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Service Design & Social Changeワークショップとデザインの役割

この記事は、NOT DESIGN SCHOOL Advent Calendar 2023の10日目です。

普段は医療領域のデザイナーとして働きつつ、武蔵野美術大学で社会人大学院生をやっています。
この記事では武蔵美で開催されたService Design & Social Changeワークショップを振り返りながらソーシャルイノベーションとデザインについて紹介します。

ソーシャルイノベーション

ソーシャルイノベーションにおけるデザインの役割は、単に新しいアイデアや技術を導入することに留まらず、人々の生活や社会構造に対する深い理解と変革を目指すものです。ミラノ工科大学のデザイン研究者Ezio Manziniは、この分野で重要な参考文献にもなっている著作で次のように定義しています。

ソーシャルイノベーションとは、既存の資産(社会資本、文化、先進技術など)の創造的な組み合わせから生じる変化のプロセスであり、新しい方法で社会的に認識された目標を達成すること

Design, When Everybody Designs: An Introduction to Design for Social Innovation

ワークショップでは明言はしていませんでしたが、語られていた概念からManziniとの共通点を多く感じられました。

Judah Armani先生

本ワークショップの講師は、Royal College of ArtでHead of Social Impact Challenge Labを務めるJudah Armani先生でした。
Judah先生はロンドンにおける再犯率の高さという課題に対して、刑務所の囚人たちが運営する音楽レーベル「InHouse Records」を立ち上げたサービスデザイナーです。このプロジェクトは犯罪更生プログラムとして機能し、社会的意義と音楽性からユニバーサルミュージックとも契約しています。

InHouse Records事例に関する詳しい背景や成果についてはコンセント社の記事で紹介されています。

ワークショップ

ワークショップでは、参加者がランダムに分かれたグループでテーマとして扱いたい社会課題を選び、そのテーマに対するレスポンス(解決策、問題提起のためのアート表現、問題を適切に伝えるための寸劇など自由)を考えました。
私たちのグループは、武蔵美の大学院生・学部生、デジタル庁、リクルートのメンバーで構成され、異なる職種・バックグラウンドからアイデアを出し合っていきました。

アイスブレーク

初対面のメンバーが多いことからまずは自分達が打ち解けることも兼ねて、アイスブレークを設計するというミニ課題から始まりました。各グループで考えたアイスブレークを発表し、一番投票の多かったものを実際にやってみるというもので、発表はもちろん英語のためみんな戸惑いながらもユニークなアイデアを出していました。
結果的に各グループ内でラップ形式で自己紹介し合うという難易度が高い案が選ばれ、みんな開き直りながら楽しく実施していました。

講義とディスカッション

Judah先生の講義では、彼のサービスデザインの経験に基づいた内容が展開されました。独特なものとしては、刑務所や囚人に関するリサーチで用いられた「Big Data / Small Data / Warm Data」という概念です(ソフトウェアの世界でいうBig Dataと微妙に異なる意味であったため少し混乱もありました)。
これは、統計的に得られた量的データ(Big Data)、インタビューなどで直接得られた質的データ(Small Data)、そして客観的な事実に基づくデータ(Warm Data、例えば囚人たちが好む音楽や言葉遣いなど)を指します。

また、囚人に対する尊厳についてイギリスの刑罰の歴史から紐解いていったり、クラフトマンシップの観点からサービスデザインはマスプロダクションではなく人同士の関わり合いによって独自性のあるものへの形作られていくといった内容をInHouseの経験から話されていました。

このような講義とグループワーク、Judah先生からのフィードバックを踏まえて最終発表に向けてのレスポンスを形にしていきました。私たちのグループでは「自己肯定感」をテーマに選び、適度な自己肯定感を維持するためのフレームワークを考えたり、社会的処方の概念を取り入れてみたりしながら、現状と解決策を寸劇で表現しました。

Judah先生のInstagramより最終発表の様子

デザインの役割

冒頭でソーシャルイノベーションの定義を引用したManziniは、デザインの専門家・非専門家、問題解決・意味形成という軸からデザインモードという概念を提唱し、デザインの意味や対象が拡大している現代において、私たちデザイナーがどのように社会に貢献できるかを問いかけています。

デザインモードマップ
「デザインモード」の時代を生きる』よりデザインモードマップ

ツールの進化や生成AIの台頭もある中で、いわゆる「デザイナー職」として何ができるのかを改めて考えていかなければならないと感じるワークショップでした。

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