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”現代アートのエッセンス”「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」展を見て

 先日、六本木ヒルズの森美術館で開催されている「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」という展覧会を見に行ってきました。
 タイトルの通り、”地球とそこに生きる人間の関係性”について表現された現代アートの展覧会となっていると感じました。
 展覧会は以下の4章構成となっていましたので、各章ごとに印象に残った作品と感想を書きたいと思います。
  第1章 全ては繋がっている
  第2章 土に還る
  第3章 大いなる加速
  第4章 未来は私たちの中にある


第1章 全ては繋がっている

 第1章では地球に存在する物や生物そのものにフォーカスした作品が多く並んでいました。
 印象的な作品として、セメントの元となっている貝殻を扱った、ニナ・カネルさんの≪マッスル・メモリー(5トン)≫がありました。
 会場の床にホタテの貝殻が敷き詰められ、その上を鑑賞者が歩くというものです。堆積した貝殻や海洋生物の骨などが石灰石となって、それがセメントの原料となっています。現代の都市を構成する重要な要素であるセメントの”原初の部分を鑑賞者に感じてもらう”コンセプトなのだろうと感じました。敷き詰められた貝殻は床に貼り付けられているわけでもなかったので、その上を歩くことで貝殻どうしの擦れる音が響き、視覚や触覚だけでなく聴覚にも訴えかけてくるようでした。
 私にとっては”そこにあるものを見て、背景にある「世界」を感じる”という体験でした。

ニナ・カネル≪マッスル・メモリー(5トン)≫

第2章 土に還る 1950年代から1980年代の日本におけるアートとエコロジー

 第2章では、戦後日本の高度経済成長の中で顕れてきた社会問題、環境問題にフォーカスした1950年代~1980年代当時の作品が並んでいました。
 殿敷侃さんの≪山口ー日本海ー二位ノ浜 お好み焼き≫が印象的でした。
 この作品は、山口県の二位ノ浜海岸で集めたごみをまとめて燃やしたものということで、いろいろなものが溶けてごちゃまぜにくっついて、一つの塊になっていました。これだけを見てもただの溶け合わさったものにしか思えませんでした。しかし、これを作った殿敷さん(1942年生)は、幼い頃に父親を原爆で亡くし、母親も原爆症で幼い頃に亡くし、ご本人も原爆症に悩まされ亡くなった(1992年没)とのことでした。このことを知ると、途端に”お好み焼き”という作品が物々しく見え、原爆を投影したものだと理解できました。
 背景や文脈を知ることで作品の見え方がガラリと変わるという、この感覚は、現代アートの醍醐味だなと思いました。あるスイッチを押されることで価値観が変わる衝撃が印象に残っています。

殿敷侃≪山口ー日本海ー二位ノ浜 お好み焼き≫

第3章 大いなる加速

 第3章では、加速度的に進んでいく産業や技術というものをテーマとした作品が並んでいました。
 ここで印象的だったのは、ジュリアン・シャリエールさんの≪制御された炎≫でした。
 鉱山などで打ち上げた花火を撮影し、その逆再生をスローで映すという作品です。暗い展示空間の中で壁面に大きく映し出されており、まさに没入型という感覚になりました。花火の逆再生は純粋に映像として美しく、その光に照らされる鉱山や巨大な工場のようなもの(掘削機械?冷却塔?)も魅力的に感じました。
 炎を制御した象徴としての花火、加速していく産業を象徴するものとしての鉱山・機械、果たしていずれも人間の制御できる範囲にあるのか。そういったことを美しい映像を見ながらも、その背景に感じられました。
 これもまた、第2章の”お好み焼き”とは違ったアートの味わいだと思いました。

第4章 未来は私たちの中にある

 第4章では、現在の課題や違和感に対するアートの挑戦を感じるような作品が並んでいました。
 アグネス・デネスさんの≪小麦畑ー対決:バッテリー・パーク埋立地、ダウンタウン・マンハッタン≫≪生きているピラミッド≫は、都市や建造物への対抗として考える”植物のありよう”を探っているようでした。
 他にも、ジェフ・ゲイスさんの≪薬草のグリッド六本木≫では、六本木周辺に生えている植物(ねこじゃらしなどの雑草)が、実は薬草としての効果を持っているという”新たな発見・視点”を与えられました。
 最後の展示室にあるアサド・ラザさんの≪木漏れ日≫では、故障して機能しなくなった森美術館の天窓を修理する行為と、その修理に使った足場を見せることによって、”イメージしにくい建物の治療・生き返りという行為を視認できる形”で表現されていました。
 第4章ではサイトスペシフィックな要素を持つ作品が多かったように感じました。そして、アートが現代の違和感に挑戦していく姿勢を感じることができ、それとともにどこか未来への希望も掴もうとしているような感覚を覚えました。

最後に ~展覧会を通して~

 この展覧会は、第1章で思考の入口とも言える物質そのものにフォーカスし、その背景に見えてくるものをぼんやりと感じさせ、第2章・第3章で時代ごとの問題・課題に対するアート表現を提示し、第4章で現代から未来を見据えたアート表現を提示していたと思いました。
 展覧会を通して、アートとエコロジー(人間の生きるこの世界)の関係性やアートの表現方法を改めて考えるきっかけになりました。
 ここでは紹介できなかった作品もたくさん展示されています。2024年3月31日(日)まで開催しているので、興味のある方はぜひ体感しに行ってみてください。

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