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未来思考スイッチ#05 「土俵を変える」、新しい領域の見つけ方

4象限マトリクスは便利なツール。

『未来思考スイッチ#04』では、家事を4つの流れに整理してみました。4つを並列に書いてしまうとわかりませんが、共通する軸を見つけてまとめ直すと、それぞれの関係に動きがあることに気づきます。ここでは4象限にくくり直してみましょう。

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まず、上下軸には、「無くならない家事」と「生まれてきた家事」の対比、左右軸は「やらなくてはならない」と「やってみたい」の対比で設定しました。左下の①は「無くならない家事」×「やらなくてはならない家事」の場所です。毎日の洗濯や掃除、買い物など、忙しい人にとっては簡易化したい家事であり、効率よくしたい、誰かに任せたいと思うニーズが生まれてくる場所ですね。

一方、右下②の「無くならない」けれど「やってみたい」と思う家事は、気分転換なったり、健康や美容などの効果を感じたりする、楽しくワクワクさせる領域です。積極的に取り組みたくなるようなニーズが潜んでいます。

次は、左上③。新たに「生まれてきた家事」と「やらなければならない」の場所には、現代ならではの資産運用や子育ての悩み、健康の悩みがありそうです。専門知識や専門スキルが求められることもあり、なんだか難しくてよくわかんない、とあきらめがちな家事の領域かもしれません。

最後は、右上④です。「生まれてきた家事」であり、ぜひ「やってみたい」と思えるような領域です。リモートワークが進み、在宅の時間が増えたことで、ガーデニングや家庭菜園、快適なインテリアのニーズは高まっています。フリーマーケットやオークションなどの新しい商習慣もこの領域と言っていいでしょう。

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このように、並列だった4つの流れが、2つの軸で整理されたことで、各々の本質が理解しやすくなってきたと思いませんか。

土俵を変える発想法 その1

4象限マトリクスは整理するためだけのものではありません。今の象限から異なる象限を目指すことで、新しい発想を生み出すことができます。今回は「掃除」を例に取りながら、考えていきましょう。

左下の象限に入るものを従来の掃除機としましょう。一般的には、掃除は面倒な家事、できれば減らしたい家事だと感じられているので、多くの掃除機は生活者の負担を減らすために、使い勝手や効率性を追求してきました。このニーズを反転させ、「やってみたい掃除とは何か」を考えていくのです。すると、「筋トレになるような掃除機」を考えたり、ものすごい吸引力で「爽快感を感じるようなスペック」を施したり、軽くて持ちやすく、動きやすい掃除機で「高い場所も楽に掃除ができる機器」のアイディアが出てくるかもしれません。道具を使いこなせるようになると、使う楽しさが出てきます。使いこなしは大事なデザインキーワードです。更に、家事は孤独な作業だと言われますが、家族で協働や分担できる工夫を考えると、会話が増え、掃除が良いコミュニケーション機会になるかもしれません。

私の身の回りでは、「自分のオフィスや町は自分たちで掃除した方が良い」と言われます。それは、掃除をすることで気づかなかったオフィスや町の変化に気づき、それがヒントとなって、新しいアイディアやチャンスが生まれてくるという考えを持っているからです。掃除は汚れた空間をキレイにするという「マイナスをゼロに戻す」ものと捉えがちですが、掃除で受け取れる効用を考えていけば、今までにない掃除の分野を見つけることができるかもしれませんね。これがアイディアでビジネスの「土俵を変える」という意味です。

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土俵を変える発想法 その2

次は、「新しく生まれてきた掃除」を考えてみましょう。掃除で取り除きたいのは目に見えるゴミだけではありません。見えない小さなダニや虫の死骸、花粉などはアレルギーの原因となり、現代ではとても深刻な問題です。感染症などが今後も継続していくとすれば、除菌対策は日常化していきます。このような目に見えない脅威への対処ニーズは高まる一方です。今後は、菌やウィルスへの新たなセンシング技術などが期待されるでしょう。

見えない菌やウィルスは「外からやってくるもの」と考えれば、その水際対策が重要となります。家庭の場合は玄関が最重要な場所となるでしょう。家族が帰宅した際、菌やウィルスを部屋に持ち込んでほしくありませんから、「玄関で衣類を脱ぐ」、「衣類の表面を掃う(はらう)」という対策法はすぐに思い浮かびます。加えて、コートなどの外出用衣類は玄関で着脱するとともに、コート掛けで洗浄ができるような機能もニーズが高そうです。このように視点を変えていけば、「掃除へのニーズ」が拡がりを見せ、今までにない「掃除の概念」に気づき、発想も自ずと変わってくると思います。

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土俵を変える発想法 その3

最後に、「新しく生まれて」、「やってみたい」という右上の象限について考えてみましょう。現在の状態が左下の場合、いきなり右上を発想するのはとても難しいと思います。なぜなら、右へ進化させる段階と、上に進化させる段階の2段を同時に進めるからです。ですから、ここでは慌てずに「右に入り、上へ攻める」、「上に入り、右へ攻める」という2つのルートで右上を目指していきましょう。

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まずは「右に入り、上へ攻める」から。先ほどの分析では、右下は「運動」や「健康」、「心の満足感」など、「掃除」によって新たな効果・効能が生まれる領域でした。これに「これまでになかった掃除」をイメージすると、皆さんはどんなアイディアが浮かびますか。

私の場合は、ゴミそのものを出さない暮らし方、モノを買う時にはそれを手放す時のことまで想定しているような行動がイメージされました。例えば、良い品物を買って大事に使う、一生使うつもりで民藝や職人による工芸品を積極的に取り入れていく、使い込んでエイジングを楽しめるような素材をあえて選ぶ、などです。たくさんのモノを所有するのではなく、上質なものを使い込む方が生活空間はスッキリと片付きやすいはずです。「掃除がしやすい暮らし」を、所有という観点から見直すイメージでしょうか。もし手放す時があっても、良いモノは次の所有者にとっても価値あるものです。購入した時よりも価値が高まることもあるでしょう。まさに「循環型社会」と「掃除の未来」を考えているような大きな視点に立てると言えます。

次に、「上に入り、右へ攻める」を見てみましょう。左上には「目に見えない脅威への対処」や「玄関での掃除」など、新たな取り組みが必要になっていると述べました。これらは、決して「やりたい家事」ではありませんので、これを右の「やってみたい」に変えていくことがこのルートです。

皆さんは「常在菌」というものをご存知ですか。人間の肌、皮膚表面や毛穴にはたくさんの「常在菌」が生息していて、その数、数百億個と言われます。これらの「常在菌」は、皮膚を守る良い働きをしているものも多いそうです。例えば、「表皮ブドウ球菌」と呼ばれるものは、肌に潤いを与えるグリセリン関連物質を分泌し、肌荒れを引き起こす菌を退治する抗菌ペプチドを生み出すそうです。「常在菌」が、私たちの肌を守っていると言えます。

ところが、私たちの今の暮らしは、石鹸でからだを洗うことが当たり前ですし、さらに「除菌」への意識が高まっているため、どちらかと言えば、身の回りの菌をせん滅させる方向に向かっています。私たちは本来、自然に暮らしながら、健康で美しくなっていくことを望むはずですから、今後は「除菌」一辺倒な傾向に見直しがかかるかもしれません。

からだの中の菌として、腸内フローラが見直されているように、からだの表面の菌も見直されてくるでしょう。そして、住まいの中の菌、屋外の菌、自然環境の中の菌など、目に見えないから扱いが難しい対象を、センシングで見える化して、活かしていくことが未来の技術により可能になるかもしれません。

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そう、掃除の未来は「ゴミを取り除く」から、暮らしの中の大切なものが「大事に育つ」ようにサポートし、キレイな状態が「自然と整う」ように調整していくものと捉え直してはいかがでしょうか。

以上、4象限マトリクスを用いた発想法をご紹介しました。ここでのアイディアは私個人の意見です。皆さんならきっと、もっと豊かなアイディアを発想してくれるでしょう。是非、『未来思考』にスイッチを入れる参考にしてください。

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