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ガンズかわせ米田何を売るか対談

かわせ:こんにちは。セルフパブリッシングSF雑誌『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』編集長かわせです。ガンズの中の人の活動を紹介するこの企画。第四回は先日盛況のうちに終わったノベルジャム2018に参加されました、米田淳一さんですー。

よねた: どもですー。恐縮ですー。米田ですー。

かわせ: 本日はですね、イベント当日については、いろんな方が回顧しているので、そちらよりもイベント後からグランプリ授賞式までの販促活動についてをテーマにしたいと思うんですよ。僕はあんなに盛り上がるとは思ってなくて、びっくりだったんですけれど。

よねた: そうですね。盛り上がる理由にはノベルジャムのゲームとしての酷なところが動機になってたと思うんです。
 編集として感じたノベルジャムのその酷なところは、作家を二人受け持つところですね。
 しかも賞の数が多かったし、それがばらけたので、片方だけ受賞してしまうと受賞は嬉しくてももう片方がなんで受賞出来なかったのか、編集としてはメチャメチャ悔しく思えちゃう。編集として正直二人とも行ける、と思って出すぐらいの気迫でやってるわけで、それが片方受賞出来なかったら、もう取り返すために死に物狂いになりますね。二人とも無冠の所はもっと悔しかったと思ってるわけだから、すぐにいろんな策を考えようとなります。授賞式のあとの懇親会で作戦会議してるぐらいですからね。Facebookグループは即座に立ち上げて終わったら作戦会議。だから当日の授賞式では全く終わらなかった。そのせいでグランプリ授賞式終わるまでキツかった(笑)。私、終わったあと解放感で飲み過ぎて終電逃しましたもん(笑)。
 で、悔しくて私、当日は眠れなくて大変でした。よそも結構ポジティブに悔しさを感じてグランプリまで走り続けられたと思います。私は途中ちょっといろいろあって精神的に轟沈しちゃったんだけども(ひいいい)。
 でもゲームとして見る側は楽しかったのではないかと思います。出版の世界で行われてきたいろんな施策がほぼ全部実施されたかんじですからね。まさに実験室状態だった。参加した我々はその実験に志願したモルモット状態ですが(ヒドい言い方だけども)。

かわせ: 僕、参加者の方を全員フォローしていたわけではないので、皆さんの施策の全貌は見えてないんですけれど、米田さんのCチームとしては、まず、無料の雑誌出しましたよね。

よねた: そうです。『AfterJAM+C』。あれはほんと、チームのみんながそれぞれやってくれました。私も参戦記書かないとなーと思ってたので、じゃあついでに無料誌をやろう、と思ったんです。今だから白状しますけど、あれ採点期間中にもう1回出すつもりだったんですよ。出せませんでしたけど。
 でもデザイナーさんもライターも揃ってたので、やろうと思えばできたんですよね。ぐぬぬ。

かわせ: 採点期間って、一か月ぐらいでしたっけ?

よねた: 一ヶ月よりちょっと多かった気が。でもあれ、採点について売り上げ集計が間に合うか間に合わないかで運営さんもヒヤヒヤしたみたいですね。他ストア配本の結果が戻ってくるのがギリギリで。一ヶ月だと普通他ストア配信の結果戻ってきませんもんね。でもちゃんと集計されてたような。
 売り上げだけを競うんじゃない、ってのはあらかじめ言われてたけど、でも全く無視出来ないのでがんばらざるを得ないという。
 あれ以上長くても短くても厳しかったので、実に絶妙な長さでしたね。

かわせ: 売るところまで含めたのは本当に英断でしたねー。商業出版でもセルパブでも、その部分ってあまり十分には語られてないと思うんですよ。
 そこを掘り下げたら、けっこう本質的なところも出てくるのではないか。
 実は今回、波野さんも含めての座談会でもよかったところを別々にしたのは、二人のスタンスが違ったからなんです。その部分、どこまで売り上げにこだわるのかも含めて、作品作りだよなあと思って。

よねた: その結果波野さんが狙い通りばんばかグランプリでも賞とっちゃったわけで。  チームCは当日の根木珠さんの特別賞に続きもう一人、森山さんの作品も賞いただけたけど、私は編集としても、ゲームプレイヤーとしても波野さんに完敗でした。そもそも勝てると思いませんでしたけどね。編集とか出版とかのキャリアが全然違うし。波野さんの方がずっとアイディアもスキルもありましたね。
 私のとこはよそとのネタ被り全くなかったので、それで賞貰えたのは狙い通りなんですけどね。そもそも同じ土俵に乗らない、という方針でやってましたから。同じ土俵乗ったらほかは強い人ばかりですもん。だから作品の方向性を決める段階でうちはほとんど仕事は終わってました。
 だからあとは『AfterJAM+C』で少し売り上げが中ぐらい以上になれば良いか、という感じでした。そのための策は森山さんと根木珠さんと杉浦さんがじゃんんじゃん打ってくれたので助かりました。森山さんの続編戦術とかは私はやりたくてもあのときアイディア詰まりしてたので。

かわせ: そう、僕も米田さんも商業出版経験してるから、ぶっちゃけた話したら、売るなら何が強いってわかってるじゃないですか。授賞式のトークイベントで、鈴木みそさんなんか「炎上」って言っちゃってるしw
 そこで、「何を売る」のか、「何」が主語なのか「売る」が主語なのか、そういうところがあると思うんですよ。
 『AfterJAM+C』も読んだのですが、例えばあの中に書かれてた、根木珠さんの下りとか、興味深いなと思うんですよね。

よねた: ああー。そうかも知れません。うちは「売る」がメインだったら著者に私の得意分野の「戦記書いて」「SF書いて」って言ってたかも知れません。でもそれやってもよくならないのはほんと自明だったので。あそこに来る人は基本、みんな腕のある書き手ですもん。森山さんだけ面識なかったけど、根木珠さんの力量は知ってたので、ほんと二人を信じてそれぞれに一番いいもの書いて貰って、それから編集としてどうするか考えようと思いました。私の想定を超えるいいものを二人が書いてくれれば、それでどうなろうと私は編集としては納得して終われますから。ホントそういう作品になってくれましたし。
 根木珠さんのくだり…..ううむ、どこでしょう?

かわせ: 根木珠さんの作品をいじらないようにするところ。不思議系なのをわかってて、本人に興味を持ってもらうため、あとがき書いてもらおうとか、チームメイトの森山さんはいろいろ指摘してたけど、本人の味を守るところとか。
 それが特別賞につながったわけでしょう。まさに「何」を売るのかだなあと思うんですよ。

よねた: そうですね。今回私が思ってたのは、「売れる物をただ売るんだったら編集は要らない」ってことです。売れる物はほっといてもいずれ売れるから。でも、「これはすごい!」と思ったものが「(ぶっちゃけ)売れそうにないと思っても売るために努力する」のが編集のあり方じゃないかなーと。売れ筋に乗せて売るとか、まして著者をそれに乗せてしまうなんて、著者さんをただ使い捨てにするだけですからね。著者さんにも失礼だし、編集としてもそこに仕事としての面白みはないんじゃないかなと思ってました。
 もちろん会社としてやるなら、ベース的な利益出すために売れ筋を追う必要もあるでしょうけど、さいわいノベルジャムは実験室なので利益出さないと失格になるわけじゃない。あと実際の出版社でも、小さいところは小さいところで好き放題やってるとこありますからね。社員2人で神田に1部屋だけの出版社とか。そういうイメージも良いなーと思うし。
 ただそうなると、全く売れないと編集として心底凹みます……。編集として感じた「これはすごい」が全くたいしたことがなかったことになる。編集としてのセンスないことが突きつけられちゃう。でもそれが、今回どっちもしっかり売れてくれましたからね。そういうリスクを取ってでもやるってことは、ほんと楽しいですね。

かわせ: 持ち味を出して結果も出たのは素晴らしいと思います。Cチームってあと、販促活動としては何をしてました?

よねた: じつはチームCはあれ出したあと、私が私事で潰れちゃって、各メンバーがいろいろやってました。私ほとんどなんもできなかった。本当にすまないことです。
 でもそんななか、根木珠さんは「ノベルジャム屋台」を他のチームと一緒に銀座に出展してましたね。そこで「ひつじときいろい消しゴム」のグッズ販売したり。あれはすごくいいものだった。実施時期が遅くて採点に影響出来たかわからないけどあれはステキだった。
 あと森山さんは改訂版と続編を出して。この二つは販売にカウントされる本編買わないと読めないようになってて上手く購入への導線になってました。その二人をデザイナーの杉浦さんがバッチリ支援してくれてました。
 電子書籍とか配信の弱点は「所有による満足感」というものを買った人にあげにくいというのがあるので、グッズ販売ってのは良い方法だなーと思いました。採点にそれが反映されるかどうかは微妙でしたけど、でも根木珠さんらしくてよかった。

かわせ: 物販はいいですよねー。あれは今後いろんな展開がありそうな気がします。
 米田さんから見て、他チームでこれはと思った手法はありますか?

よねた: どこもいろいろがんばってて、なるほどなーと思ったけど、なかでも波野さんとこの天王丸景虎さんにTシャツ着せて生活行動させるのはすごかった…。うちはとてもあそこまでやらせられない。でもすごく有効ですよね。あと金巻さんがTwitterでものすごくがんばってたのも印象に残りましたね。ただ最後に全部どーんと持っていったのは腐ってもみかんさんですが。ラップで今回のノベルジャムの締めまでやっちゃった(笑)。前回の澤さんのギターに続く伝説になりましたね。
 読書会とか、ノベルジャムの子イベントやったりするのもすごかった…。
 トレンドとして出版後に読者と著者の交流イベントをやるというのは一般の出版でも最近あるんですが、今回けっこうばりばりやってるところ多かったですね。イベントは短期的には初めは知ってる人しか来ないけど、これ「読者を訓練」する効果があって、結果的に著者さんの固定ファンを増やしていくことになっていくので長期的にはすごく有効。

かわせ: イベント開催してコミュニティを作っていくというのは、重要かもしれませんねー。

よねた: 著者のモチベーションも上がるし。読者の顔を見る機会って著者にはないことが多いんですよね。書くってのは孤独な作業なので、著者さん書いてくうちに孤立感に苛まれることもよくあります。そうなると書けるものも書けなくなる。そういう意味でイベントやってコミュニティ作って、そのまわりに波及していくように狙うのはすごく有効だよなーと思ってます。
 そういうところまで含めて編集が気遣いして実施出来れば良いんですが、今回私はそこがあんまり出来なかった…。私事できつい目に遭っていたとは言え、大きな反省点です。
 ただ、そうなってくるとイベントで場所押さえたりの軍資金の問題になってきますね。ノベルジャムのグランプリのあとのトークセッションでもあったけど、こういうチームに軍資金、金融をどう抱き込んでいくか、ってのがほんと課題になってくるなーとホント思いました。
 個人的にはあと数年で実際の出版の世界にも出版ファンドみたいなのが登場しそうだなと思ってたんですけど、トークセッションにもそういう話が少し出てて。なるほど考えることは一緒かー、と思ってました。

かわせ: 元手はねー、なかなか難しいですよね。

よねた: でもすでにそれに向けていろんなところが動き出してますからね。クラウドファンディングという話があそこで出てきましたけど、この話題から少しズレるかも知れないけど、作品ではなくクリエイターに月額いくらでお金をカンパして読者一人一人がちいさなパトロンになる仕組みはすこし始まってきてますからね。
 それに暗号通貨の世界でもそういう仕組みに役立てようという動きがあります。暗号通貨は投機の対象になってしまってイメージ悪いですけど、でもあれの夢はそういう少額決済をすすめてそういう元手の問題をクリアするってのも一つですからね。だからそれを解決する仕組みの開発も進んでいる。
 今までも作品の収益化ってのはいろいろあったけど、これからはもっとそれが進んでいくんでしょうね。作品じゃなくて著者そのものの収益化が始まりつつある。
 うまくそういうのが回って、良い循環になっていって欲しいなと。そしてノベルジャムに参加していた中から、そういう方向がすこし見えてきたのはすごく意義深かったと思います。
 あとこれは今思い出した余談ですが、チームCの中で森山さんの作品のブラッシュアップが続けられたのも良かったなあ。ノベルジャムの作品作りはむしろ会場を離れたあと、さらに深めることができた。あれはすごく楽しかったなあ。
 ノベルジャムの「出版を革新する」というスローガンがほんと活きてましたね。

かわせ: 出版を革新という点では、本当に、売るところにスポットライトを当てたのは大きかったですね。ここでいろいろな実験がなされて、プロモーション手法も洗練されていくのかなと思いますし。
 そういえばすでに年内の次回開催が言われてますけど、米田さんの次の予定は?

よねた: うちは実はこの繰り返しここまで書いてた『落ち込んだ私事』ってのが、ぶっちゃけると夏の鉄道模型展示の方が危機に瀕しちゃったことなんです。少し改善の方向は見えているけど、そこで一つ勝負せざるを得ないので、ノベルジャムの年内次回は正直、参加しにくいかなと思ってます。
 ここはカレージャムに回るしかないかなと危ぶんでます。(しかもレトルトカレーでしか参加出来ないかも……ひいいい) 模型展示の方は向こう3年ほどできなくなる最後の年が今年なので、そっちを優先せざるをえないんです……。模型やってるほうのYouTubeの登録者数も1000人超えて、まさに勝負かかってしまったので。
 どっちも参加出来れば一番ですが、体力的にも資金的にも厳しいので……。
 うちの主力事業は模型を使った鉄道模型小説でもあるわけで。うぬぬ。

かわせ: 実は米田さんと波野さんがうまいこと役割かぶらず来ているので、二人で全役コンプリートするのかなと思っていました(笑)
 それでは先にカレージャム制覇ですね!

よねた: レトルトカレーでどこまで戦えるかですね(ええっ!)。ともあれノベルジャムにはいろんな形で係わらざるを得ないと思っているので(だっておもしろいんだもの)、関わり続けます!

かわせ: 期待しています! 本日は米田さんとの対談をお送りしましたー。ありがとうございました!

よねた: 恐縮です。ありがとうございました!

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