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#9 論文を書くときに注意していること(stand.fm配信用原稿)

(これは、stand.fmに開設した「kazの研究室ラジオ」の配信用原稿です。音声配信については、以下のstand.fmの僕のページから聴いていただけます)

01 あいさつ・番組紹介

(この番組は、とある地方の私立大学で教員をやっている僕、kazが大学教員や研究者としての視点から、日々の生活や、いつも考えていること、たまに学問的な関心や学術的なことなどをマイペースに発信していく番組です)

02 本編:論文を書くときに注意していること

・先日、投稿していた論文の審査結果が返却されて、いろいろと修正するよう、指示がありました。

・学術誌に投稿した論文は、たいていの場合、一回でそのまま掲載となることはほとんどなくて、審査結果に基づいた修正意見を反映させてつつ、何度も修正原稿を送って、何度も審査があって、それを通過したらようやく掲載となります。

・今回もいろいろな修正意見が来たので、これからしっかりとそれに応えることができるよう、ブラッシュアップしていきます。

・そんな作業をしているところなので、今回は「そもそも論文ってどうやって書くのか?」ということについて、少しだけお話ししたいと思います。

・僕がここでお話しするのは、おもに歴史研究で論文を書くときに、最低限注意が必要なことだけを取り上げます。

・論文の書き方は研究分野によって、同じ人文系や社会科学系でも異なったりしますので、あくまで僕の専門分野に限って、ということで考えてもらえたらと思います。

・ただ、まあ、個人的には論文といっても、基本的なことは、文章を書く時の定型である「起承転結」に気をつけましょうというところに尽きるのかなと思います。

・特に、「起承転結」の「起」にあたる「はじめに」と、「結」にあたる「おわりに」は、いろいろと気をつけます。

・まず、「はじめに」では、論文で検討する課題について書くのですが、ここで気をつけるのは、先行研究のなかにどうやって自分の研究を位置づけるのかということです。

・よくある失敗が、自分だけの課題意識が強すぎて、そのことばっかり書いてしまって、それがこれまでの研究や他の研究とどう関係しているのかがわからないというものです。

・自分の課題意識が強いというのはいいことですけれど、論文は公表されて他の人たちとの「共有財産」になるものですから、その課題意識がこれまでの研究の蓄積や知見とどのようにつながっていて、その課題の検討・解決がどれほど必要なものなのかがわかるように書かないといけません。

・その場合、ただ単に、「今までの研究では取り上げられてこなかったから、自分はこれを取り上げるんだ」と書く人もいますが、それだけでは自分の研究を位置づけたことにはなりません。

・なぜなら、「今までの研究では取り上げられてこなかった」ことには、必ず何らかの理由があるはずだからです。

・もしかしたら、今、自分の研究でやろうとしていることは「研究として取り上げる価値のないものだから、今までの研究では取り上げられてこなかった」だけなのかもしれません。

・なので、自分の研究がこれまでの研究との関係のなかで、どのような位置にあるものなのかということを、その理由も含めてきちんと書いておくことが、自分の研究を客観的に捉えるということになりますし、他の人たちにも適切に自分の研究の価値や意味を伝えることにもつながります。

・自分の研究がいくらオリジナリティあふれるものであったとしても、それが自分よがりのものではないということをちゃんと説明できていないといけないんですね。

・それが「共有財産」としての論文に必要なことだと思います。

・また、そのような形で書いた「はじめに」と、「起承転結」の最後である「結」の「おわりに」の部分は、ちゃんとつながっていないといけません。

・具体的には、「はじめに」で書いた課題意識をちゃんと回収した「おわりに」になっていないといけないということです。

・論文というのは、ある課題があって、その課題について検討するプロセスがあって、最後にそのプロセスに基づいた結論を得る、というのが基本的な構成です。

・まさに、「起承転結」が一直線につながっているということが大切です。

・なので、「はじめに」に書いた課題の範囲のなかで検討をしていって、その検討に基づいて導き出された結論がどのようなものなのかということを「おわりに」には書かないといけません。

・逆にいえば、はじめの課題意識とそれに基づく検討内容にかかわること以外のことを、「おわりに」のところに書いてはいけません。

・よくあるのが、はじめの課題意識のところに書いていなかったことを突然「おわりに」で書いちゃうとか、逆に課題意識とは関係のないまとめになってしまっているとか、あるいは単なる感想で終わっているとかいうことがあります。

・これは全部、論文の形式を外れたものになりますから、論文とはいえない文章になります。

・論文はある課題を検討・解決するために書くものですから、課題があって、それを検討して、結論を得るという基本の形を外れないようにしないといけません。

・この基本的な部分さえ押さえていれば、少なくとも「論文になってない」というレベルからは脱して、あとは内容のレベルの勝負ということになると思います。

・と、偉そうなことを言っていますが、僕もときどきこの基本形を充分に守れないときもありました。

・これはもう、たくさんの論文を書いて、経験を積んで、自分の意識を高めていくしかありませんね。