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46歳渡米で得たものについて(1)---トランプ、途中帰国、そして

ずいぶんと長いことnoteに書いてなかったです。。。
しかも渡米したとのことをほとんど書いていない。

「その経験はシェアしたほうが絶対にいい」

と色んな人に言われ続けてたんですが、帰国して一応責任ある仕事についたりして、しかも本なんかだしちゃったりして、全然noteに書く余裕がなかったと言い訳しときます。

で、先日久々にニューヨークに行ってきまして、やっぱ書いたほうがいいな、と思えたこともあり、キーボード叩いてます。

なんで帰国したのか

とりあえず、ここから始めましょうかね。
まあ、結果的に大学院を中退(正確には休学して時間切れ)したのですが、別に挫折したわけでもなんでもなく。複合的な理由です。

トランプ大統領爆誕という強烈な状況変化

まずひとつ目は、トランプ。
在学中の2017年にトランプ大統領が誕生しました。これは、結構な衝撃でしたね。生活が変わったりとかは別にないのですが、移民にとって最大のインパクトは「ビザが取れなくなる」ことです。
学生ビザが取り上げられるとかは別にありませんが、就労ビザ取得が事実上不可能になりました。

実は僕、アメリカで就職する気満々でした。そのための第一段階としての大学院留学でした。トランプ大統領が誕生して、通算50個ぐらい無茶な大統領令乱発したのは記憶に新しいところですが、そのうちの一つは就労ビザの基準引き上げでした。
基本的に、大学院生はH1-Bと呼ばれる特殊技能職の就労ビザを取得することが前提で、アメリカ国内で就職することができます。就労条件として60,000ドル/年以上の給与で企業に採用されることが前提なのですが、2017年4月の大統領令によってこれが$150,000以上の就労条件者から優先的に発行する、ということになりした。言い換えると、年収2000万以上に相応しいタレントじゃないと、就労ビザの発給は事実上無理ということです。超高給取りではない(アメリカでは)けど、そう簡単にオファーしてもらえる年収でもありません。博士号持ってたりスーパーエンジニアとかならありえますが、米国内では高々大学院卒くらいしか実績がないわけですから、いきなりその金額で採用されることはほとんど無いでしょう。
ただ、就労ビザが発給されるまでの時限救済措置はあります。OPTビザと呼ばれるもので、 アメリカの学校を卒業後の原則2年間、H1-Bが発行されるまでの間暫定的に就労できるビザです。もともと発行まで半年から1年かかるビザなので、そのための制度として以前からあるものです。このOPTで就職しといて、発給条件が緩むのを待つ、という手もあるのですが、トランプの任期は最低でも4年。これは無理だろうと。

異常なまでに高い学費と費用対効果

第2に、費用対効果の問題。
アメリカ留学は、本当にお金かかります。僕の行ったNYUの場合大学院2年間で大体$70,000です。当時為替レートが$125だったので、約875万円。これに健康保険(留学生は強制的に入れられる)が$4,000x2年(約100万)。さらに、留学生は1学期強制的に英語クラスを受講させられるので、その学費が$10,000(約125万円)。ざっと、ミニマムで$88,000(約1100万円)です。
これに、生活費などの必要経費なわけですが、僕が住んでいたアパートは3 bed roomの1部屋を借りて$1200/月(約15万円)。光熱費が大体$50/月(約7,500円)が固定費。さらにですが、いちいち高いので節約しても$1000/月(約12.5万)はかかります。もちろんこれ以外に、教科書や文房具といった雑費もかかります。

なので、感覚的に、学費その他のミニマム料金1000万円+月次ランニングコスト30万(2年で720万)=1720万円ないと、無理です。これが最低限。多分足りない。MBAなら学費はさらに倍です。

それでも、覚悟はしていたので貯金と借金で乗り越えるつもりでした。
が、ビザの問題で、この莫大な投資の結果、得られるものは大学院卒の称号のみになってしまった。

そして授業で得るものの問題。非常にタフでしたが、内容的には全然ついていけました。FinanceやStrategyとか、一番受けたかった授業はAとれましたし。ただ、半分くらいはそうでもない。僕の学科はProfessional Schoolのマーケティング専攻なんですけど、プロ育成の割には随分物足りないと感じました。15年デジタルマーケティングやってきた人間からすると、大体想定内なんです。むしろ授業の方が遅れてる感じがする。クラスメイトや先生と英語でゴリゴリやり合うのは楽しかったしものすごく良い経験なんですけど、専門分野として得る知的満足感は結構低かったのです。僕的には。
トランプリスク背負って、さらにあと1年分、この授業のために学費払うのか、、と思うと、違うことにお金かけた方がいいんじゃないか、と思えてきたのです。

一つも単位落としてないのに期間延長

第3に、卒業までさらに1学期必要になったことで、トランプ・インパクトの一部と言えます。

留学生は最初の1学期を英語に費やす、と書きました。このため、2年で卒業するには夏休み中にも単位を取りに行きます。いわゆるサマースクールです。
ここで、想定外の出来事が。
なんと、卒業に必要な授業がサマーで取れない。正確にいうと、募集開始1秒で満席になってしまった。
なんでこんなことが起こったのかというと、トランプが発した敵対7カ国の入国制限という大統領令です。イランやシリアなどのイスラム7カ国からの入国制限を発表。これらの国の国籍保持者や親族は、新規に入国できなくなりました。このため、本来夏休みで帰国するはずの人たちが帰らないで授業をとってしまう。実際、スプリングブレイク(春休み)で一時帰国したインド系のクラスメイトがイエメン生まれだったために入国出来なくなりました。結局、ニューヨーク州やカリフォルニア州などの連邦地裁が違憲と判断し、既にビザを持っている人は基本的に入国可となり、彼女は春学期授業に参加できましたが、ケースバイケースで国外に送り返される人もいて、判断基準が不明瞭な状態が続きました。

トランプ大統領、難民・イスラム教7カ国の入国禁じる 大統領令サインは国際ホロコースト記念日
HuffPost(2017)

さらに、これに派生して、中国人留学生がサマースクールに殺到しました。理由は、トランプが中国批判を続けていたので、敵対国に追加されるリスクが出てきた。秋学期は締め出されるかもしれない。中秋節(中国のお盆。結構一時帰国する人が多い。)で帰ったら戻れないかもしれない、取れるうちに取れるだけ授業を取ろう、というちょっとしたパニック状態が生まれました。 もちろん学校も救済措置として追加クラスを設けますが、これも秒で満席になる。クラスメイトに聞いたところ、中国人留学生はWeChatなどでコミュニケーションを取りながら、可能な限り多めに単位を取っておこう、XX教授のクラスは比較的Aが出やすいから協力してAを取ろう、といったやりとりを頻繁に行なっていたそうで。中華コミュニティの情報収集力と殺到力、恐るべし。 結局、僕は取るべきクラスを一つ取れず、学生課に相談するも「今回は増設無理だから、どこか他のタイミングでキャッチアップしてくれ」とのこと。 そして、最後の修論クラスであるCap Stoneというクラスは全部履修完了していないと取れないので、本来CapStoneを取るはずの次の春学期を、その1クラスのために費やさなければならなくなったのです。 突発的な対応とはいえ、クラスキャパを管理できてない学校側もどうかと思いますが、僕がもっと早めに履修抑えていれば済んだことなので、甘かったですね。


まあ、そんなこんながありまして、授業の約60%を消化した2017年夏の段階で休学を決め、帰国しました。もしトランプが弾劾されてビザが変われば戻ろう、と自分を納得させる形で。
結局、ビザは緩和されず、トランプは弾劾されず、挙句の果てに2020年末にはCOVID-19で移民ビザは無期限発行停止となり、ていうか入国そのものが不可能に。その間に、F1ビザ(留学ビザ)の期限も超えてしまったので、事実上、僕はNYUを中退ということになりました。

おじさん留学のデメリットは持ち時間の無さ

結局、目標であった米国での仕事も、大学院の学位も得ることはできませんでした。
厳密にいうと、トランプ問題でコストも時間も1.5倍になったとしても、就職も学位も、お金と根気さえあればできたと思いますし、経済的な問題もなんとか解決できたでしょう。借金とか現地で奨学金もらうアクション起こすとかいろいろ。事実、月500ドルの返還義務なしの奨学金はゲットできました。支給前に帰国を決めちゃったのでもらってませんが。

お金の問題より、一番大きな問題は自分の人生における持ち時間の問題だったのだと思います。僕が当時45歳であり、既婚者であったことです。家計を支える人間として、ワガママ言える期間は限られています。もし30代独身だったら、絶対粘ったでしょうね。35歳までならトビタテJAPANやフルブライトなんかの奨学金も貰えたでしょうし、OPTビザで安月給で2年こき使われる経験もむしろ素晴らしいことでしょう。自分のためだけに使える時間の量と期間ってのは限られてるんだな、としみじみ思います。
やはり、おじさん留学は人生の残り時間との勝負であり、その持ち時間の少なさが最大の留学デメリットです。

では、僕の留学は失敗だったのでしょうか?
いろんな人に「運がなかったね」「大変だったね」と言われますけど、実は全然悔しくなくて、むしろすごくスッキリしています。ていうか、留学中にトランプ大統領爆誕とか、むしろ持ってるなと。

最大の財産はPerception Change

僕は留学で学位や専門知識、就業機会を得ることはできませんでした。それ以外に持ち帰れた財産はなんだったか。それは語学力だろう、と考えるのが普通だと思います。実際語学力はつきました。でも、それより1レイヤー上にある思考の変革ともいえるもの。それが"Perception Change"、直訳すると、知覚範囲の変化です。
日本語にすると意味不明というか、意味はわかるけどそれって何?という感じなのですが、実際にこのPerceptionの変化が一番の財産だと思っています。

Perceptionという言葉は、知覚の他に、把握や察知、悟り、感じ取る、という意味があります。ニュアンスとして、自分が感じ取って理解できる空間、というか認識できる次元が変わる、という感じでしょうか。物事の捉え方がガランと変わるような、今まで見えていなかったものが急に見えたような、見えていたものに対して新しい解釈や方向性が付与されたような。

これまでの人生の中で、仕事環境や生活環境が変わった時や、強烈な世界観を持った人に出会った時など、このPerception Changeに似た感覚はありましたがやはり、留学のそれと比べると、インパクトは比ではないと思います。思考と知覚の両面で、幅と深さ、そして更なる未開の領域、すなわち知の伸び代を手に入れた感じです。
ちょっと意味がわかんないですね。

エイリアンになったから得られる思考回路

エイリアン(Alien)。異星人のことではなく、異文化人の意味合いです。ラテン語で「外の」「その他」という意味を持ち、余所者、すなわち、特定の文化社会の外側の住人で未認識な存在というニュアンスを持ちます。英語のelseの語源でもあります。
ともあれ、アメリカ合衆国ニューヨーク市において、僕は一切の地縁がありません。親戚はもちろん、友達もいません。この状況で頼れるものは何か、というと、現地の法律と社会制度、留学先の学校のスタッフ、そしていろんなコミュニケーションを通じて新しく構築される人間関係です。
地方から大学に合格して上京した時に少し似ていますが、留学と異なるところは、まず言語が違うこと。そして、自己存在の証明が常につきまとうことです。これは、外国で生活しないと絶対に発生しないイベントであり、かなりの精神的負荷をかけるものです。でも、その負荷に慣れ、気が付いたら、以前とは全然違う思考パターンやものの捉え方を持っている自分に気付きます。それがPerception Changeの正体だと思っています。

長くなったので今回はこのへんで。
次回はもうちょっとそのPerception Changeの正体とやらを噛み砕いていきたいと思います。


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