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「おいでやす不良少女団」

「うっそ、やば。これまじで私のことじゃん」

 と、夢野久作『少女地獄』を読んで思わず叫んだ少女は、今この令和の時代にどれほどいるのだろう。

 ま、あんまおらんやろ。※個人の感想です

 しかし、夢野久作の時代、つまり『少女地獄』(『かきおろし探偵傑作叢書』第1)が刊行された昭和十一年(一九三六年)ではどうだったのだろう。

(前略)記者だった杉山萌円(夢野久作)は「東京人の堕落時代」で、理詰めの禁欲論が不良性を押さえつけられないと悟った学校や社会が、急遽正反対の自由尊重に方針転換したと述べ「何事も子供のためにという子供デー謎が行われた。[子供を可愛がってください]と言うような標語が珍しげに街頭で叫ばれた。それまではまだ無難である。尋常一年生位が遅刻しても、[まだ子供ですから]ということ理由で叱らない方針の学校が出来た。大抵の不良行為は、[自尊心を傷つける]という理由で咎めない中学校が出来始めた」と書いている。親や社会の混乱ぶりが見えてくる。

 確かに大人たちの混乱ぶりしか見えない。どうやら『少女地獄』の姫草ユリ子はワープ・ドライブにより地球に舞い降りた異星人、というわけではなさそうだ。大人を困らせる子供はいつの時代にもいるものだが、当時は第二第三の姫草ユリ子がいても不思議ではない状況だった。では、他にはどんな「少女地獄」があったのかしら。

 そんな興味が湧いたそこのあなた、面白い本がありまっせ。

 そこで今日ご紹介したいのは、平山亜佐子さんによる『明治・大正・昭和 不良少女伝』(ちくま文庫)だ。ちなみに、上記の引用文も本書からである。

 さてさて、それにしても不良とは一体なんぞよね。

一般に不良といえば、環境や集団生活になじめない若者が自己承認の希求や青年期の衝動から、社会的規範などに反抗して犯罪的行為や傾向に走るという、古今東西、普遍的に見られる行為である。

本書あとがきより引用

 なるほど、なるほど反抗期ね。

 ただ、一般的な子供たちの反抗期がキャッチボール程度だとすると、不良の反抗期は「ハスハシャうんダァ○△×□!!!!」って叫びながら金属の塊を全身全霊で投げ飛ばすハンマー投げレベルやね。それ、ミット装着していても手首もっていかれてまうやん、みたいな。

 こいつは大変だ(真顔)。
 
 そんな不良少女、集団生活には馴染めないとはいえ、集団をつくることは嫌いではないらしい。

 時は大正十三年、関東大震災の一年後、宮沢賢治の『春と修羅』が刊行された年。ハート団なる不良少女グループが、丸の内を跋扈していた。密淫売を盛んに行い、丸ビル内を出入りする青年を弄び、金品その他を奪い取っていたという。もはや、私の中で不良という域を越えている気がするのだが。

 ハート団を率いるのは、ジャンダークおきみこと、林きみ子(一九)。

 ジャンダークとはもちろんジャンヌ・ダルクのこと。え? 不良にジャンヌ・ダルク?

 当時のジャンヌ・ダルクのイメージとはどういったものだったのだろう。

 明治三四年刊行 勁林園主人 編『ジャンダーク』(東洋社)の冒頭によると

外面如菩薩内心如夜叉──こんな女はどうせ外道のものでせう。外面如菩薩内心海月──こんな女もあまりに内輪すぎて感心ができませぬ。女だッて「シッカリ」した所がなくては駄目です。この書に揚げましたジャンダーク嬢は必ずしも諸嬢のお手本にして下さいとは望みませぬ。けれども、その淸淨潔白無垢の乙女であつて、しかもその擧動の優美で精神の確乎として居つた所なぞは、誠に習つて然るべきことだと思ふのです。

 とある。
 
 外面如菩薩内心如夜叉は、見た目は菩薩のように美しいのに内心は鬼、という意味だ。では、内心海月はなんだろう。海にうつる月のようにぼんやりしているということだろうか。それにしても、随分とおきみは見習い方を間違えたらしい。いや、別に本人が付けた訳じゃないだろうけどさ。

 ジャンダークおきみ達による密淫売と強奪も凄まじいが、この頃の少女たちの暴挙は他にもある。女中見習いとして入った家で金を盗み、盗んだ金で人力車に乗り芝居見物に行く一八歳、十三歳にして強請る少女、短銃でイタリア人男性へ発砲する十六歳などなど。

 これがカードバトルゲームなら、誰が激レアカードか私には判断しかねる。なかなかの強者揃いだ。

 などと、ここにあげたのはごく一部。『明治・大正・昭和 不良少女伝』には、これ完全に小説のネタになりそうじゃんね、という話が盛りだくさんだ。創作のネタを探している方、ちょっと刺激が欲しい方、いま熱中するものがないのよねーって熱を求めているそこの少女! 自分でやったら犯罪だが、他人の、しかも過去の話を読むのはなんの罪も無い。

 ささ、どうぞどうぞ、あなたも不良少女団へ、おいでやす。あくまでも本の中だけで、ね。

 

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