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自創作小説『風は遠き地に』再構築秘話

そうだ、小説書いてたっけ

 最初は、小説を書く予定はなかった。
 コロナ禍で色々吹っ飛んで、約15年振りに気晴らしに戻ってきたお絵描きの世界。でも、昔のようには全然描けない。思ったイメージが、全く画面に投影できないのだ。愕然としてる中、Myマグカップとか作る流れで見つけたPixivFactryからpixivへ流れ着き、その中のコンテンツのpixiv Sketchで、とりあえずお絵描きトレーニングを始めた。ここでは毎日お題が出てるので、描くものが浮かばなくても強制的に描くネタが与えられる。子供が寝たあと、10〜30分のリミットを設けて、毎日チャレンジしだした。最初は、その時思いついた即席キャラでお題をこなした。その過程である日ふと出てきたのが、自創作小説『風は遠き地に』の主人公・啼義(ナギ)だった。確か、お題は"黒髪"。

 なんか自然に描いちゃったけど、思えばめちゃめちゃ久し振りに出会った顔だった。描いた表情は仏頂面で、横になんとなく「早く寝ろよ」と書き足した。夜中だったので。
 そう言えば、彼が主役の小説書いてたな。どこまで書いたっけ? いや待て。ほとんど進めずに未完で放置してあるぞ。どこかにあったはず。
 でもその時は、そのくらいしか思ってなくて、その後も啼義は時々、なんとなくお題イラストに登場するようになった。

 やがて、お題チャレンジには他にも、創作全盛期にいくらか描(書)いたお話のキャラたちが現れるようになった。うーん、けっこう放置してる設定や話があるなあ。感覚が戻って来て、記憶も戻ってきた。そのうち、啼義だけでなく、彼の相棒役であるイルギネスも登場し始め、やがてお声を頂いた。
「キャラの名前や、お話が知りたい」
 ううう。ついに言われたぞ。でもさ、今の作品じゃないし、語れるほどのものでもないのよな。と思っていたところで、これまた創作の神がいるのかいないのか分かんないけど、いいタイミングで掘り出してしまった。昔の原稿と、なんか挿絵みたいなのとか、色々。でもこれ、よく見たら最初に書いたの……27年前っ!?
 ちょっと待って。私の人生、もうそんな昔が存在するのっ!? 驚きつつ、怖いもの見たさで、書けてるところまで読み返してみた。
 ──ぐはぁ!!!
 100,000のダメージ!!!それは大変な衝撃だった。

掘り起こしてみたけど、設定が雑すぎる

 いやもうね。酷いなんていうもんじゃなく、むしろ恥ずかしいくらいに、20歳そこそこの当時の自分は、この作品にフラストレーションをぶつけていた。悪役は容赦なく悪く、啼義(ナギ)なんか、主人公なのに町の1つくらい平気で指一本で壊滅させてしまう。そこに渦巻く人たちの生活とか感情とか吹っ飛ばして、勢いだけで突っ走っていた。まあ、当時の自分の精神的な荒れ具合を見ると、このくらい支離滅裂でも頷ける。どんだけ世の中や、他ならぬ自分に不満があったことやら。今も、ないわけじゃないけど。
 でも。文章は悪くなかった。言い回しとか表現力は、20歳手前にしては渋くて変な引力がある。文章すらブランクの今の自分には、逆にこんなに書けない。これだけはまあ、評価できた。
 だけどまあ、設定が穴だらけだ。構成とかあらすじも、多分当時の自分にはあったんだろうけど、そこらへんの資料が見当たらないし、大筋以外はもはや覚えていない。
 そして、27年も人生経験が増えていれば、人の感情も世界も、こんなに単純ではないことは痛感しまくっている。このままではダメだ。とても発表できるレベルのお話にはならない。
 とは言え、ツイッターは呟きだからいいかって、軽い気持ちでその"大筋の設定"に合わせてちまちま露呈していたのが裏目に出て、「本編はいつ読めるの?」としばしば問われるようになった。恐るべしSNS。
 だけど、何度か啼義を描いているうち、なんか妙な親近感が湧いてきた。話の大筋は、最初に試練に突き落とされて、そこから這い上がっていく内容。自分が久々に描く主人公の啼義は全く笑わず、元々が愛想のいいキャラではないとは言え、笑顔そのものがイメージできない。これって今の、コロナ禍であれこれ八方塞がりから足掻いている自分や世間と、重なるんじゃない? だとしたら、今こそ書くべきなんじゃないの? というか、今の心のモヤモヤを、ここに乗せたらいいんじゃなかろうか。一緒にこの逆境を打破して、打ち勝ってみせたら、ちょっと前向きになれるんじゃない? そんな気になってきた。そうだ、これで行こう。そうして、メインテーマの"逆境の打破"が生まれた。

結局、ほとんど再構築

 そこから、設定の洗い出しと再構築が始まった。でも、今の自分から見て、そのまま使える要素は殆どなかった。
 啼義(ナギ)とイルギネスはともかく、各人物の背景がないも同然だったので、それぞれの人生についてはここで初めて考えたと言ってもいいくらい。宿敵ダリュスカインについては、通り名しかなかったし(あったのかも知れないけれど、資料が見つからない)。
 そして世界観。かなり"洋"だったけれど、啼義の名前が最初から漢字だったのを残すことに加え、文化の違いを導入し、山脈を隔てて和洋折衷にした。
 地図もなかったので、もういっそ最初から書いた。実は、地図は見るのも書くのも好き。気候や風土を考えることでリアリティを出したかったので、実際の地図と照らし合わせて、距離感も割り出した。創作から離れている間に、ヨーロッパの周遊、そして一人で思い立ってはあちこち旅に出ていたのが、ここで活きた。啼義が孤児となった理由も曖昧だったけれど、ポンペイの遺跡を訪ねた記憶から、噴火というモチーフを引っ張り出した。冒険ものであることは原案と変わらないけれど、昔の資料では、移動距離とか日数の計算も抜け落ちてて、そういうのもあらためて算出した。本当は言語の違いも出したかったけど、ファンタジーなので、あんまり説明的なことばかり出してもと思い、そこは割愛してある。
 そして人物。ある方向から見て正義でも、違う方向から見たら違うこともあるし、逆もあるということを、織り込みたいなと思った。どの立場であれ、そこに立つとそう見えるし、他から見て悪でも、当人にとってはそれが正しい信念だと思い込んでいたりもする。ダリュスカインは悪かも知れないけれど、彼の立場に立ったら、果たしてそう言えるのかと。乱気流に揉まれて生きてきた心の振り幅を、それぞれの人物の感情にどっしり乗せたつもりだ。おかげで多分にシリアスになっているけれど、時には酒場で盛り上がったりと、ちゃんと軽めな要素を混ぜてバランスとっているので、重さは現実世界とそんなに変わらないかと思う。現実世界でも、「すごく楽しい」と「すごく辛い」が、いつだって同じ世界で同居しているでしょ。

そして2021年秋、公開

 2021年9月に、いよいよ「小説家になろう」で最初の部分を公開した。少しして、好きな作家さんが公開していた「カクヨム」でも公開開始。迷ったけれど、既にイラストを公開している「pixiv」にも、結局公開することにした。
 物語は現在、起承転結で言うなら承。ようやっと、半分になるかどうかまできている。でももう実は、未完で放置していた原稿に書かれていた部分は、とっくに追い越している。原作をある程度使ったのは、第一章のダリュスカインとの死闘、そして第二章の始まりと、他一部分だけで、あとは現在の自分が、ブランク明けの語彙力と表現力の低下と戦いながら書いている。
 特にプロローグは、物語の出だしにも関わらずイチからの書き下ろしだけど、この部分は本当に、出産を経てこそ書けた部分。原作では、啼義がいきなり17歳で、そこまでの過程があまり考えられている形跡はない。その当時の自分は、啼義の17年の過程を補える創造力を持っていなかったのだろう。でも今回、彼の人生の過程が自然と想像できた。啼義と、父代わりの靂(レキ)との親子関係も、書いてみたら27年前と比べものにならないくらい深みが増し、第一章の最後は自分も苦しかった。こんなに切ない展開のはずじゃなかったのに。人生経験値が上がるのはいいことだけど、分かる苦しみも増える。でもそれは、糧にもなる。
 公開当初、なんせ2桁年数も創作の場を離れていた自分は、すっかり浦島太郎状態だった。だけどSNSのおかげで、いつの間にか読者様もじわじわ増えて、いいねや評価で応援頂いたり、DMで感想をもらったりと、27年前にひっそりと書いていた時に比べて、早くも認知度は格段に違う。なんて素敵な時代っ!と個人的には思っている。本当に励みになります。ありがとうございます。
 だけどさ、これまた困ったことに、昔より既に多くの方々に見てもらっている以上、今度こそ完結まで書き上げなければというプレッシャーはある。自分の軽い呟きから始まったものだけど、今こんなに応援してもらって、フェードアウトは許されない。ううう。それこそ、逆境を打破せよ自分。
 というわけで、老化する脳で、ない知恵を振り絞って集結させて頑張っていますので、どうぞ見守りお願いします。そして、あわよくばご感想など頂けたら、永久保存してニヤニヤしながら何度も読み返します。何卒よろしくです!!

『風は遠き地に』公開サイト
小説家になろう https://ncode.syosetu.com/n5601hf/
カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16816700428155671702 
pixiv https://www.pixiv.net/novel/series/7877578



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