見出し画像

【連載小説】ライトブルー・バード<3>sideサトシ

    ↓前回までのお話です。

   自分は女子にめちゃくちゃモテていますが、それに対して何か?

   井原サトシがこんなことを口にすれば「自慢すんなよ」とブーイングを受けてしまいそうだが、それは<客観的事実>なのだから謙遜してもしょうがないだろ!と思っている。  
  むしろモテているクセに「いやぁ、自分は全然モテませんよ」って言っているヤツの方がどうかしてるんじゃね?とも…。

   一応断っておくが、彼は調子に乗ってはいないし浮かれてもいない。そして嬉しくもなんともない。

     (あー、面倒くせぇ)

   ただ…それだけだった。

  「終わったぁ!…井原くん、お疲れ様」

   サトシは今泉マナカと共に放課後の教室に残り、クラス委員の仕事をしていた。

「おう、おつかれー」

   アンケートの集計を終えた2人はプリントをまとめ、持ち物を片付け始める。

「職員室には俺が行くわ。今泉はバイトだろ?」

「いいよ、今日は私が行く。井原くんだって部活あるじゃん」

   マナカはサトシにとって数少ない『面倒くさくない女子』の1人だ。誰に対しても態度が変わらず、自分の意見をしっかり言うところに一目置いている。

    女子たちの態度が他の男子とは何か違う…とサトシが気がついたのは小学4年の終わり頃…。その中にはサトシの前に出ると声が1オクターブ以上高くなる子もいた。

    まあ、最初は悪い気はしなかったけれど。

『あの時』までは…。

 (うわぁ、嫌なこと思い出しちまった)

「井原くん、どうしたの?眉間にシワよせて…」

「えっ? …あ、何でもない。じゃあ、悪いけどコレ、今泉に頼むわ」

「オッケー」

   マナカにプリントの束を渡し、リュックを背負う。そして頭の中を部活モードに切り替えようとしたサトシだったが、マナカが何気なく発した言葉によって動きがフリーズしてしまった。

  「あ、そうだ。井原くんって星名リュウヘイくんと同じ中学校なんだってね。彼、うちの店でバイト始めたんだよ」

「…………はっ?」

   リュウヘイのことが頭をよぎった直後に、まさかマナカの口からヤツの名前が出るとは…。

 (何?  このワケのわからないシンクロ!?)

   再び眉間にシワを寄せるサトシ。目を丸くするマナカに「何でもないから」とごまかしたものの、その笑顔はかすかにひきつっていた。

     5年前の2月…

  小学6年生のサトシはチョコレートが詰まった手提げ袋を片手に、足取り軽く下校していた。

    (俺って凄いな。こんなにチョコレートもらっちゃって…)

   残念ながら本当に好きな子からは何も貰えなかったが、「それはそれこれはこれ」と割り切り、何度も手元の手提げ袋の中身を目で確認するサトシ。

  そんな時にリュウヘイの後ろ姿が目に入った。

「おーい! リュウヘイ一緒に帰ろうぜ」

   仲良く並んで歩いていた2人…。そして例の手提げ袋が目に入ったリュウヘイは驚きの声を上げる。

「えっ?これ全部女子から!? 」

「へへへ…そうだよ」

  サトシは満足そうに人差し指で鼻をこする。実はリュウヘイに目に入るような位置に持ち変えていたのだが…。

「すげぇなサトシ‼️   俺なんかカエデからケーキもらっただけだぞ。」

 (…えっ?)

  自分はカエデからチロルチョコ1つもらっていないのに…。

「どんなケーキ?」

「…えっ?」

「だからっ! どんなケーキかって聞いてンの!!」

「チョコレートケーキだけど?」

「違う! 手作りか手作りじゃないか! どっち!?」

   想定外の反応と勢いに押されながら「た、多分、手作り…だと思う」と答えたリュウヘイ…。

「………」

「…サトシ?」

   沈黙に耐えきれなくなったリュウヘイが横を見ると…、

  サトシは…目に涙を溜めていた。

「おい、どうしたんだよサトシ?」

「うるさいっ!!!」

「……えっ?」

「自慢しやがって!  お前なんかもう知るかっ!!」

   そう言い放つと、呆然としているリュウヘイを残して、サトシはそのまま走り去って行った。

   (…何やってんだよ俺は)

   マナカと別れ、体育館に向かいながらサトシは大きなため息をついた。

   当時のことを思い出す度に穴を掘って埋まりたくなる。そして過去に戻れるならば、走り去る小6の自分の後頭部に向かって思い切りバスケットボールをぶつけてやりたい…。


  そんなサトシはあの日を境に価値観を変えた。

   『好きでもない女子からのアプローチなんかいらねぇ』…と。

   中学に入り、他学年の女子たちからも騒がれるようになったが徹底的にスルー。バレンタインのチョコレートはもちろん、手紙すら<受け取り拒否>を貫いた。

  自分なんかヒンシュクをかえばいい…

   不思議なもので、そんなサトシの態度は『クールでカッコいい』と意外な評価を受けてしまい、不本意にも自分の<商品価値>を上げる結果になってしまった。

  (意味わかんねぇ…バカかよ)

 サトシは心の中で舌打ちをする。

   バカと言えばリュウヘイ。アイツは本当にバカだ。

    カエデから毎年バレンタインでもらっているチョコレートを『義理』だと思い込んでいるのだから。

    手作りだぞ! 手・作・り!!!  そうでなくても普段の態度から察しろよ!!

   サトシがリュウヘイに対して異常な塩対応なのはこれらが原因だが、我ながら幼稚だと思っている。

  そして…

  一番のバカは自分自身だということも…。

   5年前のあの時、リュウヘイはみんなに言いふらしてサトシを笑い者にすることだって出来たはず…。でも彼はそうしなかったばかりか、次の日も自分に普通に接してくれた。 (それはそれで「余裕かましやがって」とイライラしたのだが)

   何故カエデがリュウヘイに惚れているかが分かる気がする…。

  (それに比べて俺は、男子高校生の着ぐるみをまとった小学生のクソガキ。そして小3から好きだったオンナに未だ告白できないヘタレ…)

体育館にバスケットボール

  体育館に着いた。

  サトシは自分の両頬を手のひらでバチンっとひっぱたき、気合いを入れ直す。

  (リュウヘイは今頃バイトかな?)

   今度、マナカに店の場所を聞いてみよう。バイト中のリュウヘイが自分のことを見つけたら、きっと人懐っこい笑顔で手を振るに違いない。そう、アイツはバカだから…。

    そん時は、俺も手を振り返してやってもいいと思うけど、それ対して何か?

   サトシは苦笑いしながら体育館の扉を思い切り開き、練習中の掛け声の響く館内に颯爽と消えて行った。

<4>↓に続きます。


この記事が参加している募集

私の作品紹介