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働きざかりの若者の声ーー就職の不安に寄り添うまち、川崎へ

かわさき未来トークでは、川崎のまちづくりに示唆を与える研究者、第一人者、市民との対話を重ねている。川崎の未来を考え、その種を読者にも届ける取り組みだ。本記事は川崎市民との対話、若者会議の開催の様子をお届けする。

2023年2月12日、川崎市議会議員の春たかあきと対話するために、20代から30代の若者3名が集まった。仕事をしながらプライベートを川崎市で過ごす若者の声に耳を傾けることは、まちづくりの要だ。

前編の様子は以下リンク先をご覧いただきたい。

今回の若者会議に集まったのは、田中さん、中村さん、石川さんの3名。自分たちの声をこうして市政に届けるのは初めてだった。なにを伝えたらよいか、なにを伝えられるだろうか。一人ずつ、こんな暮らしをしたいという希望を話していき、残るは石川さんのみとなった。

働きたくても、不安定な雇用しか見つからない

石川さんは16歳のときに父が経営する会社で働き始め、それから14年が経つ。川崎は職人のまちだと思う、と切り出した。

石川「職人の世界では人手不足に悩まされています。ですが、若者からは仕事を見つけるのが大変だと聞くんです。」

たとえば中学校で紹介される職業は、とび職と鉄筋工。これが本人の特性や希望と合わないとき、別の職業を探す方法は見当たらない。石川さんは、自身が勤める会社をようやく見つけて採用面接にきた若者からこうした現状を聞いている。

石川さんの会社はハローワーク(職業安定所)に登録している。そうすると、採用面接の申し込みは60才以上からがほとんどだ。若者の応募はほぼない。なぜか。石川さんは、スマホで検索したときに、応募検討に必要な情報が掲載されていないからだと考えていた。それで仕方なく、道を歩いていて目に入った居酒屋のアルバイトに若者の雇用が流れているのではないかと。

正社員として生きていく道があるのに、不安定な雇用形態にしか巡り会えない若者の現状を変えられないか、というのが石川さんの相談だった。

2023年2月12日、溝口にて

春「行政は、子どもたちの学び直しを支援してきました。高校に通いたいのに通えない子どもがいるからです。それとは別に、高校の義務教育化を検討する声も出ています。」

春はそう話して、とは言え、中学卒業後に就職する子たちが毎年いることを踏まえて、どうしたものかと頭を悩ませた。

石川「人によって状況は違うと思います。ただ、高校に行かない人の中には、母子家庭の出身などの理由で、意欲的に働きたい人もいます。」

職人業界では、若くして働くことが歓迎される。職歴が長ければ、一人前の親方になれる日がそれだけ近くなる。石川さんは、若者の就業支援をしたいと言った。

春「仕事探しは、やりたい仕事がわからない、自分に合う仕事がわからない、という悩みから始まることが多いです。そのための支援には、かわさき若者サポートステーションがあります。ここでは15〜49才の就労支援をしており、電話予約をすれば対面で相談に乗ってくれる窓口が溝口にもあります。」

孤立する就職希望者

石川さんの話を聞くに、おそらく、就職活動に苦労した若者たちはこの行政サービスを知る機会に恵まれていない。たとえば、中学校の保護者会では高校進学しか語られなかった。就職希望者の孤立する姿が想像される。

家族の世話や家事で忙しくしながら学業に専念したいと考えている人もいれば、貧困を抜け出し、自分の人生を切り拓くために職場を探している人もいる。それぞれの状況にあわせて適切に手を差し伸べられなければ、彼らの心は折れてしまうのではないか。

行政サービスは、必要としている人に届かなければ意味がない。

春「中学卒業後、全員が高校に進学することを目指してきました。ですが、石川さんの話を聞いて、多様な暮らしにあわせてフォローアップできるように考え直していきます。」

会場からは、学業と就労の難しさは中卒に限らないという声もあがった。学費を払えずにフリーターを始め、何年も経ってから、現実と夢のギャップに心を壊す人がいる、という。

行政は、こころのケアにどう関われるか

ここから、若者会議の話題はメンタルヘルスの問題へと移った。

メンタルヘルスは、人々の暮らしにおいて見逃せない問題だ。厚生労働省は「生涯を通じて5人に1人がこころの病気にかかる」ことを公開し、メンタルヘルスのケアを普及啓発している。近年は、行政や学校がこの問題に取り組んでいる。

たとえば、頭に浮かんだことを書き出すことをジャーナリングというが、ジャーナリングを継続することでメンタルヘルスによい影響があるという研究が進んでいる。ジャーナリングアプリ「muute」は、中学・高校への導入を進めている。渋谷区では、「emol」というアプリ開発を支援し、働く人のメンタルヘルスをケアする実証実験を進めている。

こうしたアプリの導入よりも前から活動しているのは、渋谷区に拠点を置くNPO法人BONDプロジェクトだ。青少年の社会回復支援を目的とし、メイベリンニューヨークが研究者とともに開発したプログラム「BRAVE TOGETHER」を取り入れるなど、精力的に活動を続けている。

NPO法人BONDプロジェクトのウェブサイト


ここで、川崎市民のメンタルヘルスに話を戻そう。

田中「リモートワークの生活が始まってから、精神的につらい時期がありました。おそらく、病院に行けばよかったかもしれません。薬をもらい、自分の身体に合う薬に出会うまでいくつも薬を試すことになるのでしょう。ただ、あくまで対処療法なのでやりたいと思わなかったです。」

これまで石川さんの話を聞いていた田中さんは、メンタルヘルスのケアの難しさを語った。

春は薬剤師として、精神科の病院で働いていた経験がある。こころの病気は、早期に手を打つことが大切なことも知っている。メンタルヘルスに取り組む自治体の話を聞いて、自分が川崎市でやれていないことにショックを受けていた。

春「病院に行ってくださいという時代ではないんですね。病院に行く前に相談できることや、こころの調子を整えるために気軽に使えるものが必要とされていることを知りました。」

春によると、川崎市には精神科のクリニックの数が十分にある。こころの相談に行くのは病気になってから、というイメージを変えることも大切になりそうだ。

若者会議を終えて: 市議会議員に自らの要望を伝えてみて

参加者の声に耳を傾けると、まちづくりの可能性が広がった。市議会議員である春は、政策立案の種となる課題を見つけたはずだ。要望を打ち明けた若者にとっては、どのような機会になったのだろうか。

中村「自分の思う『あったらいいな』を率直に共有してみました。少し緊張しましたが、その観点はなかったからありがとうと真摯に受け取ってもらえて安心しました。10代の人たちが素直に意見を出したら、また違う可能性が見える気がします。私自身も、彼らの意見を聞きたいです。」

石川「自分の意見を聞いてもらうことができました。嬉しい体験になりました。」

田中「『こういうまちだったらいいな』という考えが、ぱっと出てこなかったんです。今回のような機会があると知っていれば、普段から考えを巡らして過ごしたかもしれません。これを機に、暮らしの課題や希望を見つけて過ごしていきたいです。」

最後に、春は心からの感謝を伝えた。

春「今日聞いたことは、どれも知らない話でした。教えてくれて本当にありがとうございます。こうして対話の場をつくることの重要性を改めて感じています。」

なにより、春自身がこれからの川崎の可能性にわくわくしていた。今回の学びを絶対に無駄にしないと約束し、若者会議は幕を閉じた。

あらゆる世代の声を政治に取り入れることは、まちづくりに欠かせない。中でも子ども・若者の視点を引き出すには、場をつくることが大切だ。他の市町村でも「子ども・若者会議」という取り組みがされている。引き続き、春は世代を超えて耳を傾けていく。


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