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読書記録「ミ・ト・ン」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

今回読んだのは、小川糸さん 平澤まりこさん 画の「ミ・ト・ン」幻冬舎 (2019) です!

小川糸「ミ・ト・ン」幻冬舎

・あらすじ
ルップマイゼ共和国が誕生した年、マリカはこの世に生を受けた。お兄さんが3人もいるこの家にとって、待望の女の子でした。

家族の愛情をたっぷりと受けたマリカは、すくすくと育ちました。そんなマリカに、おばあちゃんは毎日にように「ミトン」を編んであげました。

ルップマイゼ共和国は、自然や森といったあらゆるところに精霊や神様が宿るなど、様々な文化や信仰があります。なかでも「ミトン」という美しい手袋を織ることが、先祖代々受け継がれてきました。

ルップマイゼ共和国では、12歳になればミトンを編んだり、糸を紡いだりするのも一人前になっていなければなりません。

でもマリカは、ミトンを編むよりも外で遊ぶ方が好きでした。歌を歌ったり、ダンスを踊ったりするほうが楽しいお年頃でした。

そんなマリカがミトンを編むようになったのは、ヤーニスという男の子に恋をしたときでした。思いを伝えるために、ミトンを編まねばなりません。そしてなんとか完成したミトンは……。

心温まる作品として、読書会で紹介されたのをきっかけに紐解いた次第(最近は読書会で勧められた本ばかり読んでいるなぁ)。

解説によるとルップマイゼ共和国は、ラトビアをモデルにしているらしい。バルト海に面したこの国は第二次世界大戦後、"氷の帝国"ことソ連の支配下に置かれた過去がある。

実際に、支配を受けていた頃は自分たちの歌を歌うことも、民族衣装を着ることも許されていなかったそうだ。人が殺されたり、みなし子になった子どもたちもいたらしい。春夏秋冬は巡っても、冷たい時代であったと。

それでも、マリカはいつも笑顔を絶やさなかった。いや、ルップマイゼ共和国の人たちは、どんなときでも笑顔でいた。

だって、泣いても何も生まれないじゃないですか。けれど、笑っていれば、自分よりもっとつらい思いをした人たちを、勇気づけることができます。悲しんでいたって、何もいいことなどありません。

同著 199-200頁より抜粋

つらい時ほど笑う。なかなかできることではないが、――それこそ、こんなひどい状況に直面した時はなお難しいかもしれないが、笑顔は自分だけでなく、周りの人にも伝播する。

自分より悲しんでいる人を励ますために、そして自分の心を癒やすために。

半世紀以上も支配を受けたルップマイゼ共和国(ラトビア)の人たちが、辛い時代を乗り越えられたのも、きっとそんな文化を受け継いできたからだろう。

また氷の帝国に支配されていたときも、ミトンを編むことだけは禁止されなかったらしい。寒い冬を越すための必需品でもあったミトンは、つらい時代をともに生きたラトビアの象徴とも言える。

また、ミトンは自分が使うだけでなく、周りの人達にプレゼントするものでもある。

祖母から母へ、母から娘へ。脈々と受け継がれるのはミトンの織り方だけでなく、愛情のこもった糸である。

だれかにミトンをあんであげるということは、その人にあたたかさをプレゼントすることでもあるということ。

同著 150頁より抜粋

ご紹介の通り、心あたたまる言葉や文章あふれる作品でした。それではまた次回!

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