アーティストとして働くために 公募がいいかアーティスト・イン・レジデンスがいいか

アーティストとして食べていくためには作品を作ることでお金をいただかなくてはいけません。
数十年前に比べて現代は公募やアーティスト・イン・レジデンスなどなど様々な仕組みがありますので、これらを活用するのはとても大切なことだと思っています。
私は過去、巨匠と呼ばれる人のもとでアルバイトをした経験がありますが、はっきり申し上げて巨匠のアドバイスは参考になりません。
「いい作品を作れば、評価されるんだよ」なんてアドバイスをもらっても、なんの意味もないと私は思っています。

写真家だけでいっても、世界中で写真家はすでに飽和状態です。ナショジオが写真家を大量解雇した件もあります。
いい写真を撮っていれば、それを認めてくれて仕事をくれる人がいるというのはもはや時代遅れだと思っています。
これが絵画や彫刻になってくるとさらに難しくなり、現代アートに関しては実力だけでなく、人付き合いも重要視されてきます。
「いい作品を作れば」なんていうのはもう通用しないでしょう。

アーティストが作品発表をする際、自分でギャラリーを借りて発表するなど様々な方法がありますが、費用面を考えると公募やアーティスト・イン・レジデンスを活用したほうがいいと思います。

まず、公募に関して。
日本だけでも年に何回も公募が行われています。
それらの情報は常にネットで探すしかなく、より深く情報を知りたい場合は芸術センターなどに足を運んで相談窓口を利用するべきでしょう。
写真だけでも、我が国には100を超える公募があります。
もしアーティストを目指しているなら、趣味性の高い公募は避けるべきでしょう。
なぜならもしそれらの公募でグランプリをとっても、実績欄に記載し辛い(または、記載しても意味がない)からです。
公募にはランクがあります。
新人作家向けやある程度実績がある人向けなどなどです。
それらのランクは応募要項に記載していませんので、過去の受賞作品例や審査員を参考に雰囲気を掴んでいかなくてはなりません。
公募というのはコンセプトをきちんと理解しているかが問われます。
例えるなら大学入試の小論文のようなものです。
なにを問われているかを理解し、それに答えられるかが重要になってきます。
なので「アートだから」といって逸脱しすぎたことをしても採用されません。
公募で賞をとったらどんどん仕事が来るのかというとそんなことはありません。
賞をとったらその実績を元に売り込んでいく必要があります。
どこにどう売り込んでいくのかというのはまた機会があれば記事にしますが、とにかく賞をとったら箔がつくという考えはもはや昔の考えで、現代においては賞をとるというのは名刺に連ねる肩書が一つ増える程度のことだと思ってください。

次にアーティスト・イン・レジデンスです。
アーティスト・イン・レジデンスというのは町に一定期間アーティストに住んでもらい、そこから受けたインスピレーションで作品を作って発表してもらうという取組です。昨今では、住民との交流やワークショップを重視しているところもあります。
アーティスト・イン・レジデンスは報酬が出ないもの、出るものがあります。
どちらがランクが上なんてことはありません。
公募に比べてアーティスト・イン・レジデンスの場合は目的がしっかりしていることが大切です。
なぜそこの地域にその期間滞在する必要があるのかをプレゼンする能力が求められます。
逆にいえば、公募に比べて応募時に作品のイメージが固まっていなくても採用されます。
その地域に滞在している間にアーティスト自身がどう変化したいのか、ということの方が大事なのです。
住民との交流を重要視しているところが増えてきていますので、完全に引きこもって自分が作りたい作品を作るんやと思っている人にはあまり向かないかもしれません。
レジデンスの運営母体は行政、町づくり団体、非営利組織など様々です。
そのため、レジデンスの運営者があまりアートの知識がなかったりもします。
よくある話で言えば、「写真家です」と自己紹介をしたら「この街の魅力を撮ってどんどん発信してください」なんて言われることもあります。
そういうのをストレスと思うこともありますし、打ち合わせを通してイメージが固まっていくことを楽しいと思えることもあります。
レジデンスの注意点はとにかく費用面です。
費用をいただけることもあれば、逆にこちらが払わないといけないこともあります。
応募要項をきちんと確認することが重要です。

あまり知られていませんがアーティスト・イン・レジデンスに参加したこともアーティストの実績としてカウントされます(費用は関係なく)。
レジデンスで良好な関係ができた地域とはレジデンス終了後も仕事が続いたりもします。
そういう意味では、私は公募よりもアーティスト・イン・レジデンスの方が好きです。

私がレジデンスに参加し始めた時、お世話になっているアート関係者に注意を受けました。
「あまりレジデンスばっかり行かないように」でした。

アーティスト・イン・レジデンスを転々とするというのはいわばフリーターに近い存在です。
レジデンスがいくら実績になるからといっても、それ自体は就職や仕事になんの好印象を与えません。
最近の「地域の交流人口になってほしい」と思っている自治体にとってはレジデンスを転々としているアーティストは、地域おこし協力隊を転々としている人に近く、あまり歓迎されなくなります。
今はアーティスト・イン・レジデンスのブームが来ています。
最近のレジデンスは地域の魅力再発見で行われることが多く、はっきり言うとアートの文脈からは少し外れてきていると思います。
その地域に対して問を突きつけるような作品は歓迎されないこともあります。
そういったレジデンスを実績やお金のためだけに転々とすることは、アーティストとしてあまりよくないと言えるでしょう。

私がアート業界に足を突っ込み始めた頃は、レジデンスに参加できるというのはもうそれはそれはすごいことでしたが、今はそうでもなくなってきています。

アーティストとして食っていくためには公募かレジデンスかなんて議論が行われもしましたが、私は両方活用するべきだと思います。
一方で、公募で賞をとったりレジデンスに参加したという実績だけでは評価されなくなってきました。
というより、「巨匠」という概念が揺らぎ始めているのだと思っています。
そういった意味では、アーティストの捉え方も今後変わってくるのではないでしょうか。


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