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2022年観劇日記 その3

オタク特有の長文語りが続いたせいで延長に延長を重ねた2022年観劇日記も、今回でラストになる。
ちなみに今年の生観劇は宝塚月組さん2回と、瀬戸かずやさんライブ1回と、マームとジプシー1回のみ。他はすべて配信だ。地方住まいなので遠征できる回数が限られるのもあるが、そもそもチケットが取れない。友会抽選10連敗なんてざらである。それでもこの何かと不安定な世の中、観劇できるだけでもありがたいと思うばかりである。

①宝塚歌劇団月組「グレート・ギャツビー」

月組公演 『グレート・ギャツビー』 | 宝塚歌劇公式ホームページ (hankyu.co.jp)
チケットを取っていたのだがすべて吹き飛んだ公演である。
仕方がないのは分かりきっていたが、期待値が高かった分(古典新訳版の原作で予習していたレベル)立ち直るまで時間を要した。なので大劇場・東宝公演ともに千秋楽を配信でじっくり観劇することにした。
このグレート・ギャツビー、小説版を読む限りでは良く言えば多様な解釈ができる、悪く言えばトンチキ感満載な作品だ。登場人物たちの設定はしばしば変わるし、突然キーパーソンっぽい人が湧いたかと思えば消える。小説に「秩序」や「教訓」を求める高尚な方々は発狂するかもしれない。ただ、随所に見られる人物や風景の描写はとても「えもいわれぬ生々しさ」があり、今風に言うならば「エモーショナル」な作品といったところか。
エモーショナル(というかだいぶ受け手の感覚に頼ると言ったら良いのか)作品である分、役者や舞台装置で表現する場合にはどうなるんだろうと思っていたが、いざ観劇してみるとしっかりと「宝塚のミュージカル」になっていた。というのも、ところどころ演出は「宝塚向き」な内容に変えていて、原作のトンチキ感もだいぶ和らいでいた。

おもな登場人物への感想は以下のとおり。
〇ギャツビー:月城かなとさん(れいこさん)
小説版ではエモさばかり際立っていたが、だいぶ人物像がはっきりしていた。絶対泥水すすって生きてきたわこの方。
れいこさんは人間の内面をそれとなく、かつ明瞭に芝居で表現するのがめちゃめちゃに上手いが、その技術がかなり生きて(というかそれができないと成立しない)いた。まあヤバいストーカーしても真っピンクのスーツ着ても美しさをキープできるのはれいこさんくらいしかいないと思う。あと最後にフィナーレC(娘役さん引き連れるやつ)→フィナーレD(男役群舞)でガラリと表情変えてきたところにグッときた。そういうところやで!!
〇デイジー:海乃美月さん(うみちゃん)
小説版では何を考えているのかさっぱり分からず、同情できん人だと思っていたが、本公演では彼女が何故こんな人間になったかということを、何となくだが理解することができた(過去編のシーンもあったからかな…さち花お姉様やおはねちゃんの演技で浮彫になったところもある)。
うみちゃんは「人生を重ねてこういう人間になりました」という説得力のある演技をされるので信頼感がすごい。娘役さんとしてを通り越して、役者さんとして本当に尊敬する。大好き!!
〇トム:鳳月杏さん(鳳月お兄様)
本作品の大きなテーマとして「社会格差」があるが、トムは圧倒的上流階級で「生まれながらにしてあらゆるものを選べる側」の人。小説版との印象は結構近かったかも。どこで買ったん?なペッカペカスーツ着ても不倫しまくっても「仕方ないわね」と言われるのはお兄様だけ!
クソ野郎感が強いが、トムはもうそれがスタンダードだと刷り込まれている、というのが良く分かったので不快さはなかった。あと歌唱指導とフィナーレDのれいこさんとの絡みはいけない。ヅカオタ全員抱かれてると思う。
〇ニック:風間柚乃さん(おだちん)
いわゆる「信頼できない語り手」かつ作品中トップクラスに良識のある方。おだちんさんは細部までとても丁寧なお芝居をされるし、舞台全体を俯瞰して動ける方だという(勝手な)信頼があるので、今回のお役はとてもぴったりだったと思う。みちるちゃんasジョーダンとの絡みも最高だった。またやってください。
〇ジョージ:光月るうさん(光月組長)
劇団ポスターには載っていないが、この方がいないと本作品は語れない。ジョージは「社会格差」を語るうえでトムとは正反対の位置にいる圧倒的下流階級で「少ない選択肢しか持てないうえ選ぶ行為さえ制限がある側」の人。ちなみにギャツビーは「ジョージ側からトム側にワープしようとした側」の人なので、そもそもジョージがいないと作品が成り立たないのだ。
非常に重要かつ難しいお役だったが、さす組(さすが組長)、圧倒的力量でやってのけていた。前半のしょぼくれ感から後半の慟哭、そして「無敵の人」への変貌。何がすごいかって、声質とか身振り手振りの基本的な部分は作品を通して一切変えていないこと。じゃあどこを変えていたのかというと、私には正直分からない。真の芝居巧者にしか持てない何か(それこそ念能力に近いんじゃないか?レベル)があるのかもしれない。
〇ウルフシャイム:専科・輝月ゆうまさん(まゆぽんの伯父貴)
劇団ポスター(以下略)その2。現役スターさんトップクラスの「男役というよりもはや男性では?」な風貌と所作を持つまゆぽんの伯父貴。いらっしゃるだけで舞台の質が格段に上がる最強の男役である。ウルフシャイムはギャツビーが「ジョージ側からトム側にワープしようとした」ことに大きく関わる立場なのもあり、圧倒的な存在感だった。

このほか、本公演で退団された夏月都さん(この方も基礎力激高なのよ…声・手足の出し方すべてが美しく自然)、信頼と安心の蓮つかささん(まゆぽんの伯父貴とタイマン張れる男役!こちらもブックマーク買いました)、雪組からようこそ!な彩海せらさん(芝居も上手いけど第2幕冒頭のフォリーズでの輝きがすごかった。これがスター…)にも目が釘付けだった。他出したらきりがないが、ゴルフ場とウィルソン家でのガヤ芝居は特に目が追い付かなかった。
生観劇したかったなぁ…本当にもう、コロナのバカ!!!!!

②宝塚歌劇団月組「ブラック・ジャック 危険な賭け」「FULL SWING!」

月組公演 『ブラック・ジャック 危険な賭け』『FULL SWING!』 | 宝塚歌劇公式ホームページ (hankyu.co.jp)
こちらは無事観劇できた。
「ブラック・ジャック~」は月組名物「上等なガヤ芝居」にあわせて「コロス」の活用があったり、抽象的な舞台装置を使ったりするなど、「冬霞の巴里」同様に外箱公演ならではの旨味満載でとても良かった。今年観た「ブエノスアイレスの風」もすごく好みだったが、どうやら私は正塚先生のお芝居と相性が良いらしい。
それにしても11か月ぶりの生観劇は本当に体に滲みた。れいこさんのクソデカ美声を直々に浴びられたのもあるし、映像では分からない細かな演出やスターさんたちの工夫にもよく気づく。あとやっぱり芝居の上手さ(というより基礎力の高さ)は生観劇すると如実に分かる。
さらにやっぱり推しは増えた。ヒャッハー系バカ(ひどい)を演じる朝霧真さん(先日退団を知って激落ち込みした方その2)のやたら解像度の高いお芝居、ピノコちゃん役の美海そらさん(ピノコ語、良く噛めずにしゃべれるわ…)の短いシーンながら圧倒的存在感などなど。それとえらく丁寧な所作をする可愛い靴磨きさんがいるな!?と思ったら研2の華羽りみさんだった。下級生さん方のご活躍は生観劇の方がたっぷり味わえるのだ。
「FULL SWING!」は大劇場公演のリメイク版。鳳月お兄様もありちゃんさんもみちるちゃんもいないのにどうなる?!と思っていたら、想像を超えて良い感じにまとまっていた。大劇場で冗長では?と思っていた部分が削れているところもあり、個人的には全国ツアー版の方が好きかもしれない。
ちなみにジゴロ役は鳳月お兄様からおだちんさんに変わっていたが、前者は「若い頃それなりに苦労して今の地位に付き、派手な生活しながらもお世話になったスナックには週1で通う」タイプのジゴロで、後者は「実家が極太であらゆるカーストの上位に立ち続け、最近悪い遊びにも手馴れてきた」タイプのジゴロだった。その辺の解像度が高いのもさすが月組である。

おわりに

結局また3,000字超えとるやないか!! ※芳田はnoteで記事を書く際、2,000字に収めようとするルールを設けていました
観劇日記では宝塚のことしか書いていないが、今年はそのほかでもお芝居や映画、ドラマ、小説、漫画など、たくさんの良作に出会うことができた。
映画ではハリーポッター知識が20年前で止まっている中で観た「ファンタスティック・ビーストシリーズ」がなかなかにオタク好みな感じ(愛され系三枚目おじさんとか夢女生産型イケおじさんとか出てくる)で楽しめたし、ひょんなことからBSプレミアムで観た「ヒトラー 〜最期の12日間〜」は今の殺伐とした世の中に通じる部分がたくさんあって、考えされられつつ背筋が凍る内容だった。
ドラマでは大河ドラマ「鎌倉殿の13人」がぶっちぎりで面白かった。笑いあり涙あり邪悪あり裏切り超ありのストーリーと舞台作品のような雰囲気もあって、飽きることなく楽しめた。小栗旬さんas北条義時も、小池栄子様as北条政子も、回を重ねるごとに「執権/尼将軍になっていく」お芝居が本当に上手だった。三谷作品によくご出演されているベテラン勢も安定の上手さだったけど、きづきさんas鶴丸・山本千尋さんasトウちゃんなどなど、若手俳優の皆様もお芝居がかなり光っていて見ごたえがあった。
漫画はアラサー芳田のバイブル「忍者と極道」が相変わらずアツいのはもちろん、同じ媒体で最近連載を始めた「平和の国の島崎へ」とか、同僚に勧められて読み始めてツボってしまった「僕とロボコ」が特に印象に残った。それと「応天の門」。こちらはもともと好きな漫画で、まさかの推し組で舞台化が決まりテンション上がりっぱなしである。2月がとても楽しみ!


というわけで、何とか観劇日記を年内に収めることができた。
来年はどんな作品に出会えるか、とても楽しみである。それと同時に「観劇日記2」でも書いたが、すべてのクリエイターが理不尽や暴力といった許されざるものから守られる世界が作られることを切に願っている。
私もnoteを初めて1年が経ったが、自由な創作をするための道具を少しずつではあるが手に入れられてきたかと思っている。多くの作品に出会う分、自分も多くの作品を生み出していきたい。

今年も大変お世話になりました。
皆様にとって、来年が良い年となりますように。   芳田


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