見出し画像

rustとpatina

 cor10(日本ではコールテン。懐かしい生地みたいですね)という鋼が好きです。cor10は半年から数年もの間、風雨に晒されてできる錆で作る建材です。錆から出るざらざらとした質感と赤茶色が魅力のcor10を知ったのはサンフランシスコのGAPの本社にあるRichard Serraというアメリカ人のアーティストが作った巨大な彫刻作品を見たからでした。高さは18.2メートル、1階から5階までの吹き抜けに鎮座していて、数枚のパネルが重なり合うような作りになっており、中に入って声を出すとぼわわ〜っとこだまします。そびえる大きさのこの作品はビルを建てる前に搬入され、その後外壁などが建てられたそうです。このアーティストの作品はサンフランシスコのSFMOMA(リンクでインストールの様子が見られます。ここでもビルを建てる前に搬入されてます。)でも展示されており、こっちはぐるぐるとカタツムリのように渦巻くcor10で作られたさらに巨大なアートで、人が中に入って迷路を歩きながら楽めるような作りになっています。        

 いずれの作品も構造的にはミニマルでcor10の錆(rust)に覆われた質感、大きさからくるスケール感がすごく、経年変化(patina)そのものを味方にしたような作品です。経年変化は時間とともに色褪せたり摩耗したりすることによって変化することを指しますが、私がいつも触れている革という材料の持ち味でもあります。元々革は動物の肌だったので、革になった後も人肌のように日焼けをしたり傷ついたりします。私が天然の革に魅了されるのはこの現象があるからで、使えば使うほど柔らかくなって手に馴染んでいき、色が変化し味が出てくる。プラスチックで作ったビーガンレザーには出せない風合いです。そして自然の素材ですからいつか土に還り、環境を汚染することはありません。

***

Sex and the cityの続編のAnd Just Like Thatというドラマを最近楽しく見ています。実は私オリジナルのSex and the cityを見ておらず、トリビア的なことは全く知らないのです。たまたまHBOのストリーミングにあるこちらを見始めたらこれが面白い面白い。18年ぶりにSara Jessica Parkerが演じるCarrie Bradshawが咲き切った花のような中年の主人公を演じていて、心に沁みる味わいがあります。ドラマの設定もアメリカの今を反映するような内容になっていて、人種、ジェンダー、エイジング、社会通念のアップデートが見られ、あらゆる人種が行き交う本当のNYが見られます。CarrieはそんなNYの今を生きる50代の女性。素敵なキャリア、美しい服を着こなす抜群のスタイル、素晴らしい友人に囲まれているなど、誰がどう見てもそれなりに自己を確立してしたように見える女性ですが、今作ではかつてはいわゆるイケイケ(時代!)だったはずの主人公やその友人たちがどんどん変わっていく今の社会にぎこちなく、時にイタく対応していく様子が描かれるところがコミカルでとても共感できます。数エピソードを見ていて気づいたことはCarrieを演じるSara Jessica Parkerがほぼ整形をしてないのではないかという点でした。普通にメイクはしているけど年齢以上に若作り、若見えすることをしているように見えません。あるエピソードで、友人のゲイの男性、Anthonyに連れられて美容整形クリニックに行くのですが、整形医にあなたはフェイスリフトが必要だね、やったらこうなるよとシュミレーションで施術後の顔を見せるというシーンがあり、もうそれが驚くような若さなんですが、Carrieは全く意に介せず、というそぶりをして去っていくのです。視聴者はどうしても主人公とSara Jessica Parkerをオーバーラップさせて見てしまう。そういう部分もこのドラマの魅力なのかもしれません。実際彼女自身ハリウッドセレブですし本当のことは分かりません。ただ、この天日に晒されたような顔(すみません!)にはあたかも嵐が過ぎ去った後に一人すっくと立っているような美しい風情があるんです。自分の歴史をちゃんと自分自身で引き受けているかのような潔さ。

うむむ、・・・かっこいい。

 今まで彼女に興味がなく、何も知らなかったので軽くサーチしたところ、去年同年代の男性とランチをしていたところをパパラッチされ、SNS上で老化を揶揄されたらしいのですが、それに対して「同じようにグレーヘアなのに男性だと魅力的だといわれる。なぜ彼だけオッケーで私はダメなの?」って文句を言ったそうです。19年にはElle マガジンで美容整形によるアンチエイジングはしないと告白しているそうで、私の中でどんどん想像通りのサラジェシカが出来上がっていきます。

***

 そういえば以前化粧品のCMで「さびないひと」、っていうのありましたね。前述のcor10の錆や革の経年変化を素敵だと思うくせには自分は日々鏡を見て、肌の変化(経年劣化か)を見つけては凹み、アンチエイジングの高いセラム欲しい〜って思ったりします。全くもって矛盾してます。まだまだ自分の顔に責任を持つには時間がかかりそうです。今日もSara Jessica Parker演じるCarrieにちょっとだけ勇気をもらいつつ、マスクで顔を隠して外に出ようと思います。

以上、第3回目の投稿でした。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?