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よの21 無駄遣い

妻との論争は皮むき器から始まった。

私はベランダで干し柿を作るため、独りネットで便利な皮むき器を探していた。
いろいろと物色の結果、自分のなかでは結局普通のピーラーでいいんじゃないか、となった。

我が家には3年前に買った赤色のピーラーが眠っている。当時私がデパートで、グットデザイン賞に引かれて買ったが、使いづらくて全く使っていない。

当時、妻になんでこんな使いづらいの買ってきたのよ、とさんざん怒られた。妻は京セラのセラミックのピーラーを買いたいと思っていたらしい。

試しに3年前買った赤色のピーラーを使ってみるが、やっぱり使いづらい。包丁で皮を向く方がまだましだ。

私はネットで検索しながら、京セラのセラミックのピーラーを見つけた。

1000円くらいだし、買ってみるか。
しかも新型。
色のこだわりはないが、当日発送できる黒にした。

その日のうちに届いたピーラーで、私は柿の皮をむき始めた。

すこぶるいい。
これはお買い得だぞ。

新しい黒いピーラーのお陰で作業がはかどり、ベランダにたくさんの柿を干すことができた。

しかしながら。
その夜、妻が帰ってきてそれを報告するやいなや、論争が始まった。

どうして前のがあるのに、新しいピーラーを買うのか?前のピーラーはどうするのか?2つもピーラーは必要ないと。

前のは使えないし、京セラのセラミックのピーラーは前から妻も欲しがっていたはずだ。

それについて妻は、欲しかったけどずっと我慢していた。自分のタイミングで自分が買いたかったんだ。それに真っ黒が欲しかった。道具は黒で統一してるんだから、と言う。

買ったのは黒だ。
でもよくみると、ストライプの黒だった。
調べると新型の黒はストライプの線が入っていて、旧型は真っ黒だった。
しかし新型は性能が向上していて、実際とても使いやすいのだ。
それにそもそも黒で統一してるなんて今日初めて知ったし。

一瞬冷や汗が出たが、たまたま黒で良かった。

要するに妻の主張は、とにかく無駄遣いはやめてほしい。買うときは一言言ってほしい、特に台所用品を買うときは。ピーラーに関しては自分で買いたかった、そのために今まで我慢してきたのだ。ということだ。


実際、妻はとても節約家なのだ。
不便に思っていてもなかなか買わないし、
一度買ったものは大事にボロボロになるまで使う。

ある意味尊敬はするのだが。

しかしながら。
彼女は無駄遣いにはすこぶる厳しい。
ピーラーを皮切りに、過去の無駄遣いを蒸し返し始めた。読まない本、着ない服、使わない物で家は溢れかえっているという主張だ。

特に毎回登場してくるのが、使わないアウトドア用のイスとサイズの間違ったクーラーボックスで、あれこそ無駄の極みだと言うのだ。

なんだか私が無駄遣いの王様のようだが、言わせてもらえば、私は浪費家なんかでは決してない。

むしろお金を無駄に使いたくない主義で、毎回よくよくの吟味と熟考の末納得したものだけを買う。その数が妻よりも多いだけなのだ。

お金を大事に思う気持ちは同じで、その点では同志といえるかもしれない。

しかしながら。

私はお金を使わないということより、いかに有効に使うかを常に考えている。

お金を使わず我慢してただ時間を浪費するよりも、お金を使って時間や機会を有効活用できるほうを選ぶのだ。
節約する一方で無駄な費用が発生し、結果損していることも多々あるのだ。と妻に主張すると、

何言ってるかわからない、というような顔をした。

妻の主張はただただ無駄遣いをやめてほしいという一点。
しかし私の言い分はそれは無駄遣いではなく、有効活用なのだということだ。

論争は夜更けまで続いた。

そしてその論争は、無駄遣いの話しから、お金とは何か、豊かさとは何か、国のあり方にまで発展していった。

お金とは、豊かに生きるための道具だと思う、と私は言った。
そして、大事なのは豊かさと自由じゃないかな。

お金の奴隷にならないこと。

生活していくのに精一杯でいつも支払いに追われているのは自由じゃない。

でも。

お金がたくさんあれば自由になるかといえば、そうともいえないんじゃないかな。お金を稼ぎながらますます不自由になってしまう人もたくさんいる。

豊かさそのものをお金で買おうとするから、どんどん不自由になっていくんじゃないかな。
豊かになるためには常にお金が必要だし、豊かであり続けるために買い続けなければならないのだから。

それって幸せとは思えない。と彼女。
でも生きているためにはお金が必要なことは確か。

どうすれば、お金から自由になれるのかしら。


ある意味。
考え方と使い方じゃないかな、と私。

たとえば。
今や近くのコンビニに行けば、誰でもたった100円で挽きたてのコーヒーが飲めてしまう時代だよ。
YouTubeを開けばいつでも無料動画を楽しめるし、手間暇お金が掛かった数々の美しい庭や設備、建物が公共物や商業施設で楽しめたり、等々。

お金がそれほど無くても誰でも楽しめる時代なんだ。

そういう施設ひとつひとつを自分のお金で作ろうと思ったら、どれだけのお金がかかると思う?


そして。
お金から自由になっていく方法、
豊かさと自由を勝ち取るための方法、

それは、
お金を使わないために、お金を使っていく。

ということではないだろうか?

お金を使わないでも暮らせる方向にお金を使っていく、投資をしていくことが、自由への道だと、私は主張した。

お金を使うのか。お金に使われるのか。
お金は豊かに生きるための道具なのだ。

と。
ふと彼女を見ると、聞こえているんだけれど、聞こえていません(興味ありません)風な表情で私を見た。


そこで論争は止まった。

そして。
とりあえず、明日の仕事に備えてわれわれは眠った。


1ヶ月後。

妻は車内で眠っていた、車のハンドルに引っかけて使う作業台を見つけて、どうして使わないものを買うのか、無駄なものを買わないでと主張を再開した。

読まない本、着ない服、使わない物で家は溢れかえっているし、前に買った使わないアウトドア用のイスとサイズの間違ったクーラーボックス、あれどうするの?

あれこそ無駄の極みじゃない。




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kawawano


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