社会を変える民主主義とは何か
室橋祐貴氏の『子ども若者抑制社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書、2024年3月)を取り上げたい。
この本の出版は、いわゆる日本版選挙村、デモクラシー・ユース・フェスティバル2024(3/24、3/25、駒沢公園)の際に知り、その後購入したものである。
このイベントの主催が日本若者協議会で、その代表が室橋氏である。(トップの写真の男性が室橋氏。)
室橋氏とは、市民アドボカシー連盟の勉強会で言葉を交わした記憶がある。
日本若者協議会の要望書手交の写真等は、よく新聞紙面やネットニュースを飾っているが、私としては、室橋氏は、研究者であり、実践者であり、アドボカシーの日本での達人であるという印象が強い。
最近の事例として、日本若者協議会の「日本版気候若者会議2023」の提言について触れたい。2024年2月2日の参議院本会議で、山口那津男議員は、「先日公明党は若者代表の皆さまから政策提言をいただきましたが、若者の環境意識は非常に高くその声をしっかりと政治に反映させていくことが重要だと痛感しました。(略)政府の気候変動対策の政策決定プロセスにおいて、代表たる若者の意見を積極的に取り入れるべきです。」と問い、岸田首相から、「2021年度地球温暖化対策計画の策定にあたって若い世代からもヒアリングを行いました。次回以降の取り組みプロセスにおいても積極的にそういった若者の声を聞いてまいります。」との答弁を得ている。熟練の政策事業家である室橋代表の、ドボカシーの成果と言えよう。
写真で取り上げた、デモクラシー・ユースフェスティバルも、欧州の選挙村の視察経験、知見を基に、日本でもそういうものができれば良いなぁ、ではなく、それを実現してしまうのであるから、その行動力には大いに頭が下がる。
本書は、様々なデータを基に考察を行うとともに、欧州の事例等を現地視察を基に詳しく紹介する等しており、多くの知見を得ることができる優れた書である。
ただ、それに留まらない。本書の一番の魅力は、室橋氏の考えによる日本の民主主義をとりまく状況の的確な分析と端的な記述である。私が日ごろ思っていることの多くの部分を見事に言語化してくれているのである。
「はじめに」で室橋氏は、安倍元総理銃撃事件や岸田総理襲撃事件を取り上げつつ、次のように述べている。
室橋氏は、「こうした暴力を防ぎ、日常的に変化を起こしていくために必要なのは、民主主義の強化であり、若者に権限を与えていくことである。一部の人たちだけで勝手に決めていくのではなく、対話を通して、様々な人々の課題や不満を日常的に解消していく。そして、新しい価値観を持った、これからの社会を担う若者が意思決定に参加できるよう、権限を渡していく。」と続ける。
若者に権限を与えていくことが必要だということに異論はない。ただ、それ以外に、大人の一般市民にも、政治へ関心を持たせ、様々な取組みへの参加を促すことも大切と私は考える。立法過程論の研究の発表や、茅ケ崎市において、市議会議員と一般市民の、月1回の懇談の会を開催する等の運営に参加したりしているのは、その実践でもある。
室橋氏は、「子どもは大人の言うことを聞くだけ、といった旧態依然とした学校の姿が根強く残っている。結果的に、自分の意見を積極的に言う人は少なく、「生きる意味」がわからない、目立ちたくない、リスクを背負いたくないという空気が充満している。そんな若者にとって抑圧的な日本社会を変えることが今最も必要な日本の処方箋である。」とする。
確かにそうだが、そういう若者が大人になって社会にあふれているのも事実である。この30年、日本では、コストカットだけが善であるような風潮の中で、様々な取組を無駄なものと切り捨て、イノベーションへのチャレンジさえ、得意げに切り捨てて、それを上手く行えた者が勝者、正義の者と勘違いし、世界の進歩に大きく置いていかれてしまったのである。(大人として、その一因を担う自分としても)大いに反省し、痛みを伴っても、目立って、積極的に発言し、行動する者を善とするような社会の構築を行うことが、教育の場に留まらず、社会全体で必要な処方箋であると言えよう。
※議会制民主主義にフォーカスした研究誌が欲しいと考え、仲間と作った『議会制民主主義研究』第1号、Amazonで好評発売中。
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