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ママン、いるだけでいいんですよ

「私の血を引いていれば、子宮なんてピンピンしているはずなのに…」
母は肩を落とした。
私は不育症と高齢で子供を持てず、妹は卵巣のう腫で手術して子宮腺筋症と診断されている。女二人姉妹なのに二人とも子供を持てずにいる。
私は紆余曲折の末明らめてから、心身共にスッキリと毎日過ごせるようになった。妹は仕事人間で、周りは独身ばかりで集まって実に楽しそうに過ごしている。「子供は…いいかな。」とクールに言うが、実際の本当の本当のところはどうなんだろう?もう、後2.3年で年齢的には限界だろう。
子宮腺筋症とは悪性ではないモノの、生理が続く限り進行し続ける。閉経迄乗り切ればその後は役目を終えると共に症状も無くなる。閉経までの進行が早く乗り切れなければ、子宮を取り除く手術をせねば治らない。原因は分かっていないという。母のパーキンソンといい、妹の腺筋症といい、原因の分からない病気ばかり付きまとう家だな。
平日は会社近くに部屋を借り、週末には母のいる家に帰ってくる妹。週明けいつものように出社してから数日たったある日、LINEには出来れば迎えに来て欲しいとの連絡が数件。一時間ほど充電器に入れたまま気づかずにいた。
数か月生理が来ないことが頻繁で、今回は4ヶ月ぶりにきたらしい。その量も多いが、子宮内で炎症が起きて腹痛が酷く、吐き気をもよおして止まらないようだった。
これは2月頃にもあった症状だった。何か口にすれば水でさえ吐き戻してしまう。兎に角、薬を…といつも診てもらう婦人科へと行くが、吐き気があるなら内科へ行ってほしいと回されてしまった。以前、胃腸炎になった時に診てもらった町医者にお願いし、痛み止めと吐き気止めをもらったというそんな経緯があった。
急いで妹のいる所へ駆けつける。とは言っても車で小一時間ほどかかる。全く、私はこういう時のために生きているのではないかと思うほど、家族の中でのこういう時の役目は私になる。母はパーキンソンで固まりかけているにも関わらず、ついてくると言う。いつになってもどんな状況でも母は母なのだな…と思ってしまう。
妹の所に着くと、
「私が行く!」
こわばりの解けた母が小走りで走って行く。しばらくすると落胆した様子で戻ってきた。
「私じゃ無理だった。倒れ込んでる…。」
まるで無力の幼子だ。
部屋に入るとムッとした空気の薄暗い部屋で、妹はうな垂れていた。足に力が入らず、次に来る吐き気に備えていた。とりあえず、まとめかけてあった荷物を作り、ガスや電気などの戸締りをして、妹を抱えた。これは、細身の母には無理だった。
「ありがと…助かる…。」
死にそうな声でフラフラと歩いた。体が小さくて遊ぶ時はいつもゴマメ(一緒に遊んではいるが頭数には入っていない小さな子の子とをそう呼びましたよ。)で、雷と虫が怖くてビービー泣きじゃくっていた妹を思い出した。いつの間にか私より背も伸びて、がっしりした妹の体には力が全く入っていなかった。
2月の時の教訓で、今回は初めから内科へと急いだ。吐き気止めの注射をしてもらったがすぐにもどした。優しそうだが少し頼りない若い医師は、不安になったのか、大きな病院を紹介するから診てもらう方がいいと言い出した。10分ほどの所にある病院で、父の時に知ったダメ病院の中には含まれていない病院だったので行くことにしたが、検査検査と更に1時間の時間を要した。診察結果は腺筋症の影響で炎症を起こし、赤血球の数値が上がっているから、婦人科で診てもらう方がいいとのことだった。ですよね。そうだとは思いました。妹は症状と検査検査でもうぐったりしていた。
漸くうちに戻って休んだが、薬が切れると吐き続けた。次の日、薬をもらう為婦人科へ行ったが、腺筋症は上手く付き合っていくしかないと言われて帰って来た。
多分、腺筋症はお医者さんからしてもどうしたものか…という微妙な病気なのだろう。内分泌科や内科でも診てもらえるらしい。でもしかし。回され続ける身にもなって欲しい。…と誰に言うでもなく妹の代わりに叫びたかった。
「もう少し若かったら、私が出来たのに。こういうことがあるといっつもあんたにしわ寄せが行くな…。」
母は母で役に立てないと自分を責めている。
「ほれほれ、落ち込んどる暇ないよ。お粥さん炊かなあかんよ!」
と叱咤激励した。
「まだまだ死ねないね。」
とうっすら笑った。
家族とは面倒で厄介だ。鬱陶しかったり腹が立ったり。家族というだけで背負わされるものも多々あって、逃げ出したくなる時もある。だけど、ただいるという、その存在が訳も分からず頼りになる時もあって、物理的に助けにならなくても助けになる時がある。その逆で、誰かの助けになることに自分の存在意義を見つけることもできる。老いていく時にそれがあればなお良いと思う。家族とは本当に、厄介だ。いづれ厄介な家族がいなくなるから、私も妹もゆくゆくひとりになる。私には夫がいるが、どうせ私の方が長く生きる。(と思う。(笑))気が楽だし清々するけど、ほんの少し寂しいな。いや、意外とひとりを楽しんでいるかもしれない。いや、楽しめばいい。それをするにはやっぱり健康でいなければなるまいな。
妹は3キロ体重を落としてまた仕事に出かけた。
「激マズです。」
と添えられた写真は豆乳ラテだった。嫌いな豆を食べることにしたらしい。美味しいものもあるよとおすすめの写真を送り返しておいた。
私も以前は豆乳が苦手だったが、体が欲しているのか最近美味しく感じるようになった。女の人はホント、月とかホルモンとか年齢とか…振り回されるものが多くて困ります。
悠々自適なババを目標に、体を気遣っていかなくちゃ。


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