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風土によって生まれるお料理

地産地消とはよく聞くが、その土地で作られたもので、その風土によって生まれたお料理は、きっと何より御馳走だろうと思う。
家は比較的町に住んでいるので、特産品や郷土料理は目立ってない。
私のせめてもの地産地消は、家から30分のところにある農産物の直売所へ、月に何度か足を運ぶことだ。それでも、なかなか新鮮でおもしろい食材に出会うこともある。

少し前、NHKの語学番組でイタリア語講座を気に入って見ていた時がある。
別にイタリアに行く予定もなければ、イタリア人と接する機会もなかったのだが。ただ、チャンネルを変えている時に目についたイタリアの風景をみて、卒業旅行で大きなリュックを背負って女3人で旅したことが懐かしくなったのだ。とてつもない貧乏旅行で、失敗も多く大変な珍道中だったが最高に楽しかった。

イタリア語講座は、イタリアを旅しながら、フレーズを学んでいくという構成になっていて、案内人はバイオリニストの古澤厳さんとイタリア人のマッテオだった。かなり癒された。日本語もたどたどしい古澤さんが愛らしくて見入ってしまったのだ。あくまで、語学講座番組なので、旅番組の様に仕組まれた感じが無いのが逆に良かった。
ある日の講座は、観光地のアマルフィから船に乗り、アマルフィ海岸沿いにある小さな村を訪れていた。
すぐ目の前が海、魚介が豊富な町だった。レストランの店主がその日に採れた魚介類をバットに並べて、「食べてみるかい?」と古澤さんとマッテオに甘エビを勧め、葉の付いたレモンを輪切りにし、ギュッと絞って差し出した。いかにもイタリアらしく映った。アマルフィはレモンの栽培が有名なのである。反り立った崖に巻き付くようにレモン畑が連なっていた。番組ではレモンを使ったパスタやリキュールなどが紹介された。
レモンと並んで、小さなカタクチイワシを塩づけにして発酵させた、コラトゥーラという魚醤も有名ならしい。匂いは強烈なようだったが、見た目も作り方も実にシンプルなパスタだったが、魚醤の複雑な風味が美味しそうだった。
ツアーでは観光地しか連れて行ってはくれない。かと言って、自分たちで計画すると好きな時に好きなところへは行けるが、知り合いが居ない限り、危険も伴うのでそこまでディープな所へは行きにくい。やっぱり、マッテオのような案内人と共に、イタリアへ行きたい!一人じゃなかなかこんなディープな旅は出来ないものだ。と、グレてしまいそうだ。
そう思うと、『YOUは何しに日本へ?』に出てくる外国人は、逞しい。ただ、ラーメンを食べるためだけにやってきたりする。

その後のある日、他の番組でたまたま見た広島の漁師の行動に驚いた。
何の魚だったか忘れてしまったが、船の上で刺身に捌いた魚を、「食べる?」とナビゲーターに勧めた。旅番組でよく見る光景だ。すると、おもむろに取り出したのは、レモンだったのだ。こういう時、大体、日本の漁師だと醤油を取り出すのが常である。でも、その広島の漁師はレモンをかけた。アマルフィのレストランの店主が古澤さんに勧めたように。
イタリア人と一緒じゃない‼広島の日に焼けた漁師のおじさま方が、妙にかっこよく見えた。広島もレモンが有名なのだ。なるほど、海の幸とレモン、特産物が同じだとお国が変わっても食し方が同じになるんだ。不思議な感じだった。
そういわれてみれば、瀬戸内の雰囲気はアマルフィの雰囲気に似ているように感じられた。
もしかすると、コラトゥーラに似たものもあるのかもしれない…と検索したら、ありました!イタリア伝統のコラトゥーラを再現したもの…らしく、日本独自のものでは無いようですが…。そして広島ではなく、お隣の山口でしたが、瀬戸内繋がりです。どうやら、私が感じる随分前から、アマルフィと瀬戸内が似ていると感じた人は他にもいたようだ。
これはイタリアのものの再現ですが、日本には元々、発酵調味料が豊富だ。石川はイカで、秋田はハタハタ、香川はいかなごを使った魚醤がある。魚介でないのなら、醤油に味噌、最近注目の塩麴もある。
卒業旅行で、ドイツも周ったが、料理が口に合わずに困った記憶がある。甘いか塩味かで深みが無く感じられた。その代わり、ハムやソーセージ、あまり飲まない私でも、ビールは最高に美味しかった。イタリア料理が日本人の私の口に合い、美味しく感じるの、風土が似ていて、魚醤のような発酵調味料があるからだと思った。
アマルフィと広島の他にも共通点のある場所があるかもしれない。探してみるも面白そうだ。

イタリアへは行きたいけど、単純なので、広島に行くのも良く思えてきた。イタリアより現実味がある。それもすぐには無理なら、広島のコラトゥーラであの美味しそうだったパスタを作ってみなければ…。
本来は、その土地へ行き、その風土に触れ、風を感じながら料理を頂くのが最高に美味しいと思う。間違いない。でもそれが叶わないなら、家に居ながらにして、広島やイタリアを楽しむのも楽しい。シンデレラ的発想。
それには、行きたい土地独特のディープな料理と想像力が必要。

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