だと感じますが、
もう少し一般的に考えてみると、
エクセルやパワポが今までまともに使えなかった人には、
非常に便利なものであると言えるでしょう。
そういう意味では事務的な内容は、
最もメリットらしいメリットでしょう。

しかし、その結果はどうするのでしょうか?
「生成AIで議事録や資料を一瞬で作りました!仕事早いでしょう!」
と上司に報告するのでしょうか。
生成AIを使えば、その上司でも一瞬で出来たことなのです。
その人のその仕事は、評価されない仕事になってしまっていないでしょうか。

そして、その生成の為には必ずコストが掛かっています。
こういったものの提供は以下のように、
大企業ほど同じことをするのに費用がかかるように設定されるものです。

新たなAdobe契約やクラウド契約が増えたようなもの、
と考えることも出来ますが、
Adobe製品を使う人や、クラウドを利用したシステムが、
そのコストに見合う以上の価値を生み出す事を想像するのは容易です。

しかし議事録や資料作成を楽することにかけたコストでは、
それ以上の価値を生み出すことを想像することは難しくはないでしょうか。

生成AIによって浮いた時間があれば、可能だと考えるかもしれません。
しかしこのコストは、契約が続く限り継続します。
「今より増えたコスト、浮いた時間に見合う成果を出し続ける」という、
プレッシャーに今後はさらされ続けることになります。
楽に、便利になった筈なのに、
いつの間にか無かった頃より、つらくなってしまわないでしょうか。

そしてそのコストとは、海外企業への支払いです。
もし「公的機関の事務が、時短かつ簡単に行えるようになった」場合、
それは国の資金を海外に流すことで実現している、ということになります。

その効率化が人件費削減や人数不足を補う物であった場合、
ただでさえ貿易収支が「デジタル赤字」な状況下にも関わらず、
教育コストを渋るだけのために国内に回る筈だったお金を海外に流している、
ということになってしまわないでしょうか。

これは、コストに見合った効率化と言えるのでしょうか。
その時短によって浮いた時間で、
代わりのどれだけの公共利益に貢献したのか、
国民に報告する必要が生まれる内容なのではないかと思われます。

4・経営者は人員を絞って人件費を削減できる

シンプルに、削減される現場にとっては嬉しい話ではありません。

確かに、人手は最大のコストです。
工数が想定の2倍必要だったからといって単純に人数を急遽増やされても、
現場は困ってしまいます。
新人がベテランと同じ働きが出来るようになるには教育コストが必要だからです。

もし生成AIの補助があれば新人がベテランレベルに働けるようになるだろう、
と考えるなら、教育コスト削減を期待出来るかもしれません。
そして安い新人に働かせて人件費の高い中間管理職は不要とすれば、
企業倫理のない経営者としては理想的なコスパの高い環境が築けるでしょう。

しかし現実としては、生成AIで出来る事は誰でも同じです。
使いこなし度など、誤差に過ぎません。
そもそも誰にでも同じことが出来ることを目標とした技術だと思いますから。
そうなった時に差が出るのは、
+αとして働くのは、長年培われた実務経験の勘どころです。

さて、野球で思い浮かべると分かりやすいですが、
海外は監督などの仕事はマネジメントの専門家が担当するのに対し、
日本ではその道の優秀な人を管理する立場に移行させるのが常態化しています。

その良し悪しは今回置いておいて、それを前提に考えると、
生成AIを皆が使うようになった時に一番得をするのは、実は、
今は管理中心の立場で広い視野を持つようになった元現場で最優秀だった人、
現場叩き上げで中間管理職になった人達、ということになるでしょう。

この人件費の高めな中間管理職をコスト削減の為に切る場合は、
その会社にとって強力なライバル企業が立ち上がる可能性が生まれる、
もしくは吸収したライバル企業の強化に繋がると考えられます。

では中間管理職を切らないようにして生成AIを使用する場合は、
中間管理職の人自身が出来てしまう範囲が広がるため、
それに比例して市場も都合良く拡大でもしてくれない限りは、
新人の雇用が絞られていくことに繋がりかねないでしょう。

むしろ生成AIの役割は基本的にコスト削減なので、
導入が進む程に人件費の削減が進むとするならば、
あらゆる市場が縮小していく事の方が現実的に思えます。

もし新しい雇用がどんどん減っていってしまうならば、
理想を高く持つ学生はベンチャーを立ち上げるしかなくなるかもしれません。
勿論、覚悟を持って事業を立ち上げて競争しながら戦っているベンチャー企業は、
素晴らしい事ですし自分も応援しています。
しかしそれが社会の必然になっていってしまうのは、大きな問題があるでしょう。
多くの若者に社会人一歩目から、
大きなリスクを背負わせる社会が到来しかねません。

生成AIの利便性に驚き、喜んでいる若い方もいるとは思います。
それによって、経験の差が埋められるツールと考えているかもしれません。
しかし、企業に本当に普及していった場合は逆の結果となる可能性があり、
今より更に若者を苦しめる社会が形成されてしまうリスクも考えられる、
ということは懸念を抱いておくべきでしょう。

5・あらゆる分野で未来的な解決に繋がるかも?

ここがメインで、他はその前提にするのつもりで書き始めましたが、
この内容はこれまで書いた内容より長くなる予定なのと、
ここまでで既に長いため、以下に別でまとめました。

今回挙げたのはあくまで、
生成AIのメリットと思われることは本当にメリットなのか、
という視点から考えたので純粋なデメリットは挙げていませんが、
それでもこれだけの、
社会的な責任を意識する企業には手を出せない理由があると感じます。

もちろん短期的に見たら、
上手く使えば大きな利益に繋がる可能性もありますが、
長期的な成長を視野に入れている企業にとっては、
迂闊には手を出せないようなリスクが多く内包されていることが現実です。

ということで今回の結論としては最初書いた通り、
得られるメリットが、リスク・コスト感に見合わない
ということが、現時点で利用しない企業が多い理由だと考えています。

丁度、このnoteを投稿した日と同じ日に、
同様の内容を書かれている記事が出てきたので、
こちらも貼っておきます。

もし今まで問題部分を知らなかった、という方で、
生成AIにはどのような問題やリスクがあるのか、
ザックリで良いから知りたくなったという方は、
以下のテレ東BIZの動画などは6月のもので少しもう情報が古いものの、
短く、分かりやすくまとまっていますので、一度ご覧いただければと思います。

もしここまでお読み頂いた方がいましたら、
長文なのに興味を持って頂き、ありがとうございました。

どのように生成AIの問題と向き合っていくべきなのかを、
極力多角的に考察して推敲してみていきたいと思っていますので、
よろしくお願いいたします。

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