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【子育て難しいんじゃ】私の歯はシンゴジラ。子供の歯はラッタ。



でかぞうの様子がおかしい。



否、娘自体の様子はおかしくない。問題はその歯の著しい成長速度だ。


タケノコもビックリのスピードで生え変わっている。彼女にカメラが回れば画面右下に「WR」つまり、ワールドレコードが出た!と表現されているに違いない。世界水泳。ウルトラソウルが脳内で再生される。



そんな口内オリンピックでメダルを10連覇の彼女であるが、親は心配なのである。


生きていればそれだけでハッピーなこの世の中であるものの私は歯並びについてちょっと思う所がある。歯並びって言うか。歯ね。


幼い時から、親に「歯を大切にしろ」と口酸っぱく言われていた。オカンは歯が弱かった。子供を産んでカルシウムが全部持っていかれたのか、歯磨きが下手糞だったのか分からないが、よく歯医者に通っていた印象がある。食べ物をちゃんと食べるには自分の歯じゃないと大変なんだよ。そうよく言っていた。はっきり覚えている。そしてオトンは自転車で転んで歯をブチ折った。これに関しては歯を大事にしろとかそういう話じゃなく、単純に事故に気を付けようねという話なので割愛する。




子供の歯並びというものがとても心配なのだ。




私自身、歯並びがいい方ではない。下の歯はガチャガチャしていて、ガッズィーラ(石原さとみ曰く)みたいになっている。「どうやって、栄養をとっているんだ」と職場で噂されているような気がする。決して私は核エネルギーをどうにかして動いている新生命体なわけではない。口から液体窒素をぶち込まれ、「せーんぱい!ヤシマ作戦!」とドッキリパネルを掲げられるのはそう遠くない未来かもしれない。ガッズィーラが分からない人は今すぐシンゴジラを見て欲しい。ガッズィーラって言ってるから。ホントだから。




そのガッズィーラみたいな歯並びのせいで食べ物が良く詰まるというか、歯石が良く溜まる。歯を磨いていても自分でも分かる。老化のせいで歯肉が海抜マイナス10メートルぐらい下がっているのも相まってまぁ食べかすが良く溜まるんだ。いっつも歯医者に行くたびにそこの溝をめっちゃ大変そうに掃除される。情けなくて穴があったら埋めて欲しい。



今でこそ、医学は飛躍的に進歩しているのだろうが、歯並びを直すためにはあの銀色の矯正器具をつけなければいけないらしい。まぁ強力にずれてしまった場合は、らしいが。私はあの矯正器具にあんまりいいイメージがない。



妻はそれを経験したことがあるらしいのだが、痛いし、集中出来ないし、笑顔を見せるのが嫌になるそうだ。子供の歯は保ちたいが、そういう子供時代を過ごしてほしいとは思えない。難しい。




生まれたそのままで生きてもらう、それも選択肢の一つ。



そして歯並びに関しては子供に何かお願いをされているわけでもない。これは親のエゴである。私個人としてはそう思っている。



だからなるべく矯正はしたくない。でも矯正しないとどうにもならない。そんな状況なのだ。



前述の通り、でかぞうの歯の成長は立派なもんだが、それに伴った顎のサイズが明らかに小さい。立派な歯であるのはうれしいのだが、ラッタとかコラッタみてえなでっけえ前歯が鎮座している。必殺前歯。童貞を殺す前歯みたいな立派なのがいるんだもん。横にスペースは全く見えない。どういう思考で大家はこの部屋のレイアウトを考えたんだって言われそうな間取り。この中で誰か死んだりしているのか?って思うぐらい不自然な間取り。我が子の口の中をそういう風に見るのは良くないのかもしれないがダイニングテーブル置いたら椅子が置けないみたいな状況なんだからそうも言ってられん。



でも歯は自然に生えてきてんだから、こればっかりはどうしようもない。



歯は大切だ。私は子供にいろんなものを食べて欲しいと思っている。そしてここぞという所で踏ん張れる立派な奥歯も欲しい。ニコッと笑った自分の笑顔が好きだという子供になって欲しい。


でも気に入らない所もあってもそれが自分であるという事も教えてあげたい。私ガッズィーラだけど。

あるがままを受け止めるという事も正しいとは思う。それを受け止めてこその親という話か。自分の子供がどうなるであれ、「それら」を肯定してあげる気持ちは大切なんだ。それは分かるんだ。



しかし、歯は。歯はなぁ。



という事を子供が2歳くらいから歯医者を転々とし相談してきた。



「そのままでいい」
「どうとでもなる」
「もう矯正を始めてしまった方がいい」
「抜いても変わらん」



一つ扉を開ければ違う答えが返ってくる。彼らに他意はない。それだけいろんな考え方があり、どれも正解と言えるのだろう。



私としては、ある程度の所は歯を抜いてしまいたい。スペースを作るのだ。そこでどうなるかの様子を見ていきたい。前の歯だけで良いから、それでどうにかしたい。もっと口を大きく開いて食べるように教えておくべきだったか?でも食べ物が大きい事は誤嚥につながりかねない。難しい。


反転、矯正器具をつけてしまう事の辛さは何となく想像ができる。それでもし子供がいじめられてしまったら?世の中の狭さは自分が小さかった時に強く体験している。彼らにとっていじめる理由は何でもいいんだろう。少しでもずれている所があれば、それを容赦なくつまみ上げる。もう子供全員あの器具付けてくれ。頼む。統一してくれ。


と、思考が逃避するくらい悩んでいる。




キレイな歯並びの大人になって欲しいという自分のエゴを押し付けてそこに暗い影を落としてしまうのは正しいのだろうか。正しくないのだろうか。



自分は歯並びで後悔をしたことがない。
妻は歯並びで後悔したことが山ほど在る。


どれも正しい。


その中でどれを選択するか。




歯を抜くという行為は痛みを伴う。痛みはゼロじゃない。
それで子供が歯医者を嫌いになったら。そんな不安も背後からにじり寄ってくる。




私は子供をかわいいと思っている。他の人から見たら。そんなものは知らん。
美容整形。それはやりたい人がやりたいように選択すればいい。細すぎるスタイルを崇める事が間違っているとか、もうそんなことはどうでも良いのだ。優か劣かそんな基準はあるようで実のところはない。大局に流されるだけの不定形だ。そこにあるのは何処までも果てしなく広がる、好きか嫌いか。ただそれだけなのだ。






子供の幸せを望まぬ親はいない。





というわけで私がこの世で一番信頼している歯医者に連れて行った。自分が足を運ぶたびに子供の歯の相談をし、多分私と妻の次ぐらいに先生は娘の口の中の状況に詳しくなっている。もはや、親族と言ってもいいレベルだ。





先生は首をひねる。「健康な歯を抜くことには否定的な人もいる」百万回程聞かされていた意見だ。分かる。それも分かる。




私が親となり、子供に何か残せるだろうか。
沢山の思い出や、糞みたいなムーブで笑わせる事、また遺伝で言う所の顔や肉体。彼女たちの体がどうなるのかはよくわからんし、いつの日か「狸みてぇなボディはおめえの遺伝だろうがこのぽんぽこ野郎!」って反抗期とかに言われるのかもしれない。



立派な歯を口にどうにか収めるという事。それをどうとらえるべきだろうか。
ごめんよ、娘。父ちゃんは恨まれるだろうけど、長いような短い人生で、君たちが少しでもいい方向に行けるように頭をひねる事が多いのだ。習い事もしかり、勉強もしかり、運動もね。

このお父さんの選択が君たちに多少なりとも苦痛を与えてしまう事を申し訳なく思う。





「先生、抜いてください」



先生はこくりと頷く。歯並びという観点で言えば、先生は抜歯に肯定的だった。「これだと後ろから生えてきちゃうね」現実は残酷だった。「でも最終的には親御さんが決めるんだよ」私は先生の腕が分かっている。お口の健康をどうやって保つかをいつも話してくれた。子供にも分かりやすく説明してくれた。






「でかぞう。何が欲しい」




子供をモノで釣るのは妻には反対されている。でも歯は私のエゴだ。私はそう思っている。せめてこの子が今この場で頑張らされている事の謝罪として私は何でも好きなものを一つだけかなえるシェンロンとなった。







「・・・ピクミン買ってくれ」





・・・



狙いすましてたのかと思うくらいタイムリーな要望が飛んできて私は目が真球になる。ビルス様に質問されるシェンロンみたいな反応しちゃったよ。目の前に破壊神が居るのかと思った。確かにピクミン体験版ではもうやれることはやりつくした。セーブデータも3つあったところを何度も何度も消してやりすぎて、終わらない夏休みみたいな状況になっていた。遭難者を助けたいのに6日目が来ない。その状況を歯がゆく本気で思っていたが娘だった。どうにかこうにかピクミンがやりたいが故に目を光らせていたようだ。策士。我が子ながら見事な采配だ。







「いいよ。ピクミン4でも5でもX-2(テンツー)でも買ってやる。ごめんな」





ピクミンの永久権を手に入れた娘は、「バッチこいや!!!」と言わんばかりに口を開き、鬼の形相で施術を受け入れる。手塚ゾーン宜しく、器具がターゲットの歯に吸い込まれていく。私はそれを娘の頭を撫でながら見ていた。




歯を抜いたからと言って、娘の歯がキレイに並ぶことが確定したわけではない。
娘が自ら選択肢を得るまで待つという方法もあっただろう。



どうすればいいんだろうな。まだ私の心は葛藤の最中だ。


歯は拍子抜けするぐらいにするっと抜けた。しかし、彼女の歯はまだまだどんどん生えてくる。それが分かっているからこそ、気が重い。


別に二重でも、綺麗な髪の毛でも、すらっとしたスタイルでもその辺りはもうよくわからない。いや私はぶっちゃけどうでもいい。でも、なんで歯はこんなに悩むのか、不思議だ。他はどうでも良いと楽に考えられているのに、歯だけはどうにもならぬ。



歯を抜いた娘はケロッとしていた。途中麻酔の薬品が苦すぎて絶叫を上げていた。そこじゃねえんだけど彼女的にはそこが一番アウトだったらしい。



「歯を抜くのは構わないが、あの苦いのだけは勘弁願いたい」



不思議なところに耐性を持ってるなと感心する。
やっぱり子育て難しい。

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