ジーンとドライブ vol.10



前回のつづき…

とにかく非日常の場所へ連れていく!そのミッションを遂行するために、いささかペテン師のような戦法「海外か日本かどっちがいい?」というYESの二択で、行先はすんなり日本と決定した。日本となれば行先はすでに決めていた。小笠原諸島だ。東京から船で丸々一日。行ってしまえば帰りの船は三日間出航しない。何とも辺鄙な場所なのだが、東洋のガラパゴスと呼ばれる豊かな自然とイルカがいる。

そうと決まれば、ジーンの気が変わらないうちに急いで準備をしなくちゃならない。夫婦で無職生活は一年あまり過ぎていた。もう時間はない。焦る気持ちでツアーの予約のボタンを押す。後は当日を待つばかり…のはずだった。
台風だ。私達が旅行を計画したのは夏の終わりで、台風の発生率の高い時期だったのだ。流石は嵐を呼ぶ私。しかも、小笠原諸島はほぼほぼ毎回台風の通り道であり、台風の雨風の影響で船はその度に欠航となる。
私はツアーをキャンセルせざるを得なかった。うな垂れる私を横目にジーンは不敵な笑みを浮かべている。この顔は絶対に胸を撫で下ろしている顔だなと胸がキューっとなっていると電話が鳴った。
「台風で行けないわね?」
義理の母だ。小笠原へ行くことを知ってからしょっちゅうだ。行かせたくないのである。
「昔は島流しにされた人が行くようなところよ!」
「丸一日船だなんて!」
「台風がくるみたいよ!」
そうやってあなたは窮屈な箱にジーンを閉じ込めてきたんだな。負けない。負けたくない。
台風と義母の電話攻撃とジーンの『行きたくないオーラ』と…。
私の思いを前に立ちはだかるモノが多すぎてやっぱり負けそうになる。でも、あきらめるわけにいかない私も意地である。

ギリギリの予約ができない為、ツアーを辞めて船と宿泊先、アトラクションツアーの予約の全てを自分で手配することにした。
台風に喜んだというのに、私がまだ諦めずに準備している事が気に入らないジーンは、何かにつけて喧嘩を吹っかけてくる。無理くりに私を悪者にして
「俺は行かないからキャンセルしとけよ!」
と、言い出す始末。それでも私は意地を緩めなかった。

「こんなに時間があるうちに、なんでもいいから行ってみようって。こんなこと普通ないし。行ったことないところへ行って、見たことないもの見て、やったことないことをやってみようよ。」

「行きたくないし、見たくない。そもそもやりたいことなんてない!それに、今時ネットや本で十分知れるしな。」

「いやいや。自分の目で見てみなくちゃ分からないことだってあるよ。百聞は一見に如かずっていうし。そんなんじゃ、井の中の蛙になるよ!」

「井の中の蛙で結構です!」

二人とも深くため息をついた。
井の中の蛙で結構…か。蛙は空の青さを誰よりも知っているってな。あえて、遠い辺鄙なところへ行く必要ないのかな…と私は思った。
ジーンのため息は何のため息だったんだろう。
そして次の週も台風が来た。
電話が鳴ったがもう出なかった。

私は諦めた。本人がその気じゃないのに行っても無駄だ。何か楽しいことがあるかもしれないと思うからこそ、楽しい奇跡が起きるのだ。塞いだ気持ちで行っても奇跡は通り過ぎるだけだ。
数日後、すっかり日常に戻り、小笠原諸島の『お』の字も言わなくなった私にジーンは尋ねた。

「準備出来てるの?」
「ん?行かないでしょ?なんか疲れちゃって。もういいかなぁって。どうせ今週も台風でしょう。」
「行ってみないと分からないんと違うの?台風は分からないけど、一応予約取っとけば?行けるかもしれないやん。」
「・・・・・」

出ました。あまのじゃく。どないやねん!と文句を言いたいところをグググっと抑え、手際よく全ての予約を取りつけた。
何せ三度目ですから慣れたものです。
三度目の正直で漸く旅に出た。

ごめんなさい。またまた次回へつづく。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

貴重なお時間と"スキ”をありがとうございます!感謝♥
23

cheka

ジーンとドライブ

うまく笑えないジーンとの人生のドライブのエッセイ。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。