見出し画像

地域おこしは人づくりから

四方よし

「売り手よし、買い手よし、世間よし」は、江戸期の近江商人の心得としてよく知られています。『三方よし』のビジネスビジョンとして、現代社会でも広く通用する考え方ですが、当時としては革新的なものの見方であったように思います。

現代は、単なる広報としての意味を越えて、企業の社会的責任や存在意義が真に問われる時代となりました。企業持続のための基本的理念と共に、組織の社会的意義や地域への貢献を明らかにし、構成員とのビジョンの共有が事業の成否を決めるのではないでしょうか。

2018年4月に閣議決定された第5次環境基本計画をみると、第4次基本計画を引き継ぎ、現代を時代の転換点、つまりパラダイムシフトと位置づけています。ここでは国連総会で決議された「持続可能な開発目標 SDGs (Sustainable Development Goals)」を活用して、環境・経済・社会の統合的向上を謳っています。

SDGsは、法的な拘束力はないものの、2030年に実現を目指す革新的なビジョンを示した国際社会の行動計画であり、17の目標に169のターゲットを定め、指標による進捗評価を組み合わせたものです。目標設定、つまりバックキャスティングによる管理手法を採っていますが、いまでは国際的な標語となっているので、日本の新聞や報道でもしばしば見受けられるようになりました。

環境基本計画は、将来にわたって質の高い生活をもたらす新たな成長と地域が自立・分散型の社会を形成し、地域資源等を補完し支えあう「地域循環共生圏」の創造を具体的な目標にしています。

さらに、環境政策を通じて経済社会システム、ライフスタイル、技術などあらゆる観点からのイノベーションの創出や、経済・社会的課題の同時解決に取り組むための分野横断的な6つの物差しが設定されています。6つの物差し(指標)とは経済、国土、地域、暮らし、 技術、国際ですが、以下のような若干のキーワードをそれぞれの指標に補足すると、わかりやすくなります。
経済:産業、資源・エネルギー
技術:(グリーン)イノベーション
国土:減災、安全、(グリーン)インフラ
地域:地方分権、伝統・文化、循環、自然と人間社会(共生)
暮らし:豊かさ、QOL(生活の質)、共に生きる社会
国際:地球環境や格差是正など、普遍的課題の取り組み、SDGs

ものの見方には、このような幅広い、俯瞰的で、多元的な見方が大事になってきました。さきの『三方よし』の精神をさらに拡げて、現代風に解釈すると、『四方よし』とすべきかもしれません。すなわち、
「おのれよし、ひとよし、世間よし、そして、自然よし」。
利己と利他、社会貢献、そして地域社会を取り巻く自然環境を含む四つの物差しを満足する「解決策」を模索するための新たな組織と仕組みが求められているのではないでしょうか。

地域おこしは人づくりから

自立・分散型社会の実現に向けた、いわゆる、地域おこしにおいても、これらさまざまな要素を満足する「解決策」を探すことが必要です。とくに現代社会は複雑さを増し、多様なステークホルダーの声を汲み取ることが大事です。地方行政でも、有識者の審議会方式による関係者の意見調整ではなく、地域住民が積極的、かつ主体的に取り組む「開かれた場」が求められるようになってきました。

ここでは「どんな街にしたいのか」といった街のビジョン作成から「ゴミ収集」や「下水道の維持管理」などの普段の暮らしに直結する住民サービスと負担にかかわる課題まで、さまざまなレベルの事案が対象になります。このため、幅広い関係者とのパートナーシップを充実、強化し、地域づくりや街づくりなどの地域おこしに住民が参加する具体的な仕組みが必要になります。たとえば、一般社団法人構想日本の○○市「住民協議会」や「自分ごと化会議」などの協議体による住民運動が全国の市町村で盛んになってきました(構想日本メールマガジン <news@kosonippon.org>参照)。

わが国は2008年をピークに人口が減少に転じました。東京都においても2020年5月以降人口減少に転じたことが報道され、大きな話題になりました。けれども、人口減でもっとも深刻な影響を受けるのは地方です。地方の多くの市町村においては、すでに中心街区である商店街がシャッター通りと化し、出生数の減少と相まって、若い人達の都会への流出が街の活気を失わせています。人材不足と街のエネルギー消失のなか、中心街区の空洞化阻止やコンパクトな街づくりなどについて、住民による合意形成が求められているのです。

この解決には、時間はかかっても、生れ育った街と地域の歴史文化や伝統に誇りを持ち、そこで暮らしたいと思う若者を育てるのが一番です。もちろん、IターンやJターン、地域おこし協力隊などの外からの人材の役割も大切ですが、「自分ごと」として主体的に街おこしに参画する人材を地域で育てるのが、結局のところ近道ではないでしょうか。

イラスト:第五次環境基本計画(地域循環共生圏)から

#地域おこし #SDGs #地域 #循環 #共生 #住民協議会 #自立分散型社会

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?