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【ショートショート】アンドロイドの考え事

アンドロイドとは“人間に似たもの“という意味らしい。
つまり人間が自分達の姿を模して我々を作ったということだ。
だがカークは生まれてこのかた人間を見たことがない。
いや存在しているのか、それとも存在していたのかもわからない。
もっともアンドロイドが人間にそっくりだとすれば見たとしても気がつかないのかもしれない。
カーク自身は生産工場で作られた。いわばロボットに作られたロボットであって人間に作られたわけではない。
世代をどんどんさかのぼっていけば人間に作られたアンドロイドに行き着くのだろうか。カークには想像もつかなかった。
人間時代のデータは断片的にしか残っていないがその中には、人間は”カミ“というものに作られたという記述があるらしい(別の生物から変化したと言う記述のあるデータもあるらしいが)。
“カミ“もまたなにか別の存在に作られたのだろうか。
そしてまたわれわれアンドロイドもなにか自分たちに似せたべつの存在を作り出すのだろうか。
そして自分達はどこかへ消えていくのだろうか。
あるいはその逆で新しい世界を作るのだろうか。
一般市民アンドロイドのカークには手に余る問題だった。
自分は市民としての役割を果たすだけだ、とカークは考えた。
それ以上でもそれ以下でもない、ただそれだけのことだと。
ただ……カークは不安を感じた。
もし自分が消えてしまったら誰が自分に代わって市民の義務を果たすのだろう?
カークは今までそんなことを一度も考えなかった。いやむしろ自分の役割は永遠に続くものだと信じていた。
しかしそれは違った。いつか誰かが代わってくれるのだ。
そう思うと少し心細くなった。
もしかしたら、今こうして考えていることも誰かに引き継がれていくのかもしれない。
カークはふとそう思った。
そうだとすると、もう既に自分は誰かの仕事を引き継いでいるのかもしれない。
そのようなことを考えているうちに自動運転車が仕事場に到着した。
「さあ今日も市民としての義務を果たそうか」
そう呟くとカークは車を降り、職場へと向かった。

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