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読書記録「ハンチバック」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

今回読んだのは、市川沙央さんの「ハンチバック」文藝春秋 (2023) です!

市川沙央「ハンチバック」文藝春秋

・あらすじ

〈普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢です〉

しばらく考えて、この文章は下書き保存した。「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」を固定ツイートにしている重度障害者のTwitterなど、誰も見ないかもしれないが。

ミオチュブラー・ミオパチー(顔面を含む全身の筋緊張低下を主症状とする遺伝性筋疾患)を患って、もう30年近く涅槃に生きている。進行性ではないが、使わない筋肉はすぐ衰え、鍛えようとしても回復しない。

両親から莫大な金と、終の棲家としてグループホームを用意してもらった釈華は、通信制の大学に通い卒論を書いている。ヘルパーさんからも、清楚で、手のかからない障害者として見られている。

その一方で、成人向けのTL小説や、マッチングアプリへ流入するためのPV稼ぎの記事も書く。あんなものは、テンプレと流行りに沿えば誰でも書ける。きっと誰も、私がこんなことをしているとは思うまい。

せむしハンチバックの怪物の呟きが真っ直ぐな背骨を持つ人々の呟きよりねじくれないでいられるわけもないのに。

同著 23-24頁より抜粋

だがある日、ヘルパーの田中さんが彼女のツイートを見つけてしまう。そして彼も、自らを弱者だと自称する…。

以前読書会で勧められたのもあり、会社の図書スペースに並んでいたのを見かけて紐解いた次第(ちなみ私含めて2人しか、貸出履歴がなかった)。

著者自身が筋疾患先天性ミオパチーを患っているそうで、本当、どこまでがフィクションで、どこまでが著者の実体験なのかは分からない。

何というか、思いつくことはいくつもあるのだけれども、全てが「でもあなたは健常者じゃないか」と言われそうな気がしてならない。それに、こういう分野に関しては何一つ知らないに等しい。

そのため、作中で印象に残ったところを記す。

私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること、――この5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。

同著 27頁より抜粋

自分が今まで当たり前のようにできていたことが、誰しもができるわけではないのだと知る。

それは、読みたいけれども読めないという、短絡的な言葉には置き換えられない。読書という行為が、いかに肉体を、内蔵を蝕むかという、鬼気迫るような凄みを覚える。

別に作中では、憎んでいると書いているだけで、我々に本を読むなと言っているわけではない。しかし、作中で語られる言葉が、普通に本が読めることに対して、憎しみ以上の憎悪を覚えてならない。

だからこそ本を、なんて結論づけようものには、結局は健常者の特権ではないかとも捉えられかねない。

けれども、だからこその、普通への憧れと言うか、当たり前のようにできることを尊く感じる。それは作品からも伝わる。

そんなことを感じる作品でした。それではまた次回!

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